手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

余りに巨大

余りに巨大

 

 今回のWBCの試合はすべて見ましたが、侍ジャパンチームと、他の国のチームとの差があり過ぎて、まるで小学生の運動会に高校生が入って、居並ぶ小学生を蹴散らしているようで、むしろ相手チームに申し訳なく感じました。

 お客様のお目当ては大谷選手や、ダルビッシュ選手の人気が大きいのでしょうが、仮に、彼らがいなかったとしても、残りのメンバーだけでも十分に勝てたのではないかと思います。ピッチャーだけでも、まだ佐々木朗希、山本由伸、宮城大弥、などなど、みんな実力があって大活躍しましたし、打者も牧秀吾、山川穂高、近藤健介、吉田正尚、ヌートバー、と、それぞれが物凄い活躍をして、点数を上げています。

 基本的にチーム全体のレベルが高く、恐らく今が日本の最強メンバーなのだと思います。それでもこの先は一回負けたら敗退ですから、油断はできません。アメリカ、オランダ、プエルトリコ等、強いチームはいくつもあります。それでもこのメンバーならどこの国と戦っても十分勝利すると思います。

 

 そうした優秀なメンバーの頂点に立つのが大谷選手です。彼だけは別格で、これは日本のチームの中で別格なのではなく、世界中の野球選手の中で別格に巨大で、人気があります。海外の選手も日本の選手も羨望の眼差しで見つめていますし、テレビ局も最大限の配慮をして、試合に関係なく、一分に一回は大谷選手をカメラに映しています。

 もし彼がエンジェルスではなくて、ヤンキースドジャースに所属していたなら、全米でも彼の人気は桁違いで、世界中のあらゆるスポーツマンの中で最高の年俸と、人気を持った選手になっていたでしょう。

 残念ながら、エンジェルスは余りに小さなチームです。試合はめったなことではテレビのメイン時間に放送されません。幾らホームランを打っても多くのアメリカ人はその活動を生中継で見る機会がほとんどないのです。あとでニュースを見て結果だけを知るのです。つまり世界中の野球ファンが大谷選手に興味を持っていながら、試合を見るチャンスは限られたものでしかありません。そもそも、エンジェルスの活躍には誰も興味を示さないのです。

 実際エンジェルスの成績は振るいません。そんな中で大谷選手は5年も辛抱して活動して来たのです。自分を最初にアメリカのリーグで買ってくれたチームへの恩返しと言えます。然し、今の大谷選手の状況は、例えていうなら、始めは小さな檻の中で生活していた小熊だったのですが、いつしか、檻よりも体が大きくなってしまって、もう身動きが取れなくなってしまった状況です。むしろこうなるまで移籍しないことの方が不思議で、アメリカ中の野球ファンが、「大谷はなぜエンジェルスにいるんだ」。と訝(いぶか)しがります。

 彼自身は収入とか贅沢に興味がないようなのですが、そうは言っても、もっともっと活躍できる場所を求めないと、限りある人生に今以上の成功は掴みにくくなります。大谷選手もようやくそのことに気付いて(いや、初めから気付いていたのでしょう)、どうやら移籍に動き出しているようです。

 

 それにしても、大谷選手の体型は日本のアニメキャラクターのようです。私が子供のころに見た、マジンガーZ勇者ライディーンのようなメカロボットを思わせる、完成された体つきをしています。漫画なら何とでも描けますが、実際、そうした体格になることは至難です。日々の肉体を鍛錬することで、肉体改造が出来上がっているのです。

 彼の境地に至るには、彼と同じように、他のことは一切考えず、ひたすら野球と体力作りに励まなければなりません。然し、誰もそこには到達しないのです。大谷選手は仲間の遊びを断って、今も、一人黙々と筋力作りに励んでいます。

 それにしても、大谷選手には世界中の野球選手が集まって来ます。みんな彼の活躍を良く知っています。そして彼のような選手になりたいのです。欧米人が日本人に憧れて寄って来ると言うのは異常な事態です。彼らが日本人の、大谷選手になりたいと思うこと自体、歴史の上での大変革です。

 彼らは大谷選手と同じドームにいることだけで幸せなのです。分かります。私もチャニング・ポロックやフレッド・カプス、ダイ・バーノンと一緒に話が出来たときは幸せでした。自分の人生でそんなチャンスが来るとは思ってもいなかったのですから。全くそのことと逆の現象が、今東京ドームで起こっているのです。日本人としては誠に名誉なことです。

 大谷選手は、野球界のカリスマなのです。彼自身はまだ自分自身の可能性を模索しているようですが、傍から見たなら彼の存在は完成形なのです。

 

 但し、気を付けなければいけません。二刀流を維持すると言うことは、人の二倍以上体を酷使することになります。大谷選手にしても、佐々木朗希選手にしても、一球一球、球を投げる姿をスローモーションで見ると、苦痛に満ちた表情をして投げています。実際辛いのでしょう。たった一球の球を投げるだけでも、体を限界まで駆使して、苦しみながら投げているのです。

 それは、自分の人生を思いっきり縮める結果になります。細く長い人生を、太く短く消費してしまっているのです。ファンは凄い凄いと騒ぎ立てますが、当人はありったけの力と技術を惜しげもなく使っているのです。明らかに無理を繰り返しています。

 その反動は、これから数年後に必ず出て来ます。少し体調が思わしくなくなれば、すぐに成績は下がります。そうなると観客は失望し、次のスターを探しにさまよい始めます。人気商売の悲しさです。

 そんなことは大谷選手も承知でしょう。それでも現役でいる限り、人にできないような活躍をして見せたいのです。今、この場を頑張って大きな花を咲かせたいのです。

 今の人生は、常に綱渡りの人生です。芸能や、スポーツ選手の生き方と言うのはそうした危険と背中合わせの人生です。後、二三年、華やかに活動を続け、ある日突然いなくなってしまうのではないかと不安になります。満開の桜がその翌日には風と共に跡形もなくなって行くように、大谷選手の笑顔もあっという間に記憶の彼方に消えて行くのではないかと思います。今見えている世界が儚き夢なのか、それでも素晴らしい夢を見せてくれた大谷選手を忘れることは一生ないでしょう。一ファンとして、一日でも長く活躍してくれることを望みます。

続く