手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

五月雨と峯ゼミ

五月雨と峯ゼミ

 

 もう5月も半ばだと言うのに、毎日が肌寒く外出の際にも、上着を着ないで行こうか、着て行こうか、迷います。その上着も、初夏の薄い上着ではなくて、昨日(14日)などは、厚手の上着を着て歩きました。しかも雨、晴れ間もありましたが、少しするとまた降り出します。風も強く、外出するには億劫になりがちな天気です。どうもすっきりしません。

 すっきりしないのは海外も同じで、ウクライナの侵攻は、一年を過ぎ、東側の4州を取られたまま膠着状態です。さすがにNATO各国は、これまで善意で支援していたものの、自国の経済状態が不安定になり、裏では、「そろそろ適当なところで休戦をしたらどうだ」。とウクライナに誘いをかけているようです。

 戦争と言うのはとんでもない費用が掛かります。ウクライナの侵攻は、欧州各国にとっても、ロシアにとっても国を傾けるほどの出費になっています。プーチンは馬鹿なことをしたものです。この戦いで、自身の名声とロシアの将来を失墜させたのです。二年前までのプーチンなら歴史に残る大政治家だったのに。

 ウクライナはこれから大作戦を実施して、ロシアを大きく押し戻す考えのようです。そのため、年内までは戦争が続きそうです。自国内での戦争ですから、日々、市民や兵士の死傷者も数多く出ています。仮に今休戦をしたとしても、ウクライナがこの先正常な活動をして行くには、数十年間復興活動をしなければならないでしょう。戦争の惨状を見るにつけ、ウクライナはこの先も苦難が続くことは明らかです。

 

 それを他人事と考えていると日本はこの先とんでもない災難に見舞われます。八丈島、千葉の木更津、能登半島、九州の吐噶喇島と、連日立て続けに地震が起こっています。これらの地震が大きくつながっているとは考えられませんが、こうも地震が日本中で起こると、ひょっとして、南海トラフ地震のような、広範囲で大きな地震が来るのではないかと不安になります。

 もし、四国、関西、名古屋あたりまでの広範囲な地震が来たなら、日本は大きなダメージを受けます。その被害は、東日本大震災の数倍にもなるでしょう。そうなると、復旧活動に大きな費用が掛かります。

 せっかくコロナでイベントが復活しつつあるときに、南海トラフ地震が来たなら、海外の観光客はストップし、建物や、公共物の被害で日本はこの先10年以上も復興に費用をかけなければならなくなります。そうなれば、日本中の自治体が、地元の祭りをやめて、被災地に支援金を送ることになります。

 そうなると、芸能活動はどれも中止になって、またしても芸能は危機を迎えます。もう一度コロナ並みの不況が来たなら、今度こそ、芸能活動は終わってしまうでしょう。南海トラフ地震の被害を前に、「芸能人の生活はどうなる」。などと言っても、世間は同情してはくれないでしょう。

 せめてこの先10年。何事もなく、芸能活動に活況の時があれば、蓄えも出来るのに。 「地震よ、10年待ってほしい」。と言う私の願いは、実るのでしょうか。大きな災害を前に人は無力です。ただ無事を祈るのみです。

 

 小雨の中を、田端の稽古場に向かいました。13時から峯ゼミです。参加者10名。前回指導された、ハイマッキーを使ってのウォンド手順が、内容が濃くて、とても秀逸な手順でした。それだけに一度では習得しがたく、今回は前回手順のお浚いをしました。参加者の多くは手順を習う際に、その場で自ら演じて、スマホに取り、ハンドリングを記録して、家に帰って復習するのでしょう。昔なら考えられない習得法です。その効果は抜群で、皆さん実によく覚えています。

 一本のマッキー(マジックインキ)が出たり消えたり、それが二本になり、三本になって終わる。と言うものですが、ギミックを使わずに、技法を駆使することで3分程度の手順を作り上げています。峯村氏独自のハンドリングがいくつもあり、スライハンドマニアにとっては垂涎の手順です。

 今回習っている生徒の中で、この手順をステージで演じる人が出たなら、かなり話題になるのではないかと思います。ぜひ自分の手順に組み込んで生かしてみたらいいと思います。

 

 少し休憩が入って、今度はライジングウォンドを使っての手順を演じました。ライジングウォンドとは、手に握ったウォンドが、自然に上の方に上がって行くもので、昔割りばしと輪ゴムで演じた宴会芸です。ウォンドの中にゴムが仕込んであって、密かにゴムを握ることでウォンドを持ち上げる初心者の小道具です。恐らくマジックショップに置いてあってもさほど売れる道具とは思えません。

 ところが峯村氏はこの道具を長いこと研究していて、これで一つの手順を作り上げました。単純にウォンドが出たり消えたりするのですが、その扱いが面白く、そして不思議です。これだけの不思議が一本500円のマジックで出来るのですから驚きです。私は早速一本買いました。

 習ってみると、マッキー同様に、如何にも峯村さんらしい独自のハンドリングが次々と出て来ます。「これはすごい」。と納得します。但し、どうも私はこの手順に入り込めません。一つはウォンドであると言う点が、食指が伸びません。

 いいハンドリングなのですが、私にはこの手順を演じ切るコンがありません。「私が20代30代だったら目を輝かせて習っただろうに」。目の前に展開されている峯村氏独自の世界を前に、私はただ立ち止まっていました。

 一瞬私は小学生の頃を思い出しました。仲間数人で長いロープで縄跳びをしているときに、「さぁ、早く飛び込みなよ」。と仲間が言っても、躊躇して、縄跳びの大きな波に飛び込めない子供がいます。「さっさと飛べばいいのに」。と思いますが、決断ができません。

 そうした子供を見て、「なぜできないんだ、こんなこと簡単じゃぁないか」。と思うのですが、当人にはできないのです。委縮してしまって全く足が出ないのです。あのときの飛べない子供を見て、それが60年経って自分がそうなるとは思ってもいませんでした。

 私にとって緻密なスライハンドはそもそも無理なのでしょうか。いやそんなことはありません。年齢による衰えもあるでしょうか、そもそもたくさんの技法を詰め込んだ手順が私には理解できなくなってきているのかも知れません。

 かつてのように、何でも向きになって練習するのではなく、ここは、峯村氏を素直に認めて、私は少し離れて見るべきなのでしょう。と、勝手に判断しました。

 4時半に指導終了。今日は、母の日、娘と共にケーキで女房を祝うために早く帰ります。こんな日があってもいいのでしょう。

続く