手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

強気の麻生さん

強気の麻生さん

 

 8日に台湾を訪問した麻生副総理が、「もし、中国が台湾に攻め込むことになったなら、日本、アメリカは黙ってはいない。いつでも戦う用意がある」。と極めて強気の発言をしました。もし数年前に日本の政治家がこんなことを言ったなら、日本のマスコミや、新聞社は大騒ぎで、徹底的に政治家を叩いたでしょう。

 ところが、今回は、批判する記事はあっても、その声はわずかです。なぜかと言えば、そこには背後にロシアとウクライナの戦いがあるからでしょう。もう21世紀になったなら、小さな国同士の紛争はあっても、大国同士の戦いは起こらないだろう。と考えていたものが、突然ロシアによって侵略がなされたのです。

 当初ウクライナは、ロシアの衛星国の立場から離れて、NATOへの加盟を希望していたのです。ところがロシアはそれを頑なに拒否します。もしウクライナNATOに行くようなことがあれば、必ずウクライナを占領すると言ったのです。

 困ったウクライナは欧州各国に相談します。「もし、ロシアが侵略して来たなら、NATOは守ってくれますか」。無論、今は非加盟のウクライナを守る理由はありませんから欧州は否定します。それなら、アメリカに相談すると、アメリカは困惑します。

 なぜなら、ウクライナがロシアにとっての防衛線であることは明らかだからです。かつての太平洋戦争時代の日本の絶対国防圏と同じです。フィリピンもボルネオもサイパンも日本が譲ることのできない国防圏なのです。当時の日本はフィリピンやボルネオの安全など全く考慮してはいません。飽くまで日本の安全を考えての国防圏です。

 仮に、ウクライナが、あの時NATOに加盟することが叶ったならば、ロシアは国防圏を奪われたことになり、当然強硬手段に出ます。それは第三次世界大戦の口火を切ることになります。なぜなら、ウクライナNATOが同盟関係になり、ロシアとウクライナの戦いが、そのまま欧州対ロシアの戦争になるからです。

 当然、アメリカの態度は慎重で、そのため2年前、「アメリカはロシアとウクライナが紛争に至ったとしても、それを助けることはできない」。と言ったのです。この時プーチンさんは、それをアメリカの本音と理解したのです。

 つまり、核を持っているロシアに対してアメリカは、核の被害を被ってでもウクライナを守る勇気はない。と判断したのです。それがウクライナ侵攻につながったのです。当初は、その言葉通り、アメリカも、NATOも、ウクライナはロシアに勝てないから、早々に降伏したほうが良いと言ったのです。つまり世界はウクライナを見捨てていたのです。

 

 この状況は、第二次世界大戦前、1939年のドイツによるチェコスロバキア侵略とよく似ています。ナチスドイツは弱腰な欧州各国を見下して、チェコスロバキアのズデーデン地域の割譲を求めたのです。そこはドイツと隣接していて、ドイツ人が多く住む地域で、ナチスは元々ドイツの領土だと主張します。それに対して、イギリスもフランスも、当事者のチェコスロバキア抜きで、国境問題を協議して、ドイツにズデーデン地域を譲ってしまいます。それを決定した、イギリスのチェンバレン首相は、欧州大戦を回避した名宰相として、絶大な評価を受けます。

 ところが、その半年後、ドイツは、突然、残りのチェコスロバキアに戦車を送り込み、チェコスロバキア全土を制圧します。これが世界大戦になるかと思っていると、イギリス、フランスはあっさりとドイツの武力行使を認めてしまいます。この辺りは、今回のロシアのウクライナ侵攻とそっくりだと思いませんか。

 結局、武力を使って小国を侵略しても、英仏は動かないんだと知ったドイツは、次にはポーランドへの侵略を宣言します。然し、ここでイギリスのチェンバレン首相は断固ポーランド侵略に反対します。チェンバレンにすれば、ズデーデン割譲の時には英雄扱いされたのに、ドイツがチェコを侵略したとたん、腰抜けだの、日和見だのとこき下ろされたのです。自身の名誉挽回の意味でも、今度ドイツが他国を侵略したら、必ず戦争をすると宣言をしたのです。

 ところがヒトラーチェンバレンの言葉を信用していません。イギリスもフランスも前の大戦の疲弊が続いていて、次の戦いの準備などできていないと見くびっていたのす。押せばひるむと信じていたのです。結果として、この時のドイツの判断が第二次世界大戦に発展します。この経緯も今回のウクライナ侵攻とよく似ていると思いませんか。

 ロシアがクリミア半島を奪った時に、アメリカもNATOも動かなかったのです。その上、ウクライナNATOに加盟することがあれば、ロシアは侵略も辞さないと宣言した時に、アメリカも、NATOも沈黙していたのです。

 結果、それが今回のウクライナ侵攻につながったのです。1939年のチェコスロバキアの侵略と同じことが起こったのです。侵略者の要求に対して、無言でいることは、台風が自然に去って行くようなものではなく、必ず戦争につながるのです。

 話は長くなりましたが、8日の麻生さんの発言は、ようやく日本も気付いたのです。ロシア同様に、台湾侵略を考えている中国は、必ず軍事行動に出るでしょう。それは、尖閣諸島をたびたび中国の軍艦が集まって来ていたり、南シナ海に勝手に軍事基地を作って、占領したりする行動を見たなら明らかで、少しずつ触手を伸ばしているのは、「どこまでやったら日本やアジアが怒るか」。相手の出方を見ているのです。

 そんな時に麻生さんが、「台湾が攻め込まれるようなことがあれば、日本も仲間を助ける意味で戦わなければならない」。と言ったことは、実は無謀でも何でもなく、ここで言わなければ後世までも日本が後悔することになるのです。

 もし1938年に、チェンバレンナチスに対して強気にな発言をしていれば、第二次世界大戦はなかった。というのと同じことです。何かを言ったからすぐに戦いになるわけではないのです。

 むしろ話は逆で、互いに見えない手の内からちらりちらりと本音を見せつつ、相手をけん制することのは政治の常套手段です。それはポーカーゲームと同じであり、大きな戦になるのか、小さくまとめるのかは、ゲームをするもののセンスなのです。

 

 習近平さんもプーチンさんも、晩年に至って領土欲を露骨に示したことは人生の失敗でしょう。習さんが、台湾は中国領土だと言った事は理屈が通ります。然し、返す刀で、尖閣諸島も、沖縄も元は中国の一部だ。ベトナムも、朝鮮半島も中国だったと言ったら、確かに1000年前は事実であったとしても、今それを語れば、完全に世界制覇を狙っていることになります。それを言ったら、ASEANも日本も韓国もアメリカも敵になってしまいます。

 中国はロシアの失敗をよく見たほうがいいと思います。そうでないと、あっという間に世界の信用を失います。

続く