手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

戦争の真実

戦争の真実

 

 三日前の日曜日(2月25日)にNHKのスペシャル番組で放送されたウクライナのドキュメント番組は衝撃でした。ウクライナ兵が自分たちでスマホで撮影した戦争の映像をつなぎ合わせて、兵士が語るリアルなロシア軍との戦いを番組にしたのです。

 このところ、NHKのスペシャル番組は、武器輸出の疑いをかけられた、大河原工業の冤罪事件と言い。今回のウクライナ戦争の特集と言い、事件の突込み方が鋭く、映像も生々しく、見ていても深く考えさせる番組が続いています。こうした番組を作らせるとNHKは他のテレビ局を圧倒して優れた力を見せます。

 ウクライナのニュースは、これまでも、民放各社が毎日のように放送していますので珍しいものではないのですが、実際に戦争の現場で携帯電話で撮影したフィルムをまとめ、しかも、撮影した兵士にその時の状況を聞き、実際の戦争がどんなものなのかを詳しく伝えていると言うのは、無駄な脚色をせず、説教臭さもなく、自然な番組作りが視聴者の心を打ちます。

 例えば、ドローンの攻撃を見ても、攻める側は、指令室でドローンを操作し、ドローンに取り付けられているカメラを見ながら敵地の様子を見て投下します。その姿は全くゲームで戦争ごっこをしているのと同じですが、現実には随分様子が違います。

 その映像に映る敵兵、すなわちロシア兵の顔までが見えます。迷路のような塹壕に籠って移動しているロシア兵が、遠目に見るとネズミや、害虫のように見えます。そこへドローンを投下しますが、実際狙いを定めたロシア兵が殺戮される瞬間に、頭上にいるドローンに怯えている顏まで見えました。

 塹壕の中で逃げ回っているロシア兵を見て、私は、昔、家の庭で飼っていた犬を縁側で膝に乗せ、犬の背中をかき分けて、蚤を追いかけ、親指の爪の先で蚤を抑え込んで一匹一匹潰したことを思い出しました。

 それが蚤ではなく、人間を殺傷して行きます。あんな風に簡単に人を殺戮するのを見れば、「ひどい、無謀だ」。と思う視聴者もあるでしょう。然し、これは同時にロシア軍も同じことをしています。ウクライナ兵の塹壕にドローンが落ちて来て、ウクライナ兵の命を奪って行きます。

 

 同様に地雷に遭遇する画像も出て来ました。ジープから数名のウクライナ兵が降りて、敵陣に向かって歩いていると、一人の兵士が突然地雷を踏んで吹き飛ばされます。人はいとも簡単に自分の背丈の数倍も吹き飛ばされます。落ちて地面に叩きつけられて、身動きできなくなります。怪我のほどは分かりませんが、骨折は間違いないでしょうし、直接地雷に触れた脚は衣服の中で粉々になったのではないかと思います。

 またある兵士は、地雷を踏んで、片方の足は全く動かなくなりました。恐らくズボンの下で切断されてしまったのではないかと思います。このまま野原にいては出血多量で亡くなるでしょうが、不幸中の幸いに、自力で片足で引きずりながら、ジープに乗り込んで命が助かります。後日、テレビの取材で、切断した足を見せています。

 いつの時代でも戦争は悲惨なものですが、現代の恐ろしさはすべてが映像でリアルタイムで進行して、記録として残ることです。足を切断した兵士も、自分がどういう状況で地雷を踏んで、どうなったかを後で画像で見ることができるのです。

 多くの兵士は、体に損傷を受け、或いは精神障害を被り、一度自宅に戻って、家族とひと時の生活をします。然し、政府から呼び出しを受けたときには、再度兵士となって戦いに出ます。それは、自分たちの義務として、国に求められれば、二度と行きたくない戦場にも、再度出て行くのです。

 多くのニュース番組では、被害者の悲惨な映像はなるべく映さないようにしているのでしょうが、先週の日曜日のNHKスペシャルではかなり踏み込んで、被災者を映しました。きっと多くの家庭でこれを見て複雑な気持ちになったことだと思います。人が地雷で吹き飛ばされたり、負傷を織ったりする場面を映像に流すのはいけない。と言う人もあるでしょう。

 然し、ともすると、戦争とゲームを混同している若い年代の人がいることもまた事実です。現実に負傷すれば命を失うこともありますし、足を失うこともあります。そして、負傷した兵士は、その後も被害を背負って生きて行かなければなりません。

 そのことをNHKスペシャルは現実をぼかしたり、そらしたりせず、そのままを伝えていました。今まで見たウクライナ関連番組の中では並外れて戦争のむごさを伝えています。そして、それでも戦いに出かけなければならないウクライナの人々を見事に伝えています。

 「戦争はいけない、すぐにやめるべきだ」。とは誰でもいえます。然し、全く一方的にロシアに攻め込まれてきたウクライナにすれば、今ここで戦争をやめることは出来ません。やめればウクライナ全土を失うことになります。一度国を失えば、この先百年二百年ロシアの圧政の中で不平等な地位に置かれるのです。かつてのウクライナそうであったように、この先、また同じことが繰り返されるのです。

 戦争はいけない、平和国家であるべきだ。と日本の大人は言います。然し、ひとたび攻め込まれたなら、平和も戦争反対も通用しません。戦って国を守る以外ないのです。

 自国の独立を維持するために、ウクライナは戦っているのです。戦争はいけない、やめた方がいいと言うのは当然です。誰だって戦争はしたくないのです。ロシア兵だってそう思っているはずです。ましてやウクライナ人にすれば自らこの戦いをやめることは出来ないのです。やめたら国が無くなってしまうのです。

 平和を唱えていれば平和であり続けることなどあり得ないし、戦争反対と言っていれば戦争が起きないことなどあり得ないのです。いざとなったら自分たちもウクライナ人と同じように戦わなければならないことを教えてくれたNHKスペシャルに拍手喝采を送ります。

 続く