手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

どこの国が安全?

どこの国が安全?

 

 外貨を買って貯金をするのは小口でも出来ます。ましてや、外国の債権を持つのはかなりいい利息が付きます。日本円では全く頼りになりませんので、最も効率の良い貯金方法でしょう。

 今まではドルの価格が上昇していましたので、ドルで持っていれば随分得をしました。これから先はどうでしょう。今までが良かった分、余りに多くの人がドルを信用しています。この先は一気にドルの価格が下がりそうな気配もありです。

 と言うのも、何か特別にアメリカがうまい活動をして、安定して稼いでいると言う風にも見えません。ただ何となく周囲の国から比べたら、アメリカが安定しているから、多くの資金が集まっているのではないか。と、そう見えます。

 何となく。と言うのが一番危険です。リーマンショックの時も、何の根拠もなく、今までよかったからこの先も、と。そんな風にアメリカを手放しで信用した結果、とんでもないごみのような債権を掴んでしまったのですから。気を付けなければいけません。

 

 イーロン・マスクと言う人は、今の時代の寵児でしょう。やることなすこと大当たり、彼の周りには世界中の政財界の有名人が集まり、彼の話をみんなが真剣に聞こうとします。今、彼が最も力を入れているものは自動車会社テスラで、EV自動車を販売しています。これは世界の自動車企業に衝撃を与えました。これからの時代はEVの時代だと宣言し、実際欧州各国は、10年以内にガソリン車をやめて、EV自動車に切り替えると宣言をしました。

 自動車の歴史でこれはとんでもない出来事です。CO2の排出を抑え、クリーンで安全な乗り物と言うことで、世界中が注目をしています。

 然し、それが本当に次世代の乗り物なのでしょうか。私は、世の中みんなが一斉に右へ倣いをするときと言うのは、絶対に危ないと思います。確かにEV車は、ガソリンを使いませんから、排気ガスは出しません。でも、だから地球にやさしい、健康的だと、簡単に言えるでしょうか。

 もし世界の自動車がみんなEV車になったなら、世界の電力需要は今の二倍三倍に膨れ上がるでしょう。みんなが車を運転して、自宅に帰って、それから車をコンセントにつないで充電すると、夜になると電力重要が一気に上がります。今の電力では充電を支えきれません。たちまち電気はひっ迫します。

 そうはならないように電力会社は、発電所を増やさなければなりません。どのエネルギーで発電所を作りますか、風力や、太陽熱で、大需要を賄えますか。無理でしょう。原子力か、火力発電に頼る以外ありません。

 原子力はとんでもなく費用がかかります、しかも、この先、世界大戦などが起こったときに、原子力発電は敵の標的になります。とても危険です。とりあえずは、火力発電所を増やす以外解決はないでしょう。然し、火力は石炭や、天然ガスを燃やして電気を作ります。

 火力発電は、とても多くの無駄を生みます。燃やした燃料が100%電気にならないのです。更に、出来た電気を各家庭に送電する際、銅線を伝って各家庭に送る過程で、更に電気をロスをします。その上、コンセントから、EV自動車のバッテリーに蓄電します。この蓄電の際もかなりロスをします。バッテリーは車に乗らずに放っておくだけでも電気は消えて行きます。

 そうなら、発電所で石炭を燃やして、電力を作って、実際各EV自動車に電気が伝わるまでにどれだけ電気が残るのでしょうか。私に詳しいデーターはありませんが、少なくとも、直接エンジンで火力を起こし、それを動力にしたほうが、間違いなく少ないCO2の排出量で自動車は動きます。

 世界中の自動車をEV車にすることは、今ある発電所の二倍もの発電所を作らなければならなくなり、しかもエネルギーが動力になるためにはあまりに無駄が多いのです。結果、EV車を動かすには、飛んでもない量のCO2が発生するのです。

 

 一見誰のためにもいいことなのだけども、みんながやると大きな間違いになる。これを誤謬(ごびゅう)と言います。誤謬と言うのは、少数の人が信じて生きて行く分には、間違っていないことでも、国を挙げてやろうとすると、大きな間違いにつながる。と言うことです。

 昔アグネスチャンと言うアイドルタレントが、常にマイ箸を持ち歩いていて、「割り箸を使うことは樹木の浪費につながるから割り箸をやめよう」。と言う発言をしました。ところが、割り箸と言うのは太い丸太を細かく切って作っているわけではありません。

 使い道のない間伐材(細い木の枝)の再利用で作っているわけです。間伐材の再利用のお陰で森林保護の収入が生まれ、森の木が維持されているわけです。それを単純に、「割り箸を使い捨てるのは自然保護に反する」。と言ってしまうと、逆に森林は守られないのです。

 一人二人がマイ箸を使うなら問題はありません。国民全体が内容もわからず森林保護の名目で割り箸の使用をやめると、森林の維持が出来なくなります。これが誤謬です。どんなことでも世界中が大騒ぎして、一つ方向に進むと、往々にして誤謬が生まれます。

 

 さて、EV自動車は何のために開発したのですか、そもそもがCO2を出さない安全で地球にやさしいエネルギーで走る自動車を作るためではなかったのですか。しかし、それがバッテリーを充電する段になると石炭を燃やさなければ電気が出来ないのです。

 それを一国で何千万台もの車が毎日充電を繰り返したら、EV車が排ガスを出さないとしても、国全体で飛んでもない量のCO2を排出することになります。ようやく欧州各国はその愚に気付いたようです。ドイツなどは早々にEV車の見直しを始めました。

 EV車はまだまだたくさんの問題があります。テスラは自動車自体にいろいろと故障があるようです。バッテリーそのものも、交換する際にとても高価ですし、その使用済みバッテリーをどこに処分するかで、産業廃棄物処理の問題が未解決です。

 イーロン・マスクさんは、天才の一人なんだと思いますが、さてその実績が後世にまで残るかどうか。折々見ていると結構調子のいい人のようですし、タレント的な人です。タレント経営者と言うのは、どうも胡散臭い人が多いように思います。

 ある一時代を飾る人気者ではあることは間違いありませんが、歴史に名を残す人になるのかどうか。私のようなマジシャンが胡散臭いと言うくらいですから、どうもイーロン・マスクさんは、我々と同様な際物の人なのではないか、と勘繰ってしまいます。と同時にこうした人がアメリカの経済をけん引しているとしたなら、案外アメリカ経済の安定感も信用できないと思います。

続く