手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

KMS・MMS合同発表会

KMS・MMS合同発表会

 

 慶応大学のマジッククラブの発表会が昨晩(8日)、赤羽会館で開催されました。前回のマジックナインの発表会と言い、このところよく赤羽に来るようになりました。

 慶応大学は高校から大学まで一貫しており、マジッククラブは高校大学と両方の学校にありますので、成績さえよければ最長7年マジック活動が出来ます。

 それが幸いしてか、安定したアマチュアマジシャンが育っています。実際、このところのコロナ騒動で、他の大学が壊滅的な打撃を受けているにも関わらず、慶応は無事に発表会が開催できています。

 今回は、高校、大学、OBと、三世代の中から優秀な人が選ばれて出演したようです。私の感想を先に言えば、いい形のアマチュアが育っている組織だと思います。以下はその感想。

 

 司会者はOBの矢野達也さん。ビジネススーツで登場。如何にもサラリーマンが司会をしている感じで、会社の新年会を見るかのよう。アマチュアの発表会としては、気負ったところがなくて、むしろ潔く、これはこれでありですね。

 

 一本目が早瀬夏子さん。学生の頃に私のところに習いに来ていました。マジック大好きのお嬢さんです。ステッキとシルクの手順をつなぎ合わせてチャーミングにに演じていました。マジック好きの女子は是非育っていただきたいものです。

 

 二本目、楠瀬弘城さん。学生の頃は何度かマジックマイスターなどに出演してもらいました。その頃は四つ玉でしたが、今回はジャグリングです。見せ方にこだわって、徹底してスタイリッシュな輪投げを見せました。上手い人だし、完成した演技です。

 

 三本目は吉岡美紀さんのベリーダンス。和服を着ながらベリーダンスを踊ります。途中衣装が変わったり、傘が出たりしました。マジック部分が所々フラッシュ(=ばれ)ています。でもまぁ、変わった芸ですから、彩としてOKでしょう。

 

 四本目は今井悠さんの煙草とボールの演技。煙草は今はなかなか見ることが無くなりましたが、かつてのナイトクラブに出演していたマジシャンは、煙草と四つ玉、カードは必須でした。懐かしい手順です。お終いが一本の煙草で終わってしまうのは地味すぎます。手順が循環して元に戻ると言う考えは、考え方としてはいいのですが、実際見る側にすれば、「夢落ち」のようで、演技の盛り上がりを削ぐように思います。

 

 5本目は内田伸哉さん。電通に勤めて、今は自分で会社を興したのでしょうか。何かと有名人です。ipadを使ったマジックで。映像からボールや、カードを抜き出したり入れたりするおなじみの映像アクトを、小さなパソコンでやろうと言う趣向です。よく考えられていて面白く、これはご当人が一番得意な分野でしょう。

 ここで10分間の休憩。

 

 二部一本目は、乃坂智之さん。ロープを使って胴体貫通などを見せ、お客様を上げてハンドカフでサムタイのような演技をします。この形式こそが最も古いサムタイの演技です。いずれも手馴れていて安定してます。

 

 二本目は有栖川大道芸団。竹本如洋、佐藤佳子、茂木和徳のお三人によるジャグリング。3本ピンから徐々に増やして行って8本までを見せますが、珍しい技があって、見飽きがしません。相当やり込んでいます。上手いし面白いと思いました。

 

 三本目は長門浩二さん。シンプルな三本リングかと思うと、「リングとシルク」の手順が入ったり、お終いは、首にかけたリングが、ハンカチで顔を覆うとリングだけが消えています。見ていてマジック好きなことがよくわかります。上手い人ですね。

 

 四本目は刀禰館愛華、伊佐山晴香のお二人による傘出し和妻。学生おなじみのパターンです。たびたび種がフラッシュしてしまいますが、綺麗な女性が演じているので、観客は喜んで見ています。演技の中に一つでも本当の「手妻」が入るといいのですが。

 これで二部が終わり、10分間の休憩。

 

 三部は、冒頭が、齋藤晢範さんのディアボロ、この人はよほど稽古をしているらしく、基本的なレベルが高く、珍しい技をいろいろ見せました。拍手もこの会一番だったと思います。どうも、マジックとジャグラーがコラボしたショウになると、受けをジャグリングにさらわれて行く傾向にあるようです。

 

 二本目は和妻で、松野正和さん。冒頭に煙管(きせる)を加えて登場。どうも最近私の煙管の演技を真似る人が増えたようです。ただ、私の場合は、煙草盆に似せた引き出しを持って、煙管を咥えて登場するから煙管に意味があるのですが、理由が欲しいところです。

 小さな白扇を出したり消したり、ハンドリングはウォンドのアクトの応用でしょう。その後、大きな白扇が出て来ますが、道具の手作りがよくわかります。もう少し奇麗な扇子だと和の文化を感じるのですが。種がチラチラフラッシュします。それでも不思議さで観客を引っ張ります。和服と帯のセンスに問題あり。全体に「粋さ」が加われば神になれます。

 

 三本目は小林遼太さん。コンテストなどでよく見ます。上手い人です。カードとCDの手順を技で見せます。立ち位置がテーブルの後ろで演技をしているのが気になります。テーブルの前に出て来て演じなければ貧弱に見えます。実際上手いのですから、後は自分のスタイルが生まれれば仲間のレベルを超えたものになるでしょう。

 

 四本目は鬼頭登さん。マスクチェンジ。何度か見ていますが、旧来のマスクとは明らかに違います。その違いが変質者の方向に行くところが個性です。今回は後半に面が増えて行ったことで、マジックらしい盛り上がりがありました。この人がどこに行こうとしているのかがまだ見えて来ません。定住の地が見つかるといいと思います。

 

 五本目は倉持信さん。学生伝統のウォンドの演技。毎度学生のウォンドを拝見しますが、ウォンドが何なのか、観客に伝えていません。ただ出て、消えます。ウォンドを手順として演じているのは日本だけです。考案者のフリップ・ハレマはさぞや草葉の陰で喜んでいるでしょう。

 縁起は綺麗にまとまっていて、巧さを感じます。もう一つ自分らしい個性が出たなら推薦したい演技です。

 

 六本目は森岡哲也さん。私のマジック教室に通っていた少年で、小学生のころからよく知っています。私にマジックの講釈を熱心に語っていました。随分森岡さんにはいろいろと教えていただきました。好きなだけあって上手い人ですし、アイディアも豊富です。どこのコンテストに出てもかなりの高得点を上げます。

 あとはあなたがお客様に愛されるかどうかです。ご自身がマジックばかりを見ていないで、お客様に目を向けて、お客様が何を求めているかを探り出すことです。ステージに上がると言うことは、社会の中で自分がどの位置に立つかを考える場なのです。そこをはっきり見極めたならば飛躍的に大きく評価され、スターになれるでしょう。

 

 結局二時間半近いショウでしたが、退屈することなく見られました。5時30分にきっちり始まったこと、司会者に無駄がなかったこと、演技にお粗末な人とがいなかったこと、半世紀と言うのは一つの歴史だと実感しました。

続く