手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

ロシアの疲弊

ロシアの疲弊

 

 6月に入ってから、ウクライナ軍の大攻勢が始まりました。NATO から譲り受けた、戦車や、ロケット砲、対戦車砲などを駆使して、それまで攻めあぐねていた、東側や南部の戦線でかなり大きな作戦が展開されるようになりました。

 ウクライナの人口は4000万人。ロシアは1億6000万人。ウクライナの兵士の数は70万人。ロシアは、250万人。普通に考えたなら戦える相手ではありません。歴史的に見ても、ウクライナは長いことロシアの支配下にあった国ですから、ロシアからすれば、ウクライナが歯向かって来るとは予想もしていなかったのでしょう。 

 仮に戦いとなったとしても、兵力の規模からしてロシア軍にかなうわけがなく、半年もすれば降伏せざるを得ないはずだと考えられていました。それが、意外や意外、欧州、アメリカの支援を受けて局地戦では次々にロシア軍を破って行きました。

 この戦いで、ウクライナはこの先自国がどうなりたいのかを世界にはっきり表明したのです。つまり、ロシアから離れて、EUの一国として生きて行きたいのです。無論その考えは以前から欧州各国には伝わってはいました。

 然し、実際にロシアと戦ってまで、EU に所属する気概があるのかどうか、EU所属はウクライナの願望ではあっても、現実に、政治的に、軍事的に、経済的にロシアと決別して、ロシアから離れて生きて行くことは不可能だとEUでは考えられていたのです。

 また、仮に、ウクライナをEUの一員として認めてしまうと、新たな火種をEUが引き受けることになり、これはEUにすればEUの存続を脅かすほどの脅威なのです。今回の戦いも、黙って傍観していれば、ウクライナとロシアの内紛(ロシアにすればウクライナは属国なのです)で済まされることです。

 然し、もし、ウクライナがEUに加盟するようなことになれば、EU対ロシアの争いに発展します。そうなったときに、その戦いは確実に第三次世界大戦になります。ウクライナの問題は、ウクライナ一国の問題ではなく、とても大きな戦いの発端につながり得る大問題なのです。

 

 なぜロシアがウクライナ侵攻に固執するのかというと、話は200年前に遡ります。ナポレオンが、ロシアを攻めて敗北したのが1812年です。そしてそれから100年後。帝政ドイツが第一次世界大戦でロシアを攻めて、破れたのが1917年です。

 さらに、第二次世界大戦ナチスドイツがソ連を攻めて敗北したのが1945年です。我々ロシアの近辺に住むものとしては、ロシアは横暴で、好戦的な国民だと考えがちですが、この200年間、ロシアは自ら戦いを起こすことなく、三度も世界大戦に巻き込まれ、多くの国民を失っているのです、第二次世界大戦のときには2000万人のロシア人が亡くなりました。ロシアはいまだに第二次大戦前の人口に戻っていないのです。

 ロシアから見たなら、ロシア人は常に戦争被害者であり、災難はすべて西からやって来ました。1945年にソ連はかろうじて戦勝国になりましたが、ドイツや欧州から満足な補償を得ることもなく、その後、極端な貧困に悩みました。

 そのため、西からの災難から何とか身を守ろうとして、自国の西側に同盟国を作りました。ポーランドルーマニアチェコスロバキア東ドイツ、等々です。こうした国々を社会主義国にして、これらの国を土嚢のように積み上げて西側諸国から自国を守ろうとしました。東西冷戦が始まったのです。

 然し、東西の国境は果てしなく広く、そこに兵を配備して、戦車を置き、同盟国に軍政を敷いて、統括することは費用面でも負担が大きく、その後、うまく機能しなくなってゆきます。やがて、1989年11月9日に、ベルリンの壁が崩壊します。これが社会主義の崩壊の始まりで、同盟国だった東ドイツや、ポーランドの傀儡政権が倒れ、次々と自由主義陣営に戻って行きます。

 結果、ロシアは丸裸になります。然し、まだロシアは国内に衛星国を持っていたのです。ソ連邦は崩壊しても、ロシア内には、ベラルーシウクライナチェチェンなどの国々が存在しています。

 ところが、そうした中でバルト三国が独立を果たします。そして、ベラルーシや、ウクライナ民主化が進み、社会主義政権が揺らいで行きます。これ以上衛星国を失ってはロシア自体の存亡が危ぶまれます。自らの危機を感じたロシアは、2014年に、クリミア半島の侵攻を行います。一旦は独立を認めたウクライナに対して、このままでは衛星国からも離れてしまうことを懸念して、国を返せと言い出したのです。

 然し、ウクライナにすれば、クリミア半島の侵略は違法行為です。この次にロシアがウクライナに侵攻してきたときは、ウクライナそのものがなくなる時であることは明白です。そこでゼレンスキーさんは、敢然と立ちあがったのです。ウクライナに住む成人男子は 、必要とあらばすべて兵士になることを義務付けて戦いを始めたのです。

 このことは、今回思いついて始めたことではなく、クリミア侵攻をあまりに安易に許してしまったため、ウクライナ有識者が集まって、この先ロシアが無謀な要求をしてきたときには、戦う以外ないと意見をまとめていたのです。

 一方ロシアにすれば、ウクライナは最も恵まれた地域で、穀倉地帯です。ここを手放してはロシアの食料自給もままならないことになります。政治的にも、土嚢の一つであるウクライナが反旗を翻したなら、他の衛星国もウクライナに習って離れて行くことは目に見えています。

 ここは何が何でもウクライナを再度自国に戻さなければ、ロシア連邦は瓦解します。然し、今回のことで、どうもプーチンさんの判断には陰りが見えます。衛星国から不満が聞こえます。少しずつロシアと距離を置こうとする国が増えています。

 同時にロシア国内でも、かつての盟友のプリゴジンさんまでプーチンさんから離れています。負け戦に付き合っていてはやがて責任のなすり合いが始まりますから、さっさと前線から抜けています。今、最前線ではかなり強固にロシアは陣地を守ってはいますが、だからと言って反攻に出るほどには力はないようです。

 つまりじり貧状態に陥っているのです。プーチンさんは手詰まりです。ロシアはこの一年半で疲弊しています。戦争はなかなか終結はしないでしょう。解決は、ロシア国内のクーデターしかないのかも知れません。その日がいつ来るのか、あと半年でしょうか。

 近々、ウクライナの被災地復旧援助の活動会議を日本で開催するそうです。世界が日本の懐を頼っています。あぁ、遠い国の復旧活動に日本の金が当てにされています。出すなとは言いませんが、出せば国内がまた不景気になります。コロナによる飲食店や、芸能の復興はどうなるのですか。ウクライナも大変ですが、飲食店、芸能も苦しんでいます。何とかもう少し自国を照らしてください。

続く