手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

ポーカーと峯ゼミ

 ふと、思い出しましたが、松旭斎天一先生はめちゃくちゃポーカーの強い人だったと聞いています。天一師は、明治33年に一座を引き連れ、アメリカに渡り、3年半に及ぶアメリカ、欧州の興行をしました。ショウは大成功で、巨万の富を作って帰国をしました。

 全く頼るすべもないにも関わらず、手探りで、一座とともに外国に出て、自らの技を披露して、興行界で成功すると言うのは、物凄いことですが、この人の行動は何から何まで破天荒で、明治を代表する芸能人として、世界的に有名な人でした。

 その天一師が、海外公演中にポーカーを覚え、帰国後も、興行の空き時間には、ゲストや楽団仲間としょっちゅうポーカーをしていたそうです。その腕前は誰よりも強かったそうです。そもそもが天一と言う人はハッタリの多い人ですし、ここぞと言うときの勝負運の強い人でしたから、ポーカーと言うゲームが性に合っていたのでしょう。

 今、日本では、じわじわとポーカーが流行って来ています。東京大阪など、特定のホテル内にカジノを作る計画があって、近々カジノが解禁される気配が濃厚です。実際、街中にパチンコ屋さんがあるよりは、特定のホテル内でルールを守ってギャンブルをしたほうが健全ですし、その方が治安がよくなります良いでしょう。世界的にそうした傾向でなされていますから、日本も世界の流れに習ったほうが良いと思います。

 さて、そこで、ふと、思いついたのですが、ポーカーが流行ると、当然ファンが増えます。多くの人は勝利を信じて神頼みをするでしょうが、ポーカーの神と言うものが日本に存在しません。そうなら、明治にいち早く海外に出てマジック界で成功をした、ポーカー好きの天一師をポーカーの神様と崇めて、天一師ゆかりの神社に天一ポーカー神社を併設させてもらって、ポーカーファンのメッカとしては如何でしょう。

 天一師が厚く信仰していた、福井市藤島神社あたりに、ポーカー神社を併設して、全国のマジックファン、ポーカーファンの拠り所としては如何でしょう。人生でも大成功をし、数々の強運に恵まれ、亡くなったときは国葬のごとき盛大な葬式を上げ、死後も巨万の富を残した輝かしきマジシャンである天一師。その勝負強さにあやかって、神とまつるのはいいアイディアだと思いますが、如何。

 今度12月に天一祭を催す際に、藤島神社を訪ねて、勝負の神、強運の神をまつる意味で、天一のお社を作ったらどうかと話して見ます。福井県民は地味で、自分の町を宣伝することは不得手です。ここは一つ、天一さんの大ぼらにあやかって、ひと吹きしてみるのもいいかと思います。うまく行ったら福井に新名所が出来ます。地元の著名人が後世の町の発展に役立つのであれば、それは誠に幸いなことです。

 と、そんなことを考えていると、二日前に偶然、福井子ども歴史博物館の館長を務めていた、笠松さんから電話が来ました。笠松さんは今は福井県坂井市で別の博物館の館長さんをされているそうです。

 久々お話をして、12月の天一祭の際に会う約束をしました。笠松さんには天一祭設立の際にはずいぶんと協力をしていただき、今も子ども歴史博物館では、天一祭の公演をしています。と言うわけで、12月10日は多分、一日予余計に福井に行くことになりそうです。ポーカー神社の話と言い、笠松さんとの再開と言い、冬は、福井行きが楽しみです。

 

 と、そんなことを考えつつ、昨日(9月10日)は午後に、田端のレンタルルームでの峯ゼミに向かいました。峯ゼミはこのところ、ウォンドの手順と、ウォンドを発展させた、ハイマッキー(マジックインキ)の手順指導をしています。それも、来月で終了し、その後は、一度四つ玉に戻って指導をし、更にその後はコインを指導すると言うスケジュールのようです。又今週末は、神戸での合宿指導があります。今、峯村氏からマジックを習うことは大きな財産になります。スライハンドマニアならぜひ受講されることをお勧めします。

 そのウォンドの手順ですが、私は、四つ玉、シンブル、カード、シルクと指導が続いてきた中で、今回のウォンドが最も内容が濃く、実用性も高く、しかも、最も個性が強い作品に仕上がっていると思います。実に精緻に細部までこだわって手順が作られており、こうした手順つくりは、峯村氏以外では作り得ないだろうと思われます。

 但し、それだけに、細部まで複雑で、難解です。それを詰め込んで指導をされると頭の中が付いて行けません。私などはいつも、指導の前半で満足してしまいます。何度も反芻(はんすう)して理解しなければとても無理です。

 実際、このところ峯ゼミの生徒さんで休む人が出ています。内容に関しては物凄く面白いのですが、生徒の頭の中が追い付きません。難解な数学の授業を受けているような感覚になります。

 それでも、先月の手順は優れ物で、全く手ぶらで出て来て、ハイマッキーが出現し、出たり消えたりを見せるうちに、二本になり、三本になって終わると言う手順ですが、怪しい動作を消すための対処法が考案されていて、知らずに見ていると自然に太いペンが増えて行くため、とても不思議でした。

 前回のお浚いとして、ザッキーさんが生徒代表で演じました。彼はあの複雑怪奇な手順を難なくこなして、しかも、峯村氏並みのスピードで演じたのには驚きました。正直、ザッキーと言う人をこれまで軽く見ていました。改めて見直しました。確実に彼のマジックの技量は深まっています。

 指導の後半は、3本のハイマッキーの色が変わって行って、三色6本になって終わると言うもので、全く始めに何も持たずに出て来て、小テーブル一つだけで6本までのペンの手順ができてしまうと言うのがすごい発想です。当然ギミックはあるのですが、全く赤と青の二本のハイマッキーで出来てしまうのです。この手順はいずれUGMで発売されるそうですが、確実に話題になるでしょう。

 

 さて、峯ゼミは4時30分で終わり、その後は峯村氏との飲食は休み、そのまま東急ハンズに向かいました。素材探しが目的です。ところが東急ハンズは、以前の日曜日なら、お客様でごった返す筈が、コロナ以降、混雑することがなくなりました。もう30年以上も東急ハンズに通い詰めて来て、このような閑散とした状況を見ると、ハンズも一時代を終えたのかなぁ、と思いました。

 当初は金物屋さんのベテランを雇って、お客様のどんな質問にも応えられ、どんな材料も集めるとしていた店が、今や品不足が目立ち、仕入れの商品も間引いています。一時期のように、全く知識もないくせに、嘘の知識を振りかざす店員がいなくなったのはいいことですが、それでも、そんなバカ店員がいた頃の方が店には活気があって面白かったと思います。コアな商品を手に取って見られなくなったことは痛手ですし、何より店に当初の意気込みが消えてしまったことが残念です。私にとっては今でも有り難い店ですから。何とか維持して残ってくれることを望んでいます。

続く