手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

長い戦い

長い戦い

 

 冬に始まった戦争が、もう真夏になっています。ウクライナでの戦いがここまで長期化するとは誰も予想しなかったでしょう。当初は圧倒的な数のロシア軍に包囲されて、どれほどの抵抗が出来るか。まぁ、半月か一か月、それほど長くは持たないだろう。と予測されていました。

 きっと、あっという間にロシアに侵略されて、ウクライナはロシアの属国になる。と、誰もが思っていたのです。仮にウクライナが負けたとしても、その後、ゲリラ戦術で根気よくロシアを攻めて行けば、やがてロシアが疲弊して、10年後、20年後には再び独立を勝ち取ることも出来るだろう。などと考えていました。

 しかし、その予測は初戦から半月迄のことで、ゼレンスキー大統領のネットを利用した呼びかけにより、世界の情勢は変わって行きます。

 

 先ずゼレンスキーはこの戦いが形だけの抵抗ではなく、徹底抗戦であることを訴えました。国民の男子は海外に避難することは出来なくなり、全員が武器を持って戦うことを求めました。そして国民はそれに呼応して、軍隊に入り、戦いを始めたのです。

 実は、ウクライナは9年前にロシアにクリミア半島を侵略された経験から、ロシアはいずれウクライナ全土を狙ってくると判断し、以後国民に軍事訓練をしてきたのです。国民すべてによる戦いはゼレンスキーによって始まったことではなく、既に9年も前から着々と練られて来たことです。つまり、ロシアの目的は、クリミア半島の次には、ウクライナ全土を抹殺することだったことを読み取っていたのです。

 日本の評論家やコメンテーターの中には、「さっさとロシアに敗北を認めてしまえ」。などと言っていた人がいましたが。余りにものを知らない発言です。ここでロシアに譲歩したら、ウクライナと言う国は地上から消えてしまうのです。その瀬戸際に立たされた人々に、「さっさと負けを認めろ」。と言うのは、一方的ないじめに対して、「相手は強いから負けたほうがいい」。と言っていることと同じです。人の人権を無視しています。世の中には譲れることと譲れないことがあるのです。ウクライナの場合、クリミア半島は惜壌しても、本国全体を与えることは出来ないのです。

 

 しかしそうは言っても、ロシアは大国ですし、まともに戦って勝てる相手ではありません。そこでゼレンスキー大統領はNATOに「ここでウクライナが負けたなら、次はNATOの東側の国に侵略が及ぶ。それを知ってロシアの横暴を見過ごすのか」。つまり、1945年のソ連の東欧侵略を繰り返してもいいのかと脅しをかけたのです。

 直ちに反応したのは国境を接するポーランドで、ウクライナに武器の供与を約束します。同様にイギリス、フランスも協力を始めます。やがてドイツもチェコも、イタリアも、アメリカも協力を始めます。すると軍備のレベルで、今戦っているロシア軍よりもウクライナの方が有利になって来ました。そうなると、ドローンや、ロケット弾を使って、いとも簡単にロシアの戦車を倒すことが出来るようになりました。

 まさかまさかの連戦連勝が続きました。ところが、ウクライナ軍がロシアを簡単に倒せることが分かると、ゼレンスキーは方針を変え始めます。それがロシアによる侵攻から3か月目です。

 世界はウクライナに同情し、ロシアに対しての制裁を強めます。経済、金融、あらゆる面でロシアの侵攻を阻もうとします。こうまで世界中からあからさまに批判されるとは予想していなかったロシアは窮地に立たされます。

 それでもロシアは強気な姿勢を崩しません。どんなに世界中から批判をされても、冬になれば、ヨーロッパは石油が必要になりますので、きっと制裁を緩めて来ると読んでいるのです。

 さて、ここまでで休戦協定を結んでいれば、ロシアはクリミア半島も自国領の儘、東のドンバスも手に入る、辛くも勝利して撤退することが出来たでしょう。ウクライナも、自力でロシア軍を撤退させたのですから、これも勝利です。互いがウインウインで先ずはめでたしと言うわけです。

 

 ところが、ウクライナは、始めは攻め込んできたロシア軍を追い払えばそれでよいと考えていたものが、強力な武器を持ち、戦局が好転すると、徐々に考えを変え始めます。ロシアは思っていたほど強くないと知り、攻めれば攻め取れる。そうなら武器の揃っている今こそロシアを撃退すべきだ。ウクライナはそう考えたようです。

 今回、一方的に侵略された東側の工場地帯である、ドンバス地域も、9年前に攻め取られたクリミア半島も、今現状の戦いで、又ドンバスからクリミア半島に続く湾岸地域の回廊も、すべての地域でロシアを排除して、この際、丸々ウクライナの失地を回復させようと考えたようです。

 ウクライナの考え方は間違ってはいませんが、そこまで要求されてはプーチンの面目は丸つぶれになります。プーチンも今のままでは勝利はおぼつかないことは分かって来ています。経済制裁も効いてきています。このままではロシアが疲弊してしまいます。内心何とか名誉を失わない程度にうまく撤退できればいい。と考えていたのでしょう。

 どこか落としどころを探していたプーチンにすれば、ゼレンスキーの要求は、交渉ではなく恫喝にしか思えないでしょう。すべて失って、軍隊を撤退させろと言うのでは、休戦は出来ません。少なくとも9年前に侵略したクリミア半島はロシアのものとした上で、更に、東側のドンバス地域を何割か手に入れる。と言う線で和解しなければ了解できないでしょう。

 さて、テーブルの下でどんな取引がされているのかはわかりませんが、ゼレンスキー大統領の要求にはかなり無理があります。戦いに完全勝利はあり得ません。ましてや、周囲の協力で辛勝しているウクライナはそんな過大な要求は出来ないのです。ウクライナの無理にヨーロッパやアメリカが付き合わされて武器や資金を提供し続けることはどこの国にとってもいい結果にはなりません。

 あまりロシアを怒らせると、ヨーロッパは冬場の石油に困ります。ここは、適当な接点を見つけ出せるように、フランスやイギリスあたりが地下で動き回っていることでしょう。冬までに解決するかどうか、冬を越すようになると、来年はとんでもない大不況が来ることになるでしょう。

続く