手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

良い話

良い話

 

 私はいつも、悪いことが続くと、「あぁ、今が人生の底なんだろうなぁ」。と思います。つまりその時を底と思えば、それから先は良い運勢が上向いて行くようになると考えるのです。

 上手く行かない時と言うのは、何をやっても裏目裏目に出て、まるで世の中が自分をいじめているかのようにつらい思いをします。そんなことが続くと、いつか人はいじけて行き、自分は何をやっても駄目なんだと、やる前から諦めの気持ちになって行きます。

 マジシャンになりたての頃、仕事がなくて、暇でしょうがないなんて言う時期がありました。自分が世の中の役に立っていないのではないか、と言う疎外感と、このまま誰からも認められずに終わって行くのではないか、と言う恐怖心とで日々心が休まる時がありませんでした。

 巧く行かないときは、社会を見渡しても自分の居場所が見つからず、周囲の人がみんな冷たい人のように思えるものです。ところが、私の経験でも、そんなマジシャンにも、何かのきっかけでひょこっと人生が良くなることがありました。

 世の中はそうそう悪いことばかりではなく、悪いことが続いても、そう長くは続きません。それはちょうど一日の天気が晴れたり曇ったりするように、人生も晴れもあれば曇りもあるわけです。

 一旦晴れ間がさしてきて、人生がよくなれば、周囲の人は決して自分を悪く思っていたわけではなく、むしろ私自身が小さく縮こまっていたことが成功を遠ざけていた原因だったりします。つまり上手く行かない理由は自分自身が頑なに心を開かなかったからであり、周囲の人は私の心の変化が起こることを待っていたかのように、人生が良くなった途端にみんなが集まって祝福してくれる時が来るのです。

 人生が良くなるきっかけと言うのは様々ですが、良くなる時は、ほんのささやかなきっかけから生まれます。突然長いあいだ付き合いのなかった仲間や先輩から電話がかかって来て、大きな仕事を持ち込んで来てくれたりします。

 「ずっと連絡もなかったのに、今になってどうして連絡をくれたの」。「いや、連絡したいとは思っていたけれども、何も用事がなければ話すこともないからさ。でもずっと気にかけてはいたんだよ」。そうです。人は、連絡などしあわなくても互いを気にはしているのです。それが何かのきっかけで。仕事につながったり、新しい付き合いが広がったりします。世間は自分を無視していたわけではないのです。

 何でもかでも仕事に結びつけようとするのは下品ですが、自分にとって利益になるとかならないとかは一度脇に置いて、縁があればなるべく人と付き合いを大切にしたほうが良いでしょう。そうして付き合いを広げて行かないと、どんどん付き合う人の範囲は狭くなってゆきます。

 また、一旦芸が光り出すと、いつもと同じように舞台に立って演技をしていても、明らかにそれまでとは受け方が違ってきたりします。「あれ、どうしてこんなに受けるんだろう。まぐれだろうか」。と思っていると、次の仕事場に行って同じ演技をしても、明らかに反応が違って来ます。何が変わったのかはよくわかりませんが、急に光が当たり始めます。

 芸能の進歩と言うのは、一歩一歩階段を上がって行くのではなくて、長い暗闇が続くうちにふっと光がさして来て、急に巧くなります。然し、その後はまた長い低迷が続き、諦めかけたころになって、また急に光がさして、巧くなります。そんなことの繰り返しです。然し、そうして活動してゆくうちに、誰も追いつけないくらいうまいマジシャンになっているのです。

 そのきっかけが何かと考えると、思わぬ人からの誘いが人生を変えることが多々ありました。それゆえに人とに付き合いは大切なのです。

 縁の薄い人から来た公演の招待状や、祝賀パーティーなども、面倒がらずに出かけて行くことです。パーティーで会った仲間が「いや君の連絡先が分からなく探していたんだよ」。などと言って、思わぬ依頼をしてくることもあります。パーティーに行かなければ永久に会うことのない縁なのです。

 帰りがけには、誰かを誘って、一杯やって話などをしているうちに、仲間からの話から新しい発想が生まれて来ることがあります。いつでも一人籠って物事を考えていても、同じ答えしか出て来ないのです。

 巧く行かないとき、悪いことが次々に起こった時には、自分から仕切り直しをして、自分で周囲の空気を変えなければいけません。今はちょうど年の変わり目で、新しい年には何をしようと考える時です。悩んでも仕方のないことはもう悩まずに、積極的に新しいことを考えて行った方が自分にとってはいい道が開けて行きます。

 

 さて、私の来年の予定は、来年1月は6日に鎌倉芸術文化会館で柳家三三(さんざ)さんとの公演があります。私の支援者が、鎌倉に初もうでに行く帰りに、芸術文化会館に行って公演を見ると言う人が結構います。有難いですね。

 7日は、JCMA 主催によるマジックフォーラムが大塚で開催されます。来年のマジック界の情勢を売らないトークショウです。ボナ植木、ケン正木が同じくコメンテーターで並びます。ボナ植木のレクチュアーもサービスにつきます。

 28日は、大阪のキタノ大地さんの主宰するチチンプイプイのミニシアターで公演をします。但しここは余りに小さく、汚れなシアターですので、行くとビックリすると思います。限定20人です。

 場所が狭いゆえに、私の芸がじっくり目の前で見られます。私も久々目の前のお客様を相手にマジックをします。面白い公演になるでしょう。人数が限られていますので、ご希望のお客様はお早めにご連絡ください。

 同日、朝10時には同じ場所で大阪の指導を致します。毎月一回大阪で指導をしています。マジックご指導ご希望の方は同様にご連絡ください。

 2月は13日夜18時から一般レクチュアーをします。場所は秋葉原です。高橋司さんとトランプマン中島さんが主宰します。以後、4月から半年間毎月一回同じ場所でレクチュアーをします。ご興味あればご連絡ください。私は特定の生徒さん以外の指導はしておりませんので、習いたいと考えている方にはチャンスです。

 今回は、何か手順物をいくつかご指導しようかと考えています。また、毎回指導終演後には、高橋さん、中島さんと私で、「そもそもプロと言うものは」。のトークショウを致します。ご質問などあればどうぞその際にご質問ください。

 3月は、9日に座高円寺でマジックセッション。

 15日から3日間、芸術文化交流の活動で香港で公演をします。

 6月か7月にはマジックマイスター。

 10月には再度香港公演。

 そして大阪セッションと福井天一祭。

 翌年3月には東京セッション。年内の予定はこんな感じです。何にしても、周りの支援者が私に仕事を持ってきてくれるのは幸いです。私などは今まで自分を一切売り込まずに仕事になっているのですから有り難いと思います。全ては人との縁があればこそこうして生きて行けるのです。感謝しています。

続く