手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

コロナで見えたこと

コロナで見えたこと

 

 3年に渡るコロナの流行は、大きく人の生活を変えました。最近は少しコロナが下火になったと思ったら、またぞろ流行の兆しがあります。それでも、コロナそのものがもうさほどに活力を持っているようには見えませんから、仮に、感染者が広がったとしても大したことにはならないでしょう。

 世界中では、とっくにマスクも、ワクチンもやめているのに、日本ではいまだに律儀にマスクをする人が多いようです。もう日常にマスクをすることは、上着を着て、バッグを持って出かける事と同じような、生活必需品になってしまいました。コロナの感染も、その後の危険性も薄れはしましたが、とにもかくにもコロナは、人の生き方を大きく変えてしまいました。

 この3年で、あらゆる社会が過去から続いて来た活動がぷっつり途切れてしまいました。会社ではリモートワークが増え、その分、人との繋がりが希薄になっています。仕事帰りの一杯も減って、仲間の送別会も忘年会も回数が減っています。

 同様に学校です。学校に行けず、映像で学習していてはいつまで経っても仲間が出来ません。クラブ活動も全く低調のままです。

 大学のマジッククラブなどはどこも部員が集まって来なくて、廃部の状況です。発表会も出来ません。これは社会人のマジッククラブも同じことで、マジックを覚えて仲間を作り、覚えた技で地域のボランティア活動をする。と言った活動が出来なくなり、マジックを披露する場がなくなり、発表会も出来なくなり、それにつれて入部の希望者も大幅に減り、日本中のマジッククラブは大きく同好者の数を減らしています。

 こうした結果、マジックショップは売り上げが上がらず、店は閑古鳥になり、作品は出せども売れず、ショップは苦境にあえいでいます。マジックコンベンションはかつては500人700人と人が集まっていたものが、今となっては100人集まるのがやっとの状況です。

 私と縁のあった、九州奇術連合会も、かつては350人の参加者があったのですが、毎年温泉場に泊まり込んで、一泊してマジックを楽しむと言う形態は、もうこの先不可能になりそうです。

 仮に、近々にコロナが解決したとしても、もう温泉旅館でのマジックコンベンションを開催しようと言うリーダーが、マジック界に現れるかと言えば、難しいでしょう。私よりも若いマジックのリーダーはそうした形式を望んではいません。浴衣を着て、マジックショップを冷かして歩く姿はもう過去の世界になりつつあります。古き良き日本のスタイルが消え去ろうとしています。

 そうなら別のスタイルでマジック大会を開催したらいいのですが、今現状で人を集める催しはリスクが大きく、誰も手を出そうとはしません。

 コンベンションだけではなく、マジックショウ自体も軒並み低調です。私のこれまでのお客様の多くは高齢化して、夜に出歩くことが少なくなりました。そうなると夜の公演を開催しても、皆さん来れなくなってしまいました。

 この事は私のお客様だけではなく、歌舞伎座や、東宝の芝居にしても、寄席や演芸場なども同様です。観客は高齢化し、コロナを恐れて出歩かなくなっています。ゆえに観客は激減しています。そこに出演していた芸能人芸術家はみんな仕事を失って、どうにもならない状況です。

 

 そこで人によっては映像に活路を見出し、youtubeに乗り出す人が出て来ます。種明かしは論外ですが、演技ビデオを見せて仕事のチャンスを掴もうとする人があります。私もいくつか映像が流れていて、そこから出演の依頼を受けることがありまので、youtubeはかなり効果のある宣伝方法であることは分かります。

 但し、危険なことは、間の業者を通さずにダイレクトに仕事の依頼が来ることです。通常、我々の仕事は二つないし三つの事務所が間に入ってギャラが決められて行きます。そうなると、私の求めているギャラの二倍以上の価格で私が取引されます。

 これは特別なことではありません。自動車でもお菓子でも薬でも、大概原価は30%くらいです。残りの70%は流通業者や紹介者が利益を上げます。儲け過ぎだと思う方がありますが、そうした人がいなければ物は売れないのです。

 間のマージンは不当ではありません。然し、youtubeなどで自分を売り込むと、格安で直接取引が行われてしまいます。そうなると通常のプロダクションから引き受ける仕事と大きなギャップが生まれ、長く付き合ってきたプロダクションの提示する価格が余りに高額になってしまい、プロダクションに迷惑がかかります。

 生きるためにはどちらを選ぶかはマジシャンの自由ですが、きっちり対応して、飛行機チケットや新幹線チケットまで手配してくれて、マネージャーが付いてきてくれて、打ち合わせまでしてくれる従来の仕事を手放して、直接の仕事を自分で引き受けてしまうと、どんどん二流の芸人に落ちるような気がします。事実、この3年のコロナの期間は随分値下げをして活動してしまいました。

 それが、コロナが収まったときに、元の売り値に戻せるか、と言えばそれは難しくなるでしょう。youtubeは便利ではありますが、マジシャンを裸にしてしまう危険があります。プライドを持って生きることはなかなか難しい世界です。

 

 また、相変わらず弟子希望の依頼が来ます。それもネットを通してきます。幾ら希望があっても、会ったこともない人を弟子に取ることは出来ません。先ず会って話をして、性格や、生活態度を確かめた上でなければ指導などできません。第一人生で最も大切な、職業を身に着けると言う行為を、会ったこともないマジシャンに人生を委ねてしまおうとすること自体が危険です。相手もよく私を確かめなければいけないはずです。

 ところが、当人でなく、その親がネットで自分の子供を弟子入りさせるように求めて来ることがあります。この親は一体何を考えているのかと思います。幾らこの道でどうにかなったマジシャンがいたとしても、それで安易に師匠になってはいけません。簡単に弟子を取ってはいけないし、習う側も、簡単に弟子になってはいけません。安易な行動は一生後悔します。師匠と言うものは一生接して行く、親のようなものなのですから。そこはとことん見極めたうえで指定の関係を作らなければいけません。

 さて、3年のコロナが終わり、人の縁がどんどん薄くなって行きます。この先一体どんな社会になって行くのか、不安でもあり恐ろしくもあります。

続く