手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

ビッグであるには

ビッグであるには

 

 連日テレビコマーシャルで、「車を売るならビッグモーター」と、宣伝を繰り返していた、中古車販売会社、ビッグモーターが、自動車修理を不正に水増しして保険をだまし取っていたことが判明。組織ぐるみの犯罪としてニュースで取り上げられました。

 この企業では社員一人一人に厳しいノルマが課せられていて、それが達成できないとつるし上げを食ったり、サービス残業をさせられるようなブラック企業でした。そのため社員は、お客様の車を叩いてへこみを作ったり、傷をつけたりして、実際の修理箇所より修理の場所を増やすなどして売り上げを上げていました。それが日常化して、保険会社に不正請求を繰り返していたそうです。

 実際、多くの自動車保険は、3万円程度の自費分を支払えば、それ以上車が破損していても全て保険で賄えます。そのため、ユーザーは、事故や破損に対してあまり細かなチェックはせずに、全ては修理工場にお任せで、金額を精査しない場合が多いのです。

 修理工場は、修理の状況を書き込んで、保険会社に請求し、ユーザーは全く修理状況を見ないま直接、保険会社と工場がやり取りをしてすべてを済ませます。

 それをいいことに、今回のケースは、わざと修理工場内で傷を増やして、保険料を水増しして、売り上げを伸ばしていたわけです。これは明らかに違法です。 

 連日テレビで宣伝している会社が、そうした不正を働いて利益を上げていると分かったなら、その責任は大きく、信頼の回復は難しいでしょう。

 ところが、商売は、ユーザーが素人であることをいいことに、大して必要でないものまで売り込んで、利益を上げようとする企業がごく普通にあります。

 

 私が20代だったころ、いつも利用していたガソリンスタンドが、親切で正直な経営をしていたのですが、どうもそれではやって行けなかったらしく、系列の企業の傘下に入ってしまいました。ある日、スタンドに行くと、見慣れない店長と思しき人がきびきびと働いています。

 この人は声も大きく、動きも敏捷で、私の車にガソリンを入れると素早く、窓を拭き、室内を掃除します。いいサービスです。そしてボンネットを開けて、エンジンオイルを見て、「あぁ、エンジンオイルが汚れていますよ。こんなに汚れていると燃費が悪くなりますから、取り替えますか?」。と言って来ます。

 実はエンジンオイルは、半月前に別のガソリンスタンドで、変えたばかりでした。「おかしいな、オイルは変えたばかりだよ」、「そうですか、でも汚れていますよ」。と言うので、どれどれとオイルに差し込んだ棒を引っ張って見ると、奇麗なままです。「どこが汚れているの、奇麗じゃないか」。「おかしいですねぇ、見間違えたかなぁ」。空っとぼけています。

 自動車を扱うプロがオイルが汚れているかいないかを見間違えるわけはないのです。私を素人とみて、金を引っ張ろうとしているのです。怪しい奴です。

 エンジンオイルは、安いものなら1000円くらいからあって、高級品となると3000円くらいします。うっかり「それじゃぁ、オイル変えといて」、などと、状況も見ずにオイル交換を頼むと、相手は素人だと見破って、3000円のオイルを平気で使います。1000円と3000円の差は、さほど質の差はありません、ガソリンスタンドの利益が3000円の方が多いのです。儲け率の高いオイルを作ってくれるメーカーはガソリンスタンドにとってはいいメーカーなのです。性能の良し悪しは大差ないのです。

 何も知らなければいいように儲けられてしまいます。同様にウインドワッシャーもそうです。新店長は車を細かく調べて、「ウインドワッシャー液がなくなりかけていますよ、入れておきましょうか」。などと言って来ます。うっかり、「それじゃぁ入れてよ」。と言えば、洗剤の入った、凍りにくい、高級なワッシャー液を入れられます。然し、これも通常、関東地方を運転する限り、そんなものは必要ないのです。水で十分です。

 新しい店長が来てからはやたらとガソリン以外のものを売りつけて来ます。気の弱いユーザーや、見栄っ張りのユーザーは簡単に、二割三割余計に支払ってしまいます。やり手の店長が一人入るだけでガソリンスタンドの売り上げは大きく上がるのです。

 しかし、これは本当にユーザーのことを考えて仕事をしているとは言えません。人の無知に付け込んで利益を作っているのです。こうしたことが長く続くわけはありません。私は、この店長を見て、すぐにガソリンスタンドを変えました。明らかに嘘を言って利益を上げようとする店は信頼できません。

 今回のビッグモーターはそれを組織でやったのでしょう。何とかばれないように、利益を潜り込ませたのです。小さなガソリンスタンドが、ちょこちょこ店長の言葉一つで利益を上げようとするなら、そんな商売でも稼げるでしょう。

 然し、ビッグモーターと名乗って、日本全国に大きな看板を出している会社が、そんな商売の仕方をしていたら、いつか足元をすくわれます。今回が典型的なケースです。大きくなったならば、大きさに比例した、フェアな商売の仕方をして見せなければいけません。図体は大きくても、ユーザーをだまかして、小銭稼ぎをしていては、この先の発展はないでしょう。

 

 ビッグモーターの宣伝を長くやっていた俳優の佐藤隆太さんは恐らくこの事件を知って困ったでしょう。嘘や詐欺の片棒を担いで、宣伝していたのですから。知らなかったこととはいえ、結果ユーザーを失望させ、佐藤隆太さん自身の活動にも大きなダメージを与えたことになります。

 コマーシャルの怖さはこんなところにあります。特に佐藤良太さんはビッグモーターのコマーシャルが長かったため、すっかり定着してしまって、簡単に契約解消したから関係ないとは言いにくいでしょう。こんな時のタレントの立場は難しいですね。

 大きくなったら大きい自分自身の存在を知らなければならない。と言うことなのでしょう。言うは易く、行うは難し。と、まるで天声人語のような、上から目線の物言いで今日は終わります。

続く