手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

行く先々で行き止まり

行く先々で行き止まり

 

 先週、プリゴジンさんがモスクワに進軍しながら、突然行方不明になって、どこへ行ったのかと訝しんでいた時に、私は、「どうも、プーチンさんとプリゴジンさんは根の深いところではつながっているのではないか」。と言いましたが、それは事実だったようです。

 モスクワ進軍の際に、プーチンさんはすぐにプリゴジンさんと連絡を取って、会談していたそうです。その時、プーチンさんは、プリゴジンさんに高圧的な態度に出ることもなく、むしろ、今しばらくは身を引いてくれと懇願したそうです。

 プーチンさんにしてみれば、ここでプリゴジンさんと争いを起こしたなら、ウクライナで指揮を執るリーダーがいなくなってしまいます。今はとにかくプリゴジンさんに戦争継続を頼むしかないのです。ロシア軍は明らかに弱体化していますし、そもそもロシア軍は今回の侵攻に乗り気ではないのです。

 ロシア軍はウクライナの侵攻に否定的な態度を取り続けています。これでは、体と頭が統一していないのと同じで、精神分裂を来しています。こうした軍部を使っていては勝てるわけはありません。何のかんのと言って、プリゴジンさんは一番プーチンさんに忠実だったのです。

 実際の戦いを見ても、ロシアの兵器は1960年代のものが多く、今では古すぎます。イギリス、ドイツ、アメリカの兵器の方が歴然と優秀です。

 そうならウクライナ軍の方が圧倒的に優位に立っていて然るべきなのですが、どうもそうはいきません。NATO軍がウクライナに約束した、戦車、迫撃砲、戦闘機などの数が、供与を約束した分だけ集まらないのです。

 NATOとすれば、今のウクライナの戦いぶりを見ていると、とても年内に解決する戦いではないと言うことが見えてきたのです。このまま数年に渡ってウクライナに武器を供与し続けるとなると、欧州各国は、どんどん経済が疲弊して行きます。「こんなことを続けていていいのだろうか」。と、不安に駆られるようになっています。

 アメリカも同様で、せっかくこれまでドルが高めに推移していたものが、このところ先行きの不安感から低迷を始めています。予想以上にウクライナの戦いが長期化してしまったことが原因なのです。

 いつの時代でもそうですが、アメリカは、欧州内での戦いに関与しないで傍観していたほうが、物は売れ、金はいくらでも借り手が見つかったのです。なまじ欧州に軍事協力をすれば、たちまち泥沼の戦いが始まって、自国に被害を被ります。

 アメリカとすれば、ウクライナで小規模な紛争が続いて、欧州が小出しに支援をし続けていたなら、それが一番アメリカにとって経済が潤う構図なのです。アメリカの実業家は、アメリカ大統領が、妙な義侠心を持って積極的にウクライナに関与することなど以ての外で、外見はウクライナを心配する振りをして、ささやかな支援をしつつ、武器や金を貸し続けることを一番望んでいるのです。

 この一年、アメリカの議会が何をしてきたのかというなら、どこに支援の線引きをするかの引っ張り合いをしているだけなのです。

 

 ところが、ゼレンスキーさんにしてみれば、内心穏やかではありません。結局、武器も金も借り物で戦争をしているのですから、自分の思い通りにならないのは当然です。今、強く推してゆけば勝てる。ゼレンスキーさんはそう思っているでしょう。然し、欧州側は、簡単に武器や金を貸していては、取り返しのつかない結果になる。と読んでいます。

 ましてや、ウクライナが10年以上前から言っている、NATOへの加盟問題は、今なって見るとむしろ、あの時加盟を認めてもよい、と、リップサービスをしてしまったことが、今となっては言質になってしまい、終始がつかなくなっています。

 この現状でウクライナNATOに加盟させたら、元々NATOは軍事同盟ですから、欧州対ロシアの戦いになり、火種を欧州が抱えることになります。そうなると第三次世界大戦に発展します。

 

 NATOを軸に世界を見ると、今回の戦いは8年前、ロシアが一方的にウクライナクリミア半島に侵攻したことに端を発します。それに対して、ウクライナは、これ以上ロシアからの侵略を避けるために、NATO加盟に動きます。NATOもそれを認める気配を示したのですが、ロシアの猛烈な反発から、結果、ウクライナ侵攻につながったのです。

 この流れだけを見たら、ロシアが一方的にウクライナを侵略しているように思います。然し、ロシア側から見たなら、この半世紀は欧州の勢力に押され続けて、領土を失い続けた歴史なのです。

 なぜかと言えば、1950年代に欧州を真っ二つにするような鉄のカーテンが敷かれ、社会主義の国と自由主義の国に分かれました。私が良くブログで書く通り、東欧諸国とはロシアの土嚢なのです。

 度々ドイツに攻め込まれて、その都度数千万人もの犠牲を出したロシアは、二度と欧州がロシアの国に攻め込んで来ないように、分厚い土嚢を積み上げました。それが東ドイツであり、ポーランドであり、チェコスロバキアユーゴスラビアだったのです。

 こうした国々を社会主義化して、洗脳すれば、西ヨーロッパに対抗できる防波堤になると信じていたのです。ところが、ベルリンの壁崩壊以来、東ヨーロッパ各国がロシアから離れ、次々と西側に付いたのです。この時点でソビエト連邦は崩壊し、ロシアは元のロシアに戻ったのです。

 それでもロシアは、まだ国内の、衛星国と言う土嚢を持っていました。それがベラルーシであり、ウクライナであり、バルト三国などの国々だったのです。ここでロシアは欧州に宣言しました。東ヨーロッパは譲っても、最後の砦である衛星国に手を出したら、間違いなく戦争になるぞ。と脅しをかけたのです。

 然し、弱体化したロシアの言うことを誰も聞こうとはしません。バルト三国は自力でロシアから離れ、ジョージアなどもどんどん離れて行こうとしました。苦々しく思ったロシアは一層衛星国の引き締めを強化します。

 ずるずると同盟国が離れていることを眺めていたロシアも、いよいよ生命線を犯される事態に至って、突如、クリミア半島を侵攻します。それでもNATOへの加盟をしようとするウクライナに対して、怒り心頭になって、去年侵攻を始めたわけです。

 ロシアの理屈で見たなら、この半世紀は徐々に国土を失ってきた歴史であり、これ以上の譲歩は出来ないのです。ロシアから見たなら、NATOによるウクライナへの武器供与は、みんなで寄ってたかってロシアをいじめているように見えるのです。

 ロシアが絶対にウクライナの侵攻をやめないのは、ロシアにとっては譲れない一線だからです。プーチンさんは、欧州がその一線を越えたなら、世界大戦もやむなしと考えています。さて、アメリカ、欧州はどうするのでしょうか。

続く