手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

世に問う作品

世に問う作品

 

 昨日(25日)、忖度と言うタイトルで、映画評論家が、たけしさんの作品を忖度して、率直に内容を語っていないのではないか。と書きました。書いていながら、映画の内容が不満だったと言うこととは別に置いたとして、ほかの考えが頭をよぎりました。たけしさんは、角川から資金を集めて来て、15億円もの製作費を使って、たくさんの優れた役者を使って、自分の考えを世に問うような作品を作り上げたのです。

 私は、その映画の内容の良し悪しばかりを言い立てていましたが、よくよく考えてみれば、コロナ以降、芸能界はどこも厳しい状況で、恐らく映画の世界でも、俳優も、道具方、舞台方、大変な環境にさらされているのでしょう。

 そんな中にあって、15億円もの費用をかけて、映画を撮ると言うのは、多くの俳優やスタッフ、あらゆる人たちを1年間くらい食べさせるくらいの事業を提供していることになります。そんな映画監督は俳優やスタッフにとっては神様のような人なのでしょう。

 少なくともマジックの世界にマジシャン100人を公演することで、一年間食べさせられるような人は一人としていません。それを思えば、映画の世界では、外部の人たちと交渉をして、大きな資金を引っ張って来て、スタッフや役者を養える大物監督がいるのです。

 そうした活動の中で、自身が考えた作品をたくさんの俳優を使い、セットや衣装、小道具や大道具を駆使して、芝居を組み立てて行き、初めは全く雲を掴むような話を、形にして、日本中の映画館で上映するまでに仕上げるのです。映画監督と言う人たちは、映画の世界では憧れの人なのでしょう。

 金はいくらあっても足らないでしょうし、時間はいくらでも必要でしょう。才能あるスタッフを何十人も必要とするでしょう。その事業はとてつもなく大きな活動です。そこは真剣勝負の世界です。その行動力が大したものだと思うのです。

 

 芸能に生きる者の中には、自分には才能がある。人にできないことができる。自分なら人が考え付かないようなことが考えられる。そう思っている人はたくさんいます。然し、本当にそれが出来るのか。本当に発表した作品で一般社会で評価されるのか。そう突き詰めて内容を問うて行くとほとんどの才能あると称する人は脱落してしまいます。思いと実力は別物なのです。

 そもそもマジック界では、外に向かって作品を問うような人がめったに出て来ません。ほとんどの人はマジックの理解者やマジック愛好家を対象にマジックを見せようとしています。知合いの中で、マジックのささやかな差異にこだわって、小さな承認欲求を求めているような活動ばかりです。アマチュアの活動ならそれで十分です。然し、プロで生きるとなったらその程度ではどうにもなりません。外部の人たちに大きな影響を与えるような活動を作り上げない限り、生きては行けないのです。

 まぁ、他のマジシャンの活動をとやかく言って嘆く前に、先ず私自身が自力でその閉塞感を切り開いて、外に向かって飛び出して見せなければどうにもならないのでしょう。この三年間。コロナに託(かこつ)けて、やりたい活動も手控えて、どんどん小さく縮こまってしまいました。何かをやろうとしても、コロナでお客様を集めることができない。資金が集まらない。等々と外に理由を求めて、消極的な活動しかしてこなかったのです。

 然し、私がそんな後ろ向きな活動をしている間にも、たけしさんは人を集めて、15億集めて、大きな映画を作っていたのです。内容のいかんを語る前に、その行動力は評価すべきですし、見習わなければいけません。

 まず、私自身がどうにかしなければいけません。無論、私もこれまでも数々自主公演を企画してきました。然し、ここらで公演自体も方向を変えて考えなければいけません。内容も、もっと一つ一つ見直して、本当に多くの人が求めている内容なのかどうかをマジックの素材から、演技から、考え方から、根本を見直してみようと考えています。

 私もまだ、文化庁や、芸術重点支援や、多くの支援者からの支援をいただけているのを幸いと考え。これを生かして、もっと積極的に行動して外に向かってマジックや手妻を見せて行かなければならないと考えています。

 来年は、もう一度、頭の中を整理して、一からマジックを考え直して行こうと思います。何となく今まで慣れや知識でやってきた事に対して、本当にそれでいいのか、もっとやるべきことがいろいろあるのではないかと、疑いを持って、マジックの稽古をして見ようと考えています。

 来年の目標は、一つ一つを世に問うて行こうと考えています。大げさなようですが、もうそろそろ私は、私のしてきたことをまとめて行かなければなりません。まだまだこの先ゆっくり考えて何とかして行こう。なんて考えているうちに、私自身に早々先がないことに気付きました。

 これからは、やるべき仕事を後回しにせず、今のうちにやらなければならない。それもしっかりと形にして、本物かどうかを一つ一つ世間に問うてゆかなければならない。たけしさんの活動を見て、そんな風に思いました。

続く