手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

GDPなんて関係ない

GDPなんて関係ない

 

 昨年、GDP世界第3位だった我が国が、ドイツに追い越されて、第4位になってしまったと聞きました。「さぁ、大変だ、国力がどんどん落ちている」。「やがてイタリアにも抜かれるかも知れない」。「日本はもっと売れるものをたくさん作らなければいけない」。テレビのコメンテーターがいろいろ言っています。でもGDPなんてどうでもいいことです。

 私が物心ついてからは、ずっと日本は世界第2位の生産量を誇っていました。それはいいことには違いありません。然し、その生産を維持するために、昭和に生きた両親たちは、残業に残業を重ねて、毎日10時間以上も働いていたのです。土曜日も残業、日曜日も会社に呼び出されて残業。無論手当は付きますが、結局働くばかりの人生だったように思います。

 GDPのお陰で豊かさを手に入れたかと言うと首をかしげてしまいます。確かに、カラーテレビや、クーラー、ステレオ、冷蔵庫などはどんな家でも持てるようになりました。でも、それらを手に入れるために、毎日満員電車に乗って、家は会社からかなり離れたところに建売住宅を建てて、そのローンが30年間も生活を縛り付け。それがために夫婦が連日必死で働かなければならなかったではありませんか。

 そんな生活が本当に幸せだったのかどうか。GDP世界第2位と言えば聞こえはいいのですが、その実態は過酷な労働を強いられて生きている、たこ部屋のような生活環境だったのではないですか。

 そしてようやく手に入った建売住宅も、ローンを払い終える30年経った頃にはガタガタになって建て替えをしなければなりません。日本の建築屋さんはなぜあんな安っぽい家を建てるのですか。ちゃちな家のために、一生家のローンに縛り付けられたのです。

 家と言う、高価な買い物をしたにしては日本の家は余りにお粗末ではないですか。私の両親が買った家は、壁はベニヤ板。階段は狭く、這うようにして二階に昇りました。トイレもしゃがんで座れば両手も伸ばせませんでした。風呂場も手足を伸ばして入れず、どこもかしこも狭い家で、しかも安普請でした。夫婦の人生で、一番よく働ける時期に投資をして建てた家がこんな家でした。それが、なぜ30年で壊れてしまうのですか。

 日本に暮らしていると、お金の値打ちが全くないではないですか。それが貧国ならわかりますが、世界第2位のGDPを持つ国だと言われたら、GDPなんて大ウソだとすぐ気付くはずです。そんな栄冠ならいりません。

 「日本は国土が狭いから、家が狭くても仕方がな」。と言う人がありますが、もしそうであるなら、いま日本の人口が減少している現実を、なぜマスコミは深刻な顔をして悩むのですか。1億3千万人が住む日本が、10%人口を減らせば、今より相当に広い家に住めて、通勤ラッシュを経験しないで生活が来るのではないですか。

 つまり日本で生活をすると言うことは、自分以外の人のためにいらぬ不便を強いられることなのでしょう。もし人口が減少して様々な混雑が緩和されるなら、こんなめでたいことはありません。そうなら人口減少はいいことのはずです。そんな喜ばしいことをなぜテレビや新聞は報道しないのですか。

 「人が少なくなれば物が売れなくなる。そうなると生産が落ちる」。と、したり顔で言う経済学者がいますが、当たり前じゃないですか。でも、それがどうして不幸につながるのですか。そうなら日本より人口の少ない、フランスや、イギリスは不幸でしょうか。人口が少ないことで幸不幸が決まる話なんて嘘に決まっています。

 そもそも日本列島に住む人口は 一体何人が適正なのですか。国土のサイズがほぼ日本と同じのドイツが、9千万人の人口だそうです。ドイツの方が、平地が多く、耕作地が多いので、実際の日本との比較をしたら、同じ国土の広さでも日本に9千万人が住んでいることの方が、ドイツよりはずっと狭く感じるでしょう。

 そうなら、日本が、ドイツ並みの快適さを味わおうと考えたなら。人口6千万人くらいが適切なのかもしれません。いいじゃないですか。3割でも5割でも人口を減らしましょうよ。そうすれば、会社から1時間以上もかかる所に30坪の建売住宅を買う必要はなくなります。

 人口が減ったなら、中古の家がたくさん売りに出されて、家の価格は思いっきり下がります。「古い家なんか嫌だ」。なんて言ってはいけません。イタリアやドイツでは築300年何て言う家が普通に新聞の折り込み広告に入って来ます。モーツアルトや、ベートーベンが暮らした時代の家がいまだに商品として売買されているのです。

 しかも欧州ではそうした家の価値は結構高価なのです。皆さんの中で、かつて十辺舎一九が住んだ家があったら借りたいと思いますか。写楽が住んでいた家があったら借りたいですか。実際ヨーロッパにはそれを喜ぶ人がたくさんいて、レンタルされたり、売りに出されているのです。

 その価格も都市部ではかなり高価ですが、農村であったなら、家一軒は300万円とか500万円で売りに出されているのです。広い重厚な煉瓦造りの家、広い庭、アンティークな家具がついて、300万円、500万円です。そうなればもう家のローンに苦しむ必要がなくなります。満員電車もなくなります。

 実際ドイツ人やフランス人は、自転車で会社や役所に通勤している人がたくさんいます。昼食は、家に帰って食事をする人が普通にいるのです。高校、大学も過当競争をする必要がなくなります。もっともっと快適な暮らしが送れるはずです。

 世の中には、GDPが第10位、20位でも、日本よりずっと豊かに暮らしている国はたくさんあります。東欧の国々などは、実際の個人の生活は、家は広いし、自然は豊かだし、中心街も石造りの立派なビルが並んでいます。そこで生活している人たちは、賃金は安いかもしれませんが、決して貧しい暮らしをしているようには見えません。こうした生活ができるなら充分なのではありませんか。

 生産力を上げて、物をたくさん作るよりも、もっともっとみんなが質的に豊かな生活を目指して生きることの方が大切なんじゃないかと思います。GDPなどと言う得体の知れないものを追い求めても意味がありません。もっともっと生活の豊かさを実感できることにお金を使ったほうがいいでしょう。

 だからGDPなんてどうでもいい。ドイツに負けたっていいのです。そもそも今回、GDPが下がった理由は、別段日本人が働きが悪いから下がったのではなく、ドルの価格が上がったことで、円の価値が大幅に下がったことが理由です。

 それでも日本の景気は上がっていますので、年内には第3位か、或いは、中国の経済が極端に悪いので、また第2位に戻るかも知れません。いずれにしてもGDP なんて我々の生活には何ら関係ないのです。

 何にしても、真面目に働くことは大切ですが、働いた結果、もっともっと価値あるものを手に入れて、日々豊かに生きることの方が大切です。よその国と比較をしても自分の幸せは手に入らないのです。

続く