手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

流行り廃り

流行り廃り

 

 世の中はものすごいスピードで動いていて、ついこの間まで賑わっていた店が、今はもう経営が思わしくないと言うことがいくらもあります。かつて駅前の商店街で大きく仕事をして輝いていた商売は、銀行と、パチンコ屋さんでした。この二軒は商店街の中でも建物が立派で、常に人がたくさん出入りしていました。然し、今はどちら振るわなくなっています。

 銀行はかつてはたくさん人が出入りしていて、ソファーには入金出金する人が待ち続けている、そんな状況を最近は見なくなりました。カードで簡単に下せるようになりましたし、通帳と印鑑を持って歩かなくても済むようになって、現金の需要も大きく減って来たのでしょう。銀行の混雑も見なくなってしまいました。

 銀行が世の中からなくなると言うことはないにしても、何となく華やかな雰囲気が失われてきて、元気がないように思います。

 一方パチンコ屋さんはコロナ以降全く振るわなくなってしまいました。北口に大きな店があったのですが、これはコロナ中に廃業してしまい、ビルごとなくなってしまいました。幾ら儲かっていても消える時はあっという間です。

 昔から商店街には、蕎麦屋さんうどん屋さんは必ず一二軒はあったのですが、どうも日本蕎麦は人気が今一つのようです。ざるとか、キツネ蕎麦などと言うものでは若い人が満足しなくなってしまったのでしょうか。

 天ぷらを乗せたら満足しますが、今時は天ぷらが乗ると蕎麦も軽く1000円を超えてしまいます。そうなるとなかなか昼飯には足が遠のいてしまうのでしょう。逆に、かなりこだわって、素材を吟味しているような店は当たっているようですが、昔からの蕎麦と丼物を出す店は徐々に減っているように思います。

 同様に、大阪に行くとかつては、ワンブロックに一軒ぐらいの数でうどん屋さんがあったのですが、今はうどん屋さんをほとんど見かけません。全くなくなったわけではないのでしょうが、それほど大阪の人はうどんを食べなくなったのでしょうか。代ってラーメン屋さんが増えています。

 ラーメンも、関東関西を問わず、鶏がら醤油と言う昔風のスープを出す店は少なくなって、とんこつ、醤油と言う濃厚な味が今や主流になっています。味はどんどん複雑になって、魚介出汁がベースになった上に、つけ麺になったり、チーズが入ったり、カレーが入ったりすると、もうそれはラーメンとは形ばかりで、国籍のわからない食べ物に変化しています。

 確かにこうしたラーメンを食べ慣れると、澄んだ出汁にキツネが乗ったうどんは寂しく感じます。もっとも私にはこのシンプルさがいいのですが、

 

 昨日(13日)に昼に高円寺北口にある、くら屋と言う日本蕎麦屋さんに行きました。ここは日本蕎麦屋さんがどんどん減っている状況下にもかかわらず、4年ほど前に店を出して、結構流行っている蕎麦屋さんです。昼は蕎麦を出し、夜は酒とつまみと蕎麦でやっているようです。そのため、刺身や焼き物などのつまみが充実しています。

 いつも昼時は満席の状況で、入れないこともしばしばですが、昨日の昼は雨が降り出して、人の出鼻がくじかれたのか、楽々入れました。これ幸いと座って、かき揚げ蒸籠を頼みました。天ぷらはいい素材を使って揚げていますので酒のつまみにも最適です。

 ここの蒸籠は、二段重ねで出て来ます。一段は決して多い量ではありませんが、重ねて出てくると贅沢な感じがします。

 かき揚げは三つ葉と海老で、海老はかなり身の厚い海老が数匹入っています。かき揚げを箸で崩して、猪口に入ったつゆに浸して食べるのですが、かき揚げの天ぷらに比べてチョコが小さくて、食べにくいのが欠点です。又つゆが少なくて、もう少したっぷりつゆに浸らせた上で蕎麦と一緒に食べたいのですが、それが出来ません。ここは一工夫欲しいところです。

 蕎麦はしっかりしていて、味わいもあります。つゆは甘すぎず、辛過ぎずちょうどいい具合です。かき揚げは余計なものが入っていない分、海老のうまみが強調されて、満足します。やはり蕎麦は油と合わせると味わいが倍加します。

 もう一つ、とろろそばあたりを頂きたいところですが、残念ながら私はもう食べられません。以前は蕎麦種を変えて三杯くらいは難なく食べられたのですが、それは出来なくなりました。

 さらりと食べて、蕎麦湯を一杯頂いて、1400円。高円寺ではいい値段です。それでもお客様でにぎわっているのですから、支持されているのでしょう。高円寺の蕎麦屋さんは、ここと、南口の信濃がおすすめです。北へ行くか南へ行くかはその日の気分次第です。

 

 中央線沿線にはなかなかはだって出かけて行くようなそば屋さんがありません。西荻窪の本村庵か、中野の更科がいい店です。更科は場所が近いこともありまして時々行きます。ここは三種類の蕎麦があって、普通の蕎麦、更科蕎麦、田舎蕎麦がそれぞれ注文で出て来ます。三種盛と言うのもあって、三種の蕎麦が少しずつ盛ってあります。

 これを味わうだけでも楽しいのですが、他の種ものも充実していますし、酒のつまみもたくさんあります。私などは仕事の帰りに時々寄って酒と蕎麦を楽しみます。

 本村庵はもう何年も行っていませんから、又行ってみたいと思います。大分値段も上がっているでしょうから、少しおカネ余裕がなければいけません。なかなか交通の便の悪いところにありますので、また行く機会が限られますから、空腹にして行かなければなりません。それでも今はさほどに食べられませんので、家族や、仲間と行かないとなりません。

 なかなか蕎麦も高級店と同じで、ちょっと蒸籠をひっかけて行こう、なんていう気軽な気持ちではいい蕎麦は食べられません。「今日は蕎麦を食べるんだ」。と、本気になって行かなければなりません。それでもいいそばに巡り合えるのは楽しいことです。

 私は、人生最後の食事に何が食べたいかと問われたなら、「浅草の並木の藪の、蒸籠」。と答えるでしょう。あの慈味な味わい、シンプルでありながらしっかりとした主張。ものすごく辛いが奥深いつゆ、あれをお終いに一杯食べられたら満足です。

続く