手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

調子が悪い

調子が悪い

 

 朝方書いていたブログが飛んでしまいました。確か記録を残したはずなのですが、どこにも見当たりません。困りました。

 何を書いたのかと言えば、「いい人、悪い人」というタイトルで、ビッグモーターズの社長や、息子さんはいい人に違いない。と書きました。どんな内容かと言えば、

 なぜビッグモーターズが、長きにわたり不正を繰り返していながらばれなかったのかと言えば、周囲の社員にも、関係者にも利益の一部を分け与えていたからだ。と書いたのです。

 性格が悪ければ、自分の利益だけを考えて、社員を搾取することばかりを考えるでしょう。でも、ビッグモーターズの社長は、聞くところによると、工場長クラスになると、有能な社員には、4000万円からの年収を出したと聞きました。サラリーマンにとって4000万円は破格です。何ら資本も持たず、身一つで働いている勤め人にどこの会社が4000万円もの金を出しますか。それだけ金を出すと言うのはよほどのことです。

 しかもその儲け方の秘伝まで社員に惜しげもなく伝授しています。これは社長が考えたのか、副社長の息子が、考えたのかは知りませんが、修理に来た車に、靴下にゴルフボールを詰めて、車にガンガンぶつけてへこませます。あるいは、ドライバーで傷を付けます。また、タイヤにくぎを刺して、パンクさせます。

 すごいです、こんな基本的なネタで事故を拡大させたのです。どこの修理工場だって、簡単に破損を大きく出来ます。そうして、車の被害を大きくして、修理をして、保険で直します。

 保険は、お客様は殆ど負担なしで、全てを直してしまいますから、お客様からの苦情は来ません。保険会社も、売り上げが上がって、利益になります。社員は、忠実に車を傷つければ、給料が上がります。会社は勿論儲かります。結局みんながいい思いが出来ます。

 

 こんな魔法のような経営に気が付いたなら、大して儲かっていない整形外科の病院も、ビッグモーターズを真似したらいいのです。足腰の悪いお婆さんが来たなら、みんなで靴下にゴルフボールを入れて、叩いたらいいのです。「これも治療の一環です」。とうそぶいたら、たぶんばれないでしょう。たちまち保険の点数はあがり、病院経営は好転します。

 但し、口止めをしなければいけません。帰り際にお婆さんに甘納豆や、アンパンを上げて、秘密を守ってもらうようにしなければいけません。

 単純な作業で、車を破壊することで、まるで魔法のようにみんなが幸せになれるのですから、そんじょそこいらのマジックとはけた違いの魔法です。これを考えた社長や息子は大したものです。

 給料の増えた社員はタネばらしはしません。保険会社だって、薄々はおかしな請求をしていることは知っていたでしょう。でも、売り上げを確実にアップしてくれたのですから、文句を言いません。

 それでも、社員の中には、不正を嫌ったり、無理なノルマを強要されて反発してやめて行った人も数多くいたのでしょう。そうした人たちには、ビッグモーターズの不正は許せなかったのでしょう。ネットなどで暴露が始まり、徐々に内情が表に出て来た様です。

 金儲けのタネが見えてしまえば、カリスマ社長のカリスマ性も消え失せてしまいます。テレビの説明会では、「会社のやったことは何も知らない。社員がすべてやったことだ」。と言っていましたが、それを見た人はきっと唖然としたでしょう。社員は言われてやったことであって、司令塔は、社長か副社長でしょう。それを知らないで済む話ではありません。

 創業社長で、一代で、5000人もの人を使う大きな会社を作った人なのに、散々魔法を使ってビックリするくらい売り上げを作っていたのに、息子にまで同じことをやらせて、売り上げを大きくして、その売り上げが普通のやり方で出来た売り上げ出ないことは社長が一番よく知っていたはずなのに。

 知らない、分からないで通ることではありません。でも見ようによっては、不正がばれた人の取る態度と言うのはそんなものなのかもしれません。元々不正と知ってやっていたことですから、不正を問われればもろいものです。

 周囲の人たちがうまく生きて行けるように、いろいろ配慮をして、どうしたら儲かるかを考えた社長であったと思いますが、不正に手を染めては言い訳もできません。ばれる前まではきっといい人だったのでしょう。人は見方です。ある一面だけを見ていたらものすごくいい人でも、別の一面を見たならとんでもない人というのは結構います。

 殺人事件があるたびに、テレビの取材で近所の人に犯人の日常を訪ねる時があります。「普段はとても気さくな人で、挨拶もよくする人の良さそうな人ですよ」。とか、「とても人殺しをするような人には見えませんでした」。とか言うことがほとんどです。それは当然なことで、いくら殺人を犯したからと言って、常日頃から人を殺しそうな顔をして歩いている人と言うのはいません。もしそんな人がいたら、初めからマークされています。

 世の中に、純粋な鬼なんて存在しません。鬼はそれぞれの人の心の中にいるのです。いい人でも悪い人でも心に鬼が潜んでいます。人は時として善人になったり、鬼になったりして生きています。

 犯罪者を見て、「なぜあんなことをするのだろう」。と思うなら、考えるまでもなく、自分の心を見たならわかります。人の心に潜む鬼を忠実に再現した人が犯罪者なのです。いい人も悪い人も、実は同じ人です。だから、あえて申し上げますが、ビッグモーターズの社長はきっといい人なのです。

続く