手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

FISM国内コンテスト

FISM国内コンテスト

 

 10月20日(金)久喜総合文化会館小ホールにて、JCMA主催によるFISM国内コンテストが開催されました。久喜は埼玉県北部にある閑静な都市ですが、これまでマジックの大会をした経験などないため、集まって来る人も慣れない場所に面食らったでしょう。観客は300人の会場に100人ほどでしょうか。劇場としては素晴らしく、スライハンドなどには最適の場所でした。

 コンテスタントは13組、チャレンジャーのレベルもかなり高く、白熱した舞台になりました。以下は私の感想。

 

 一本目は松村昌範さん、シルクからカード、ボール、掌を正面に向けて、カードを出したり消したり、不思議な現象がいろいろ出て来ます。但し、終始テーブルの脇で演じているため、マジシャンの印象が薄く見えます。ステージングを学んだら、相当のマジシャンになるでしょう。

 二本目は、太田光雅さん、シンブル。一本の演技から、カラーチェンジ、指にはめた4本の白シンブルが、一瞬に吹雪に変わるなど、とても美しい。終盤で、4本の白から、青に変わり、緑に変わり、各色になり、それが消えて吹雪に変わるのはとてもよく出来た手順です。お終いでギミックがフラッシュしてしまったのは残念。地味な前半をもう少し刈り込んでもいいと思います。全体に巧いのですが、淡々とお茶の点前を見るようで印象に残りません。

 三本目はタロリンさん。スロットマシンをイメージして、カードの変化。手順の組み方が個性的でアイデアは面白いと思いました。後半になるに従って宝石出しや。金のインゴット出しなどが荒っぽくなりました。結局何がしたいのかが分かりません。

 四本目はささきくちさん。ものすごい個性的なカード出しでした。従来のハンドリングにない演技です。最近流行りの白いカードがメインです。白いカードを8枚、縦に並べて持って、一瞬に消えます。右手に持っている白いカードが空中に移動して、左手に移るとファンになります。両手でファンしたカードが一瞬に消えます。不思議な演技でした。演技に方向性と表情付けができるようになると、日本を代表するカードマジシャンになるでしょう。

 五本目はチャブルさん。花と香水の手順は、一年前から比べると充実度が増して、安定したうまさが見えました。但し、お札以降が雑でした。後半のボトルプロダクションは何がしたいのかが分かりません。この人の役は、自分がもて男だと勘違いしていて、その自己陶酔する姿がおかしいのでしょう。そこを最後まで徹底的に勘違いで終わらせないと面白みが出ません。

 六本目はうえしさん。工事現場のお兄さんが、だんだんロックスターに変身して行くと言うコンセプトが完璧にできています。初めのお兄さんがもっと下衆野郎だったら面白いのに残念。それでも強い方向性が出来ています。衣装もよくなって、箒の数も増えて、細かな変化が生きて来て、音楽にもぴったり合っています。お終いにギターとアンプとマイクまで出して決めて見せるのはマジックの優等生的なエンディングです。かつて鳩の頭を出していた人が、ここまで成長するのですね。

 七本目はダンクさん。以前私が、ウォンドとは結局何なのかがさっぱりわからない。と言ったことに答えを出しました。実際ウォンドを使ってネクタイが出て来たり、ネクタイが伸びたり、シルクがダンシングしたりと、ウォンドを使うことで魔法が発生しています。始めてウォンドに魔力があることが分かりました。又、古いボードビリアンの雰囲気がイメージに合って哀愁すら感じさせます。

 但し、お終いに小さなウォンドをたくさんばらまいて終わるのは、お手軽な学生手順になってしまいました。ウォンドとはそう軽々に手に入らない宝物のはずです。そこを強調しないと何のための演技なのかが分かりません。それでも今まで見たダンクさんの演技の中では最高の出来です。

 八本目は村田奈央さん。出て来ただけで、雰囲気のある人ですから、観客の心を掴みます。でも、この手順は何度見ても未整理を感じます。初めのアルバムと写真の下りが、何を語っているのかよく伝わりません。シャツの浮揚は浮いて見えません。洗濯物が花になるのも、美しさがありません。シャツ一枚を消すために初めからずっと大きな段ボール箱を舞台に置いておくのも洗練されません。長く奈央さんを知っているだけに、もっと美しい舞台が作れる人のはずが、葛藤ばかり目立って残念です。

 九本目はちえみさん。赤と黒の華麗な衣装で登場。紙にくるんだ大きなキャンデーを出して、中身の飴玉がゾンビボールに変化。空中を漂う間に目の前で一瞬に色が変わります。とても綺麗でした。個性的なアイディアが光っています。エンディングが物足らなかったのが残念。

 十本目は古川玲さん。ワンデックでひたすらカード出しをします。マジックマニアは大喜びの手順です。後半はジャンボカードのプロダクションで、荒っぽいハンドリングになりました。ここで大きなカードが必要かどうか。内田貴光から色気を取って、脱脂粉乳にしたような演技をしてどうしますか。むしろここはコクのある純粋なスライハンドを丁寧にやって見せてほしいと思いました。但し、客性は沸いていました。永遠のアマチュアスターです。

 十一本目は小川颯(はやて)さん。まだ中学生か高校生ではないかと思います。然し、カード出しなど、とても技巧的で上手です。空の手から水を出すのは不思議。青いカードのプロダクションも個性的。然し、スチールが何度も見えました。基本的なところに難ありです。それでも何年かしたら、空恐ろしい存在になるでしょう。

 十二本目は橋本昌也さん。出て来た瞬間からその安定した演技が別格でした。芸能と言うのはこれほど明確に差を示します。今まで演じて来た鞄とシールの手順が細かく修正されています。途中シールをゆっくり剥がして見せるところなど、芸能を心得た人の発想で観客を魅了しました。大きな風船が出るのはインパクトがありますが、そのために舞台上にものが増えるのはせっかく洗練された舞台をつまらなくします。大きさにこだわらない演技こそが彼の目指すものなのではないですか。

 十三本目は鈴木駿さん。私は最近の、カード手順を白いカードで演じるのは意味がないので反対です。あれでは観客に何をしているのかが伝わりません。然し、齋藤駿さんの演技は、白と黒のカードをリフルシャフルして、ピアノの鍵盤が出来ました。あぁ、つまらない演技がセンス一つで芸術になった瞬間です。いいものを見ました。ボールのアクトも、カードが虹に変わって音楽も変わって行くところなど才能があふれています。長く彼を見て来て、ここまで演技が昇華するとは予想できませんでした。すばらしい出来でした。

 

 と言うわけで、その後長い休憩の後、表彰式、このコンテストのために、香港のアルバートタムさんを招き、カナダのSAM会長を招き、香港のマジッククラブ会長を招き、日本の審査員、ケン正木さん、ヒロサカイさんを招いての表彰式です。大変な費用が掛かっています。結果は、一位、橋本昌也さん。二位、鈴木駿さん。三位、うえしさん。誰もが納得の結果でしょう。

 私は登壇して、感想を求められましたが、ここはFISMの役員に任せるべきでしょう。アドバイスはしても、中心に立つことは遠慮しました。

 帰りがけに久喜の駅前の焼鳥屋に入って、一人焼き鳥とハイボールを呑んで、コンテストの演技を細かくたどりました。いや日本のマジックレベルは高くなりました。ただ気の毒なことは、彼らが実際の舞台経験が少ないことです。この先はもっと舞台の場を作らなければいけません。それが私のこの先10年の活動になるのでしょう。

続く