手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

ヘルソン奪還

ヘルソン奪還

 

 この一週間でウクライナの戦いは新たな展開を見せました。ロシア軍は、クリミア半島を維持するために、対岸の土地、ヘルソン州を維持しようと多くのロシア軍を配備していました。ロシアにとってはクリミア半島は、黒海全体を見渡せる天然の要塞であり、良港でもありますから、何としても押さえておきたい半島です。

 そのため一方的に9年前、クリミア侵攻をして、ロシア領としました。この時のウクライナは、今回のような防衛設備も整ってはおらず、軍備も未熟でしたので、されるがままに取られてしまいました。

 ウクライナにとっては、クリミア半島を取られたことは痛恨でした。ウクライナと言う国は、大きな庭石のような横に長い形をしていて、三方を他国に囲まれています。唯一南部のみ、黒海に面していて、幾つかの港があります。その港を見渡すかのように、クリミア半島があって、はるか昔から軍事基地としてクリミア半島は栄えてきました。

 そのクリミア半島を易々占領されたことはウクライナにとっては大きな損失で、その後に、軍備の拡張、戦力の増強を図り、国民への軍事訓練をするなどして、次に来るであろうロシアの侵攻に備えていたわけです。

 それが今年の2月になって、ロシアはウクライナ全土を取れると判断したらしく、大軍を持って、首都のキエフや東部のハルキウ周辺に戦車を並べて、一気に攻め立てようとしました。これだけの大軍を見たなら、これまでのウクライナならたちまち戦力を喪失して、すぐさま降伏すると考えていたのです。

 しかし、現実にはそうならなかったのです。クリミア半島を取られたときに、次はウクライナ全土を狙ってくる、と、ウクライナは予測しました。事ここに至って、国を失うか、戦ってロシアを追い出すかの二択の道を選んだのです。戦争することがいいのか悪いのか、そんな話ではなく、戦わなければウクライナと言う国そのものがなくなってしまう。そうなら戦わざるを得なかったわけです。

 ウクライナは9年前からロシアとの全面戦争が必ず来ることを覚悟していました。当初は、ウクライナ一国でロシアと戦って、勝てる可能性はゼロだったでしょう。と言って周辺の国々はロシアの強さを知っています。どこもウクライナに協力しようとは言ってこなかったのです。勝てる戦いではなかったのです。

 然し、捨て身の戦いは、多くの国々からの同情を集め、NATOアメリカからの支援を得ることに成功します。これは、無論、ロシアによるクリミア半島の侵攻以来、長い時間をかけて、アメリカやNATOと交渉をしてきた成果なのでしょう。

 

 ウクライナにとって幸いだったことは、ロシア軍が思いの他の弱体化していたことでした。武器も旧式で、長期の食料も持参して来ておらず、兵士の士気も低かったのです。試しに手に持った、対戦車砲や、ドローンでもって、戦ってみると、次々に戦車は破壊され、ロシア兵が敗走して行く姿を見て、ウクライナも、NATO軍も「おや」、と思ったようです。

 これなら、安価な投資でロシアに勝てるかも知れない。当初、アメリカも、NATO軍も、ロシアに勝つためにはどれほどの投資をしなければいけないかと、ウクライナへの協力は及び腰だったのですが、案外簡単にロシア兵が敗走する姿を見たときに、やおら戦争協力に動き出したのです。

 開戦一か月で、首都キエフ周辺のロシア軍を敗走させたことで、ロシアは、ウクライナ全土の制圧を早々に諦めます。やむなく、東側のロシアと陸続きの工業地帯を固め、同時に、クリミア半島とヘルソン地域を守る作戦に変わります。

 そこで、ウクライナ軍は、東のハルキウ州の奪還を計画します。東はロシア軍が大挙して占領しているため、苦戦を予想していたのですが、実際には、ロシア兵の戦意が低く、次々に陣地を離れて敗走して行きます。たちまちのうちにハルキウ州を奪還します。そこで、急遽、先月末からクリミア半島ヘルソン州の奪還作戦に出ます。

 そして数日前、ロシア本土とクリミア半島をつなぐ国道に架かるクリミア大橋を爆破します。小さな橋は既に爆破されています。クリミア半島は、その地形から、クリミア大橋を通ってしか武器や物資の輸送が出来ません。

 ここでクリミア大橋を爆破されると、クリミア半島は孤立します。船の輸送は出来ますが、多くの人の生活は船では賄えません。まさに兵糧攻めの状態になります。

 ロシアにすればクリミア大橋はクリミア占領後に巨費を使って建てた自慢の橋です。日本で言うなら、本四架橋、関門橋のような大動脈です。これを壊されてしまっては威信にかかわります。さぞやプーチンは悔しかったことでしょう。

 ここでロシアは大慌てになります。既に占領しているクリミア半島と、東部南部合わせて4州の地域を既成の事実としてロシア領として宣言して、早いところ休戦協定を結ぼうと考えていたところが、ウクライナはクリミア大橋を爆破したことで、安易な休戦はあり得ないと知らしめたのです。つまりこのままでは4州も手に入らず、ロシア軍全軍がウクライナから退却しない限りこの戦いは終わらないと宣言されたのです。ここに至ってプーチンさんは八方塞がりになりました。

 

 更にゼレンスキーさんは、数日前に、「日本の北方領土をロシアが不法占拠している行為は許せない」。と日本にエールを送って来ました。突然の話で日本政府は何も返事をしていませんが、長年話せばわかると言って、70年間ロシアと話し続けて、結局なにも返ってこなかった事実を何と考えるのでしょうか。

 ゼレンスキーさんが北方領土に言及したことは、日本とロシアの間に領土問題があることを世界に知らせるチャンスのはずです。にもかかわらず日本は無言です。ここは淡々と事実を伝えて、ロシアに返還を迫るのが筋でしょう。黙っていては永久に領土は帰りません。

 ウクライナは戦うことで自国の領土を守ろうとしています。日本はウクライナに口添えしてもらってもなお、自国の領土を取り戻す発言をしません。寂しいですね。それで北方領土が戻りますか。いい蟹が腹いっぱい食べたいと思ったら、その前に言うことは言って、世間に強く訴えなければ豊かな生活は出来ないのです。

続く