手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

まるで帝王 大谷選手

まるで帝王 大谷選手

 

 昨日(11月17日、アメリカでは16日)アメリカのスポーツ新聞記者が集まって、毎年恒例の今年の最も優れた野球選手を投票する会議、MVPが催されました。結果は昨年に続き、満票で大谷翔平選手がMVP に選ばれました。2年連続の快挙です。

 野球ファンならお分かりのように、今年の大谷選手は、満身創痍の状態でマウンドに立っていました。靱帯の痛みをこらえて、投手と打者の二刀流をこなしていました。無論普段はそうした苦労を見せずにいつもにこにこしながら野球をやっていたのですが、シーズン後半、ホームランを44本打った後、危惧していた問題が起きました。

 靱帯断裂です。それだけでなく、腰痛で立てない状況まで追い込まれました。多くのファンは「何が起こったんだ」。と驚きましたが、驚くにはあたりません。体を酷使し過ぎたのです。これによって、活動は一時ストップしました。

 時速160㎞のスピードの球を一日に100球投げ続けて、翌日にはバッターボックスに立って、ホームランを打とう、とうと言うのですから、これは無理です。どんな人だってこんなことをしていたら体に支障が来ます。むしろこの体でホームランが44本も打てて、ピッチャーとして、相手チームに10勝したことが奇跡です。

 靱帯の手術は幸いうまく行ったようですし、ここで大谷選手が休息することは、この先の大谷選手の活動を考えても最善の行為だと思います。それにしてもこの状態で44本のホームランを打ったわけですから、もし健全な状態だったら、あと10本くらいのホームランは打てたでしょう。

 エンジェルスとの契約が切れて、移籍が可能となった今、打者としての大谷選手に、期待をかける球団が出てもおかしくはありません。周囲は、800億円だとか900億円などと契約金の噂をしていますが、そうした相場に拍車をかけるように、二年連続のMVPです。誰もが驚きです。体調不良で途中降板してもMVPなのですから。文句なく全米一、いや世界一の野球選手です。

 

 スポーツニュースの記事はことごとく大谷選手の活動を絶賛しています。アメリカに初めてやって来た時の冷ややかな態度はすっかり消え失せています。アメリカの国は常にそうですが、勝てば王者です、勝っている間はみな絶賛します。実力こそが全てです。

 日本のように、人柄がいいとか、誰それの息子だとか、親孝行だなどと言う余計な尾ひれは付きません。飽くまで実力なのです。その分、力尽きたときには呆気なく人気も消えて行きます。アメリカとは単純明快な国なのです。

 それを理解した上で、私は申し上げますが、やはり二刀流には無理があります。以前からこの事は言っています。いま日本では、大谷選手の活躍を前にして、解説者の張本さんが、「二刀流何て草野球のすることだ」。と言った言葉を責め立てている人がいます。「張本は人を見る目がない」。と言うのです。そうでしょうか。

 私は張本さんの言っていることの方が正解だと思います。多くの人は、余りに大谷選手の体を気遣っていません。他人のすることだから無茶をする方が面白いのです。でも大谷選手のことを考えて、長く野球の世界で活躍してもらうには、やはり二刀流は無理です。

 「いや、そんなこと言ったら、MVPも取れなかったじゃないか」。と言う人もあるでしょう。そうでしょうか。私は打者であるだけでもMVPは取れたと思います。大谷選手の才能は決して小さなものではありません。打者としての実績を積み上げた上で、ホームランを繰り返して行けば、同様にMVPは取れたと思います。

 むしろ、今の活動を繰り返して行くことの方が危険です。これで長く野球選手を続けて行けるかどうかが不安です。張本さんの言うことは正しいと思いますし、周囲が張本さんを攻める資格はないのです。周囲は無責任としか言いようがありません。

 私は、これを機会に打者に専念したほうが良いと思います。打者としても十分実績を残せるでしょうし、スターであり続けるはずです。

 

 MVP受賞の知らせを自宅でインタビューを受けています。大人しそうな犬を抱えて、静かに座っている姿は、もはや帝王です。ユニフォームを着ているときは気が付きませんでしたが、随分体が大きくなっています。アメリカにいると自然に太っては来ますが、太っていると言ってもそこらによくいるデブとは違います。

 体を鍛えていますから余分な脂肪は少ないのでしょう。筋肉太りです。筋肉だけでこれだけの体になったと言うのが驚きです。全く理想の体型をしています。表情はいつもと変わらず穏やかそのもので、淡々と受賞の言葉を述べていました。

 

 大谷選手は、常に穏やかで、自慢をせず、言葉少なで物静かです。人に気遣い、人に優しく、贅沢をせず、…。と書いていると、宮沢賢治の「雨にも負けず」の詩を思い出します。そうそう、大谷翔平は典型的な岩手県民なのでしょう。

 日本人の持つ性格を最も鮮やかに表現して見せている人だと言えます。すばらしいことです。繰り返し申し上げますが、この先は二刀流を押さえて、バッターに専念してください。心がらMVPの受賞をお祝いします。

続く