手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

明日はマジックセッション

明日はマジックセッション

 

 深夜から降り始めた雪も、朝方には止んで来ました。明日の公演に影響しなければよいが、とそればかり心配しましたが、案じるほどではないようです。

 昔、名古屋の大須演芸場と言う劇場があって、そこはお客様が入らないで有名な劇場でした。そこの支配人は、雨が降ると空を見上げて。「これじゃぁ、お客は来んわなぁ」。と言いました。また、晴れていると、「こんなに天気がいいんじゃみんな遠出をして、寄席なんかに来んわなぁ」。と言っていました。傍にいた私が、「じゃぁいつなら来るんです」。と突っ込むと、「朝方10時まで雨が降って、外に出そびれた客が外出を諦めかけたときに晴れると寄席に来るなぁ」。と言いました。そんな都合のいい天気が年にそう何日もあるわけはないのです。何もかも天気任せでは上手く行きません。

 

 いよいよ明日(3月9日)、ヤングマジシャンズセッションが開催されます。集客状況は、S席がほぼ完売。A席はまだ30席ほど残っています。それでも、長いコロナ禍のころの不入りを思えばひと安心です。

 コロナのころは役所の通達で、観客を一人置きに座らせなければいけない。などと言う決まりを守らされていたのですから、理不尽極まりない話です。満席なったとしても半分しか観客を入れられなかったのです。そんなことをしたなら、催しをやればやるほど赤字になります。まさにコロナの3年半は逆風に時代でした。それが収まっただけでも喜ばしいことです。

 

 私が年間プロデュースしているマジックショウでも、東京と大阪のマジシャンズセッションは常にレベルの高い催しを維持すべく、メンバーを厳選しています。その効果はお客様から「内容がいい」、と言う反応を頂き、じわりじわりと浸透しています。

 3月は年度末であり、この東京の公演が済むと、平成5年度の、一連の文化庁の支援事業を終えたことになります。

 文化庁の支援が8年も続いたことは喜ばしいことですし、他のマジック団体では、奇術協会を除けば、国の支援は得られてはいません。マジックはもっともっと国から認められるような活動をすべきです。然し、なかなかそのようにはなっていません。何はともあれ、細々と活動を続けながらも、支援を受けて来たことに感謝しなければなりません。

 

 今回も私がセレクトしたメンバーを自信を持ってお届けします。ここでは一人ずつ私のプライベートな感想をお伝えします。

 

 川上一樹、その繊細な発想がいいです。ひょっとするこの人は数年のうちに、マジックをアートにまで引き上げるかも知れません。ピュアな清涼感のあるマジックです。いつでもマイナーチェンジを繰り返していて、細部が確実に進歩しています。これから間違いなく伸びて行くマジシャンです。

 

 うえし、もう8年くらい前、慶応の学生時代から見ています。初めは単なるマジック好きな学生だと思っていましたが、最近のアクトで一つ突き抜けました。FISMアジア予選に出るそうです。上手くクリアするといいと思います。昨年赤羽会館で見せたスライハンドのシンプルなアクトもいい出来でした。将来的にはあれを発展させてください。こんな人が育ってくると、日本のマジック界も厚みを増して行くでしょう。

 

 藤山大成、悩んでいます。苦しんでいます。何とかしなければならないと言う、その思いがステージにも伝わって来ます。昨年は台湾の大会で特別賞を得たようです。ただ、大成が目指さなければならないのは、マニアの世界の狭い評価ではなく、マジックを知らない人に「これがマジックだよ」。と言うと、みんながワッと飛びつくような、呆気羅漢としたアクトです。

 それが出来るようになれば、マジック界で大きなポジションを手に入れることができるでしょう。さて、今回はどこまで考えて来たのか。楽しみです。

 

 ザッキー、育ちの良さと人柄の良さが前面に現れているのが売りです。話術も、マジックも磨いてゆくうちには、アッパーミドルクラス以上の観客を取り込んで行けるマジシャンになるでしょう。そう言うマジシャンが日本には必要なのです。いいお客様を掴んだなら私にも紹介してください。

 

 橋本昌也、日本の若手マジシャンの中で最もバランスよく安定した演技を見せるマジシャンです。手順の作り込みが細部にまで行き渡っています。端々に見せる遊び心がとても洒落ています。NHKの常任指揮者をしているイタリアのファビオ・ルイーズの音楽解釈が、そんな感じで、橋本さんの演技の考え方とよく似ているように思います。

 精緻に読み込んだ上に作り込まれていて、それでいて重たくならず、洒落た音楽です。但し、完成された音楽はチャーミングにまとまっていて、派手さや桁外れな大きさはありません。常識的なお洒落なのです。狙いは充分結構なのです。でも、少しだけ冒険して崩れた姿を見せてもいいかなぁ。と思います。

 

 才藤大芽。もう10年以上も前に京都大学の学生時代に会っています。その後大阪セッションにも出てもらっています。元々巧い人ですし、和風バージョンの行灯と傘を出す手順は、粗削りながら面白いものでした。もっとやり込んでマイナーチェンジを繰り返したらいい作品に成ると思います。ただしこのところ少し悩んでいるのでしょうか。いろいろ他のことを始めています。大成と同じく、プロなら誰もが辿る苦労の道です。何かを掴み取って面白いアクトを見せて下さい。

 

 魔法使いアキット。変わった人です。他のどのマジシャンとも違います。ずっとずっと独自の世界を走り続けています。昨年は、トランスジェンダーを公表して、一時期苦しんだようですが、今でははっきり割り切って活動してしています。

 恥ずかしがらずに自分の世界をどんどん突き進んだらいいのです。支援者はたくさんいます。ぜひぜひアキットさんのピュアな世界を見せて下さい。と言うことで、今回のセッションのトリを取ってもらいます。期待しています。

 

 私を含めて8本と言うボリュームある出演者です。本数もさることながら、一人一人のアクトが個性的で、十分納得頂ける内容と確信しています。どうぞお楽しみにご覧ください。

続く

 

 明日お越しになる場合、特にS席に関しては、事前にお問い合わせ下さい。

2024年3月9日(土)。座高円寺2 17時30分開場。18時開演

S席 4500円。 A席 4000円。

03-5378-2882 東京イリュージョン