手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

第19回マジックマイスター

第19回マジックマイスター

 

 去る5月1日、武蔵の芸能劇場で第19回マジックマイスターが催されました。客席は8割の入り、以下はその内容と感想。

 午前10時から出演者が集まり、先ずはリハーサル。間に昼食をはさんで、14時30分にリハーサル終了。

 16時には開場をして、お客様入場。そして16時30分からショウ開始。司会者は前半が早稲田康平さん。後半が前田将太。

一本目はちゃぶるさん。セクシーと言うタイトルで、体に香水を吹き付けながら、ボールや花を出すナルシスト手順。お終いに大きな花束を出して、更に自分をアピールして終わり。いい手順です。間にスローアクトを加えたり、後半に別のアクトを足したりして、8分くらいの手順にしたなら、もっともっとあちこちに売り込めるのですが・・。

 二本目は小林拓馬さん。手馴れたカードマニュピレーションです。見ていて安定感があります。演技全体にマジック愛が感じられます。いい演技です。特に後半の畳み込みが以前よりも効果を上げています。もう少し別の素材とコラボして、手順に変化を付加したらいいマジシャンになるでしょう。

 三本目は高橋正樹さん。お喋りを交えてのお札の手順。アマチュアイズム健在です。これはこれで完成された芸能だと思います。

 四本目は富士のクローバーズマジッククラブから、近藤路子さん。シルクの出現から、大きくなるハンカチ、そこから花が出現。連鎖シルク、20世紀シルク。お終いは大きな赤いブーケが二つ出現。巧くまとまっていますし、安定して演じています。巧いマジシャンです。

 五本目は同じく富士のクローバーズから、磯部利光さん。高齢ながら、ステッキのプロダクション、四つ玉、ピラミッドと、スライハンドを手掛けます。とても巧く演じています。服装にも気を使っていてお洒落です。

 六本目はやはり富士から、スマイル藤山さん。演目は今では珍しくなったメリケンハット。きっちりとしたやり方で演じる人が殆ど見なくなりましたが、こうして丁寧にやるととても不思議な演技です。サッチモのディズニーソングでいろいろなものを出すのがいいセンスです。

 七本目は堀内大助さん。横浜国大を卒業して、一時プロマジシャンになったのですが、今は会社勤めをしています。初めが5本ロープを喋りで演じましたが、この喋りがとても上手です。やはりプロ活動をしていた時の技が生きています。後半は峯村氏直伝のカラーボールのプロダクション。随所に珍しい手順が出て来ます。技法も難しく、マニアは大喜びです。できればもう少し演技に花があれば、後半盛り上がるのですが。ちゃぷるさんの芝居っ気が加味されればいいマジシャンになります。

 八本目は小松真也さん。京都の同志社大学を卒業して、今は東京で勤めています。コインのプロダクションから後半はお札のプロダクション。技のうまさは毎回感心します。ミスもなく、不思議な技を見せてくれます。もう少し時間的なボリュームが出て来たなら、あちこち仕事を紹介できるのですが・・・。

 9本目は諭吉さん。初音ミクのお宅マジック。毎回客席をひっくり返すほど受けますが、今回は少し抑え気味で、おとなしい演技になりました。遠慮しないでばかばかしくやってくれたらいいのに。また、もう少しいろいろなマジックを見せてくれたら、ファンもたくさん付くと思います。小松さん同様、4分程度では短かすぎます。6月からのアゴラカフェの出演が楽しみです。

 ここで15分間の休憩。

 後半一本目は前田将太。ブーツを履いて、着物袴姿。明治の文明開化を思わせる服装です。シルクや、羽を扱いつつ和傘が出現。時間が2分半くらい。短すぎます。内容も中途半端。もう少し何とかしなければいけません。

 二本目はローマさん。群馬から、高校三年生。演目は陰陽水火(おんみょうすいか)の術。真田紐の焼き継ぎです。シルクの出現、真田紐の焼き継ぎは上手く演じていましたが、後半の紐抜けが絡まってしまい抜けません。このまま途中でやめてしまうかと思いきや、紐をほどき始め、次の絹帯のプロダクションにうまく繋げました。そして和傘の出現で上手に見得を切り、お終い。いい度胸です。最悪の状態から舞台を投げないところが素質があります。

 三本目は私のアシスタントをしている穂積みゆきさん。袖卵。当人は袖卵の演技が気に入っているようです。とても手慣れています。着物もきれいに着付けていて、型も完成されています。もっと欲を出したらいいマジシャンになれます。

 四本目は名古屋から小川慶子さん。昔風の口上を交えての若狭通いは珍しく、演じ手が少なくなっています。しっかりとした口上口調で上手く演じています。お終いは半紙から滝を撒いて、そこから晒しの舞。晒はきっちりと踊られて美しくまとまっています。

 五本目は藤山郁代さん。19年間毎年出演してくださいました。初めに傘出しがあって、それから双つ引き出し。おなじみの手順を綺麗に演じています。

 六本目は早稲田康平さん。プロマジシャン。カードマニュピレーションからゾンビボール。ナイトクラブ時代の、スライハンドの王道演技です。巧いマジシャンなのですが、何でも軽く卒なくこなすため、何気に見てしまいます。もっと個性を出して、インパクトを作って拘(こだわ)った演技をすると、やがて名人になるでしょう。

 七本目は私。サムタイと蝶。もうどれくらいこの演技をしたことでしょう。この芸で50年以上も生きて来れたのですから幸せです。

 そしてフィナーレ。19時05分終了。二時間半の長丁場でした。でもお客様が喜んで帰って行って下さったので幸いでした。

 

 今月21日は、最後の玉ひで公演です。いざ終わるとなると感慨ひとしおです。そして6月からは日本橋のマンダリンホテル二階のアゴラカフェでマジックショウが始まります。私は第一回の公演で、6月5日、12時からショウを致します。全く今までと違う雰囲気の会場ですので、どうぞお越し下さい。

 

 9月30日は座高円寺でリサイタル公演を致します。前田将太の出世披露を致します。口上があり、前田の新作手妻の手順お披露目と日本舞踊の披露があります。ぜひこちらもまたお越しください。

 続く