手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

十年目の真実

十年目の真実

 

 一昨日(7日)は、「マジカル・アーツ・フォーラム2024」と題しまして、日本マジックファンデーションが主催するマジシャンによるディスカッション。「十年目の真実」が開催されました。私はパネラーとして参加。場所は、大塚ドリームシアター。15時開始。参加者23名。参加費2500円。

 この催しは10年前から開催されていて、毎年、優れたマジシャン、マジック関係者を招いて、マジック界の現状の報告をし、更に未来の指針を語って行こうと言う企画です。

 10年前の一回目は、小野坂東、前田知洋、安田悠二、峯村健二、私の5名がパネリストとなっていろいろな提案を致しました。こうした企画はこれまでのマジック界にはなく、建設的な催しでした。

 その後、しばらく、コロナによって中断しましたが、久々の開催です。

 今回のパネラーは、ボナ植木、ケン正木、私の3人、進行が田代茂です。14時30分、大塚ドリームシアター着。この劇場は初めて伺う場所です。ほぼ駅前にあり、一階が焼肉屋さんで、その地下にあります。

 劇場と言ってもせいぜい30人くらい入ればいっぱいでしょう。舞台も客席も小さく、日ごろどういう使い方をしているのかはわかりませんが、クロースアップショウや、サロンマジックなどの会をするには手ごろな場所です。楽屋も劇場サイズに比較してまぁ、まぁのサイズ。

 私は10年前から、この催しには和服で参加しています。役割を鮮明にするために、保守本道を語る立場でそんな風にしてみました。この日もあずき色の着物に、薄茶の羽織で伺いました。マジックの世界で手妻(日本奇術)は、今ではまるで流行のように、多くのマジシャンがやっていますが、普段和服を着る人はなかなかいません。

 でもそれで、伝統芸能を継承する立場になるでしょうか。和は和の立場に立ってものを見なければ和にならないと思います。和を演じることで社会の中で自分の立ち位置がどこにあるのか。それが分かって演じなければ、手妻をする意味はないのです。

 

 さて、今回は、ちょうどこの催しが10年経ちましたので、「10年目の真実」と題して、10年前にどんなことを言っていたのか、当時は何が流行っていたのか。等々の話を田代氏が伝え、ディスカッションに入りました。前半1時間が、過去10年までの話、間に休憩をはさみまして、後半1時間が、将来のマジック界の話をしました。

 実はこの催しは、私が発案者で、なぜこの企画を思いついたのかと言うと、2012年のFISMオランダの大会で、コンテストのほとんどの分野で韓国勢に押され、優勝はユ・ホジンがチャンピオンになった年でした。それまでのアジアでの日本優位がすっかり崩れて、以後、韓国台湾が力を付けて行ったのです。

 私は、FISMにさほどの興味もありませんでしたが、その前の北京大会に私が出演していた時に、コンテストでの日本人の入賞は加藤暢一人、しかも加藤は学生と言う状況を見て、日本勢の不甲斐なさに愕然としました。そして3年後のオランダではついに韓国がチャンピオンを出したのです。

 毎回毎回日本ではアマチュアがFISM 熱に浮かれて、たくさんのチャレンジャーがしのぎを削っていました。然し、いざFISMの大会に出るとFISM70年の歴史で誰一人として、日本人はチャンピオンになっていないのです。

 FISMはヨーロッパ人主流の大会ですので、実際、日本人が人種差別を受けているのではないかと、勘繰られていました。実際、1979年の真田豊実の場合はどう考えても差別でした。然し、2012年に至って、韓国からチャンピオンが出たと言うことは、最早人種差別が原因にはならないと言う証明となったわけです。

 そうした状況を見て、日本のマジック界を見たときに、日本からチャンピオンが出ないのはなぜか。と考えたときに、マジック界に指針が見えないからではないかと、私は思いました。

 アマチュアのマジック組織は、マジックを習うことと、ボランティアに出演することにばかり専念していて、プロを育てようとか、若いプロを支援しようとか、広い世界のマジックを見ようとはしません。そのことは学生のマジッククラブも同じで、種を知ること、マジックをすることにばかり集中していて、外のマジックとの交流がされません。

 仮に、FISMで入賞して、プロになったマジシャンがいても、彼らを次回には何とかチャンピオンにしてあげよう。とか、彼らを支えてあげようとするマジックの関係者が殆どいないのが現状です。有能な人材を育て上げることが、マジックの興味を一般の観客に提供する結果となり、マジックのグレードが上がって行くことになるはずなのですが、多くの愛好家はそう考えてはいないようなのです。

 殆どのアマチュアは自分がマジックをすることにのみ興味があって、マジックの社会に関してはほぼ無関心です。そんなことではいけない、もっともっと次に出てくるマジシャンをみんなで支援しなければいけない。

 そのことを誰かが、マジックの世界に入ってきた人たちに話す場が必要なのではないか。そう考えてマジックフォーラムを開催したわけです。

 さて10年経って、その状況は少しは変わったかと言うと、正直あまり大きな違いはありません。但し、こうした場を使って、世界の流れがどこに向かおうかとしているかと言うことを話をするようになった結果、少しずつ愛好家には伝わっていると思います。

 同時に、プロマジシャンでリーダー的な立場にある人は、自らが高い位置に立って、人前で、しっかりとした考えを伝えることは大切ですので、この機会にぜひ、自分の考えを伝える勉強をしておいた方が良いと思います。

 前半1時間が過去10年の話、後半1時間がこの先の話。将来的に日本がどうしなければならないか。いろいろ面白い話が出ました。ボナ植木がコンテストに出た理由は、コンテストで入賞するよりも、欧州のテレビ局に自分たちの演技を売り込みたいからだ。と言っていたのは、プロとして正解です。

 

 ディスカッションの後、ケン正木のマジックショウ。ボナ植木のレクチュアーと盛りだくさんの内容。サービスは結構ですが、いつしかレクチュアーなどが主目的になって行って、トークショウが付け足しになって行くことを危惧します。

 私はトークショウを終えて、一足先に帰りました。いろいろな催しに参加したり出演したりして、一年がアッと言う間に過ぎて行きます。充実した日々だと言えばその通りですが、でもこれだけではいけません。もっともっとやることはたくさんあるはずなのです。何とかもう少しマジック界を前進させたいと思います。

続く