手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

フラメンコショウ

フラメンコショウ

 

 昨晩(23日)は、私のマジックの生徒さんで、齋藤さんのご厚意で、高円寺にある、タプラオと言うフラメンコのお店に招待されました。フラメンコは過去何度か見ています。新宿の歌舞伎町にかなり知られたお店があって、そこで何度か見ました、そこのオーナーがかなりマジックが好きだったのを記憶しています。

 フラメンコは日本全国に熱烈なファンがいて、各地でかなり精力的に催しがされています。マジック以上にアマチュア人口がいるのではないでしょうか。

 然し、高円寺にフラメンコの実演劇場があることは知りませんでした。場所は私が良く行く蕎麦屋、更科のごく近所です。私の家から外に出ると環7通りがあります。環7は南北に伸びています。交差点は、大久保通りと交差しています。大久保通りを東に歩いて行くと、道は細くなって、パル商店街と交差します。道は細いのですが、この東西の道が大久保通りです。

 パル商店街を超えて歩いて行くと、道幅は6mくらいになります。その両側に小さな店がひしめき合って商店街が出来ています。ここらが恐らく高円寺でもっとも古くから栄えていた通りなのでしょう。いろいろ変わった店がたくさんあります。

 七福神と言う寿司屋もあります。抱瓶(だちびん)という沖縄の飲み屋も結構知られています。この一帯は個性的な店が多いのです。その一角にフラメンコの店、タプラオがあります。但し、知らずに行くとまったく気付かずに通り過ぎてしまいます。間口が狭く奥行きの深い店です。

 7時の開幕で、私は6時15分くらいに伺いました。斎藤さんはもう店の前で私を待っていてくれました。店は細長い客席で、一番奥が舞台になっています。大きな店ではありませんが、天井が高く、舞台は見栄えがします。装飾もシンプルです。舞台両側にある外套のような灯りは、ラテンの国によくある、オレンジ色に輝く電球です。

 日本の街灯は蛍光灯が多く、妙に光が青白いのですが、ラテンの国の多くは街灯がオレンジ色です。深夜に人通りのない道を歩いていると、町全体がオレンジ色に輝いていてとても綺麗だったのを記憶しています。

 あの街灯のランプが舞台両側に二つ灯っているだけで、スペインのイメージは充分の感じられます。お客様は40人ほどでしょうか、若い人も、私よりも年上の人も、いろいろ来ていました。圧倒的に女性ファンが多いようです。

 この店は恐らく日中はダンスの指導もしているのでしょう。そこの生徒さんと思しき若い人も何人か来ていました。言ってみれば私のマジック教室と同じです。私も店を持って、指導と、夜にショウをすれば、それなりに人は集まるでしょう。でも、飲食をすると言うのが、私はどうも気が乗りません。まぁ、それは私の考え方ですから、いいも悪いもありません。

 

 さて、ショウは7時きっちりに始まりました。歌い手とギタリスト以外はダンサー5人。4人の女性と、1人の体格の良い男性で計5人です。

 この人達が、代わる代わるに踊るのですが、踊りはかなり長く、一人8分程度はあるのではないでしょうか。ただ理由もなく踊っているのではなく、そこには形式があるようです。踊り初めはいくつかの型に沿って踊って見せ、中盤に、クラシックで言う、カデンツァのような部分があって、どうやらそこは、アドリブ的に足技の技巧を見せる部分で、ダンサーの技の見せ場なのでしょう。

 そこに至るとギターは音を弱め、足のステップが強調されます。恐らくかなり高度なステップを見せているのだと思いますが、部外者の私にはどう巧いのかが分かりません。そこが済むと曲は一気に華麗になって、終わってしまいます。どうもこのパターンがフラメンコの形式なのかと思います。

 フラメンコは、ほとんど立ったままの踊りで、前半は、個性的な指使いに特徴があり、手踊りが主流のようです。無論その間にも、足はかなり強く拍を打ち続けますが、後半のカデンツァが足の拍子の見せ場になって行き、迫力を増して行き、激しく動きまわって終わります。能の序破急を思わせます。

 その間ギターは技巧的なラテンのメロディをひたすら奏で、歌は、詠歎調の人生のやるせなさを唄い続けます。こうした点。フラメンコは、ヨーロッパ文化ではありながら、何となく東洋的で、演歌にも通じるところがあります。この辺が日本人に愛される所以でしょうか。

 順にダンサーが5人踊って行きます。フラメンコに限らず、バレエも、フラダンスもそうですが、素人の私が見ていると、何人も踊ると、どれも同じに見えて来ます。ダンスのショウで、1時間を飽きさせないと言うのは簡単なことではありません。

 ハイボールとつまみの生ハムを食べながら、じっくり踊りを見ると言うのは贅沢なひと時ではありますが、同時に、どうやったら、縁もゆかりもない観客を自分の世界に引き込めるのか、ついつい、観客としてではなくて、演者側に立って、かなり観客の心理を考えつつ見てしまいます。

 ダンスと比べると、マジックの方が、人と接して、会話ができる分、うまくコミュニケーションを取って人の心を掴めます。そして、マジックは演技そのものに変化が多いですから、お客様が退屈させずに長く見せられるように思います。(マジックにもよりますが)。そうした点。職種として、マジックはかなり有利な芸能だと言えます。

 トリに踊った女性は、この店のオーナーでしょうか。私よりもかなり年上で、この道50年のベテランと言った人でした。高齢で激しい舞台をこなすことには敬服します。又その先生を若い人が讃える姿もよかったです。今まで気にも止めなかった商店街の一角でこうした芸術が日々演じられていることが素晴らしいと思いました。

 等々、いろいろと考えて、ショウ終演後、店を出ました。少し空腹を感じましたので、近くの窯鉄に行って、ハイボールとピザを食べました。今日はすべて高円寺で済ませて、いい機嫌で家に戻りました。

続く