手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

ロゼシアターの大歓声

ロゼシアターの大歓声

 

 昨日は、富士市にある、市民会館、ロゼシアターで、クローバーズ(アマチュアマジッククラブ)の第6回発表会がありました。私との縁は、もう30年近くになります。クローバーズのマジッククラブの前身には、富岳マジッククラブがあり、そこで毎月13人くらいの会員にマジック指導を続けて来ました。

 私の指導方法は、前半2時間は、基礎的なマジックを一つずつ全員で、半年、或いは一年かけて練習します。その練習を終えると、後半2時間(あるいは3時間)は、マンツーマンで、それぞれが覚えたいマジックを個人指導します。このため指導は半日がかりです。これを毎月指導をします。

 東京からプロマジシャンを招いて、毎月、みっちり個人指導を受けたなら、参加者はみるみる上達します。こうしてメンバーは地方都市では学べないようなテクニックを覚えることになります。更に、彼ら彼女らは、地元で年間30本も40本ものボランティア活動をして、生の舞台を踏んで自らの演技を磨いて行きます。

 無論アマチュアの活動ですから、見返りは求めません。それでも、普通のアマチュアとはレベルの違ったマジックを提供するものですから、地元の信頼は厚く、出演依頼はひっきりなしです。

 そして、今回のように、年に一度、市民文化会館などで華々しい発表会を催します。その時も、東京からプロの音響、照明を依頼し、ステージハンドは、プロの若手マジシャンに頼みます。そして司会もプロのマジシャンを使います。プロマジシャンは、 ただ頼まれてマジックだけをするのでなく、ショウ全体を把握することが、舞台人にとってとても大切な経験になります。経験を積むためにあらゆることを手伝います。そして、みんなが一体となって舞台を作る。これが観客に大きな感動を与えます。

 さて、順に昨日の演技の感想をお伝えします。一部の司会は藤山大成。

 一本目は、地元出身、東京在住の小林拓磨さん。東京でもうまさは定評があります。カード、ボール、シンブルとテクニックものを流れるように演じて行きます。一本目でこの人が出たら、この後はどれだけすごいショウなのかと期待が高まります。

 2本目は四條惠子さんパラソルプロダクション。手慣れて華やかに演じました。

 3本目は遠藤啓三さん。うまい人です。ハンガリアンロープ、三本ロープ共に手馴れています。

 4本目は稲葉三枝子さん、学校の先生。陽気な性格で、人の心を掴みます。ピラミッドも、フラフープも見ていて人を幸せにします。

 5本目、久島和夫さん、マジックを始めて日は浅いのですが、ファンカードと磁力カードを演じました。衣装までもが凝って来て、おしゃれになりました。

 6本目、夏那(なな)さん。中学生です。大柄なため、大人に見えます、独特の愛嬌があって、人を引き付ける力があります。モンゴリアンシルクなどのシルクマジックを演じました。今から技を磨けばプロマジシャンになれます。

 7本目プロマジシャンの川上一樹さん。身長186㎝、少女漫画に出てくるような優しいマスク、こんな人がデリケートなシルクの演技をすれば、楽屋のおばさんたちが騒ぐのも当然です。この人は数年のうちに必ず名前が出てくる人です、御注目。

 8本目は、龍登志子さん、まるで芸名のような名前です。とても見せ方を心得た巧い人です。演技は袖卵。単調な現象を表情豊かに面白く見せます。

 9本目、青柳正さん。若狭通いの水。なんせ80歳を超えていますので、セリフを飛ばさないか心配でしたが、うまくこなしました。陽気な舞台でした。

 10本目、稲葉美穂子さん。竹久夢二美人画から抜け出たような、大正ロマンを感じさせる人です。伊豆の伊東から通って来ます。蒸籠(せいろう)、という古典奇術を手慣れて演じました。どこか夢の世界に引き込まれて行きそうになりました。

 11本目、加藤弘さん。如意独楽、和服で出てくる姿はこの道50年の人間国宝のよう。既に枯れた味わいがあります。どんな人でも真面目に稽古をしていれば上達する、見本のような人です。

 12本目、小林真理子さん、演歌に乗って、6枚ハンカチ。アマチュアマジックの世界です。こんなマジックもいいかなぁ、と妙に納得します。

 13本目、佐野玉枝さん。この組織の会長です。卓越したリーダーシップで40人の組織をまとめています。今回の大会も400人の席を満席にしました。演技は双つ引き出し。古典ながら演技にメリハリがあって、予想以上の好反応。20年前に膠原病で意気消沈していた時から思うと嘘のよう。生きて行くことのすばらしさを身を以て示しました。

 ここで休憩、既に2時間の公演です。

 一本目は、二部の司会を務める早稲田康平さん。180センチ越えの身長で、筑波大学卒。エリートマジシャン。新聞紙の復活にゾンビボール。卒なくこなして、そのまま次の司会をします。

 2本目は藤山大成。羽根と傘を使った独自の世界。煙管を生かして煙が効果を上げています。

 3本目は磯部利光さん、12本リング。ようやくこなれて来ました。これで喋りが丸く仕上がったら名人です。

 4本目は西山量也さん。真面目さがにじみ出ています。演技はタンバリン。80歳過ぎてもこれだけの演技ができます。

 5本目は、近藤路子さん。何をやっても上手い人です。メリケンハット。このマジックは今ではあまりやる人もありませんが、丁寧に演じたらとてもいいマジックです。

 この後、マギー司郎と私(藤山)の演技。マギーさんとは50年に渡る盟友です。当時私はまだ高校生でした。絆は今も固く結ばれています。楽屋でもひたすら私と話をしたがりました。大した話ではありません。でも楽しいのです。50年も前の事を知っているのは二人だけなのですから。

 演技はいつも通り、縦じま横じまのハンカチ、右の耳に入れたシルクが左の耳から出る。50年前と何も変わりません。決して人の期待に答えようとしない、はずしまくりの演技がお客様には楽しいのです。驚いたのは、紙玉の復活をやりかけて、「こんなの繋がるわけないよね」。と言って、破れた紙の儘やめたこと。マギー司郎は、ついに何もしない境地に至ったようです。ここまで来ると観客の忍耐との勝負です。いや恐れ入りました。

 そのあと私の手妻。傘出しをして、人力車の引っ込みまで、弟子の大成との掛け合いでお椀と玉、そして蝶。蝶は古式にのっとって、面灯り(つらあかり=長い棒の先に大きな蝋燭を付けて演者を照らす道具)を使用。江戸の雰囲気を作りました。

 全て終わって8時40分。3時間以上の公演でした。それでも客席を離れる観客は皆無。お終いまで熱心に見てくれて、大歓声にのうちに幕。演じる側も張り合いのある舞台でした。

続く