手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

第8回ヤングマジシャンズセッション

第8回ヤングマジシャンズセッション

 

 一昨日(3月9日)、座高円寺にて、ヤングマジシャンズセッションが催されました。陽気は良くなりましたが、まだ風の冷たい季節です。幸いお客様はよく集まりました。総勢8組による熱演の舞台で大いに盛り上がりました。以下はその感想。

 

 一本目、川上一樹。身長180㎝以上、少女漫画に出てくる主人公のようなマスク、タキシードを着て出て来ただけで客席が湧きました。赤いバラを持つと、花がシルクに変わり、そこからまたバラの花が出てくる、シルクを結ぶといつの間にかほどけ、更には結んだ結び目が空中でスローモーションでほどけます。独特の世界を見せて行きます。この世界をもっともっと突っ込んで行ったなら、シルクのオーソリティになって行くでしょう。

 

 司会はザッキー、陽気で元気のいい司会でお客様の心を掴んでいます。

 

二本目は、うえし。川上一樹同様に長身でイケメン。道路工事のバイトに扮して、突然覚醒してロックスターに変身。ストーリーが明快なため、観客の反応もよく、受けていました。もっともっとたくさんのマジックを入れ込んでもいいのではないかと思います。秋の中国でのFISMアジア大会まではまだ日があります。その時までにもっとマイナーチェンジを繰り返してして行けば、本選出場の可能性も高まると思います。

 

 三本目は藤山大成。一転して和の世界。煙管を持って構えた姿は浮世絵そのもの。センス、羽根、煙管、そして煙、素材を生かして様々な変化を見せます。初手に小さなミスをして、それがずっと尾を引きました。こんなことは普通に起こることです。気にせずに自身の世界を作り上げることです。

 私はかつて、フレッドカプスが冒頭に使った蝋燭が火が消し切れていなくて、テーブルの捨て箱の中でボヤを起こしたのを見ましたし、リチャードロスが冒頭でファンカードを床にぶちまけて、慌てて拾い集めた演技も見ました。然し、彼らはその後の演技に何ら影響を起こさせませんでした。強くなることです。

 

 4本目は私、藤山新太郎。袖卵と植瓜術(しょっかじつ)。袖卵はめったに演じることはありません。しかし、この手妻は様式が美しく、江戸の味わいを見せるいい手妻です。演技自体は終わりが寂しいので、卵の黄身を受けるためのグラスを取り出しています。これによって演技にまとまりが出来たように思います。

 この日は、アキットさんのお客様が大勢来ているためか、袖卵も、その後の植瓜術も、信じられないような好反応でした。自分の演技が受けたなどと言う話は余りに素人臭く、嫌みに聞こえるでしょうが、植瓜術でこれほど受けたのは人生でこの日が一番でした。

 植瓜術はマジックの歴史の中でも5本の指に入るほど古いマジックです。日本でも1300年以上の歴史があります。瓜の種を蒔くと芽が伸びて、弦が伸びて、瓜が生る、と言う単純明快なストーリーです。単純なだけに話を引っ張るための喋りが難しく、15分もかかる手順が、アマチュアでは喋り切れないのです。弟子の朗磨を使って掛け合いで演じる姿は1000年前の芸そのものです。朗磨はこの芸を気に入っているようです。9日の舞台で朗磨のファンが出来たようです。

 

 ここで10分の休憩。

 

 後半一本目は、ザッキーのチャイニーズウオンド。独自のアイディアを加えて、個性的な演技を作っています。喋りの得意なザッキーに向いた演技です。

 

 二本目は橋本昌也。いつものトランクのアクトではなく、ロープとスリーカードモンテ。ロープは、大小のロープが長さが変わる手順と、結び目の移動、それに胴体を貫通するロープを巧くつなげて演じています。テンポが心地よいため、お客様は面白がって見ています。スリーカードモンテは、ジャンボーカードを使ってのお馴染みの物ですが、小さな工夫がされていて、見ていて不思議です。彼の通常のステージアクトが見られたのは幸いでした。

 

 三本目は、才頭大芽(さいとうたいが)。この人は演じる種目によって演技のスタイルを大きく変えます。行灯と傘のバージョンは今回休み、ディライトの光のマジックを前半に演じ、後半はリンキングリング。光も独自の工夫があって不思議。後半のリングは、当人の動きが個性的で、動きで押しまくって見せるようなアクトでした。いずれにせよ、この人がそんなマジックをするとは思わず、別の一面が見られたのが収穫でした。

 

 その後、ザッキーのライジングカード。ザッキーは大活躍です。

 

 4本目は魔法使いアキット。昨年アキットは、自らトランスジェンダー性同一性障害)であることを公表し、今回初めて女性の服装でステージに立ちました。長い間自らの性に随分悩んできたようで、心と体が一致しないことで、友達も出来ず、ずっと一人で閉じこもっていた時代があったそうです。

 その心を開くきっかけになったのがストリートパフォーマンスで、人の喜ぶ顔を見ているうちに自分の人生の目的が見えて来たそうです。今回も、ストーリ性のあるアクトから、クロースアップ、そして砂絵まで、たっぷりの内容でお客様を楽しませました。ドレス姿もよく似合っていました。

 演技終了後にはカーテンコール迄あり、さらにロビーにお客様が集まり、なかなか帰ろうとしないため、ロビーが大いに盛り上がりました。

 

 さて、終演後は、アキットさんと一緒に、窯鉄のピザ屋さんに行きました。どうもアキットさんは私と話をしたいらしく、アルコールを飲みながら、随分いろいろな話をしました。女性の化粧の儘外に出ることも珍しいらしく、周囲にばれないかどうかを気にしていましたが、化粧が巧いのか、なり切ってしまっているのか、全然問題なかったように思いました。この時話したことは、公表できないこともあり、又何年か経ってからお話しします。

 

 さて、8回目のセッションは終わりました。いいお客様に助けられて会は盛り上がりました。ここから一人でも外の世界に影響力を持つマジシャンが出て来たなら、セッションも大きく発展して行くでしょう。ここから先は私の力と言うよりも、マジシャンがそれぞれ大きくならなければどうにもなりません。そうなる日を心待ちにしています。

 続く