手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

可憐な花 峯ゼミ

可憐な花 峯ゼミ

 

 昨日(18日)は峯ゼミに参加しました。時折横殴りに強い雨が降り、台風の大きさを知ります。この雨の中にも関わらず、参加者10名は熱心に田端までやって来ました。

 私自身、何としても峯村さんのシンブルが見たかったのですが、先月は用事があって休んでしまいました。今期の峯ゼミは、前半3回がシンブル。後半3回がカードマニュピレーションと言う、内容たっぷりの企画です。そして昨日は、3回のレッスンの内の2回目でした。

 まず初めに、プロにとってシンブルは、手習い芸と言う先入観があります。初心者が手始めにやる演目と決めてかかって、シンブルをどう面白く見せようか、とはなかなか考えないのです。地味で目立たないマジックですから、肌って手順を作ったりはしないのです。

 逆に、この演目を大きく発展させたのは学生マジシャンで、今となってはそこに多くのハンドリングの蓄積があります。シンブルとウォンドは学生マジックの文化と言えます。

 学生の発表会を見に行くと、毎回何か変わった技法が工夫されていて、面白いと感じます。が、如何せんシンブルは、小さな素材で、あまり目立たない作品ですから、優れたハンドリングがあったとしても、自分なりに工夫してみようとは考えません。

 

 まず峯村さんは、そうした、私らのような長年マジックで生活して来た者たちの、誤ったシンブルに対する先入観を、一つ一つ解きほぐして行きます。私は、以前にレクチュアービデオを頂いていて、全体の内容は一度拝見しています。内容が面白いことは勿論承知しておりました。

 ただ、出来れば峯村氏自身からどうしてこうしたハンドリングを考えたのか、なぜこうした手順が出来たのかを話してもらいながら習いたかったのです。それゆえに、一回目からじっくり習いたいと考えていました。

 ある意味、このシンブルの手順には、峯村さんがスライハンドをどう考えているか、スライハンドとはどういう芸能なのか。についての峯村流の答えが出ています。

 それは学生の手順とも違い、従来から普及している手順とも違う、峯村氏の独自の考え方が随所に現れています。実際、昨日のレッスンを拝見しただけでも、私の知らないハンドリングがたくさん出て来ましたし、何より大きく構えて演じてない演技の仕方に共感を覚えました。

 いいですねぇ。これぞ成熟した国のマジックです。こんなレッスンが普通に行われていることがその国の文化の熟成度を感じさせます。世界中でここまで成熟したマジックの文化を持っている国が何か国あるかと考えたなら、峯村さんの指導は大きな価値があります。

 実際昨日は、私の頭の許容量には十分すぎる内容でした。どこまで参加者がこれを受け入れたかはわかりませんが、恐らくはあまりあるほどの満足を手に入れたと思います。

 基本的にはシェルを使ったシンブル手順です。然し、多くのシェル手順は、かぶせたシェルを片手で抜いて、隣の指に移す動作が続くため、仮に、タネは分からないとしても常に手の指がもごもご動く動作が繰り返されます。これが不自然なため、演技全体が演者の自己満足に見えてしまいます。

 氏自身の手順も、ハンドリングのために余分に動く動作を排除しています。実際に演技を見せてもらうとおかしな動作は全くなく、すっきりとした手順に仕上がっていました。

 順に申し上げると、赤いマジックインキのハイマッキーを取り出して、そのキャップを取り外し、キャップを人差し指にはめたところから演技が始まります。つまり、シンブルとは何かという答えが示されています。これはとても重要なことです。

 私は、シンブルは好きなマジックではありますが、なぜ人前でしないかと言えば、その素材のチープさです。ある程度年齢の行った人が使うにはあまりにチープなのです。もう少しいい素材の道具だったらなぁ、と常に思っていましたが、峯村氏は、そのシンブルの弱点を逆手に取りました。つまりマジックインキのキャップを使ってマジックを始めるのです。これなら素材のクオリティは関係ありません。良い工夫です。

 その赤いシンブルが出たり消えたりするうちに、白に変わり、赤に戻り、行きつ戻りつするうちに手を広げると指先には4本全部赤いシンブルが並んでいます。不思議です、白いシンブルを散々見せられていたので、その白が消えて、4本すべてが赤くなって出て来たのはとても不思議でした。色彩もはっきりとして鮮やかですし、小さな世界であるのにちゃんと可憐なお花畑が出来ています。「あぁ、いい世界だなぁ」と感じました。ここだけさらりと演じてもとても上質なマジックを感じます。

 その先には、紅白が交互に指に並ぶ手順、4色のシンブルが次々に現れて指に並ぶ手順、そして5色のシンブルが並ぶ手順と、4種類のハンドリングが紹介されました。

 その途中には、人差し指にシンブルを嵌めて、親指と人差し指でシンブルを挟み、左右に振っていると、色が変わるハンドリング(昔フランスのマジャックが得意で見せていた手順)。あれがアレックス・エルムズレイの作品であると知らされて、改めてエルムズレイの偉大さを再認識しました。

 こうして3時間30分のレッスンは終わり。田端のレンタルハウスでの実り多き指導は終了しました。毎度のことながら細部までしっかり考えを通して、一つ一つ結論を出して行く手順の作り方には感心させられました。

 

 さて、レッスン終了後、私は、ザッキーさんを連れ出して、田端の居酒屋に入りました。実は少し混み入った話があって、それはこの先の私の活動にも関わることで、少し密に打ち合わせをしました。どのみち明日(つまり今日)もザッキーさんと会うのですが、事前に考えを聞いておかねばなりません。と言いつつも、後半の話は、舞台のこと、芸の話になってしまいました。タップリ芸の話をして、夜8時に帰宅。充実の一日でした。

続く