手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

ピッツアを食べる

ピッツアを食べる

 

 昨日(7月1日)は月に一度の糖尿病の検査日です。食事を抜いて、朝9時30分に三軒茶屋の石橋医院へ行きます。もうこの病院も15年以上通い続けています。糖尿病と言うのは別段症状はありません。食事療法をして、薬をちゃんと飲んでいれば、さほど問題はないのです。

 然し、糖尿になるような人は、まず食事が糖質のものが多かったり、アルコールが多かったり、習慣として、糖尿になるような食事をしていますので、徐々に悪化して行きます。私は幸いに、アルコールを控えていますので、血糖値も尿酸値も中性脂肪もギリギリ基準に収まっています。優等生ではないまでも、まずまずの線にいる患者です。

 この日は検査が少し早く終わりました。時刻は10時40分。朝食を抜いていますから、空腹です。二食分を食べることを考えると、少し値段も高く、カロリーの高いものを食べても大丈夫でしょう。どこで食事をしようか、と、あれこれ思案している時に、ふと思い出しました。

 前々から散歩をしながら、狙っていた通りがあります。それは三軒茶屋の駅前ですが、道が曲がりくねっていて奥まって探しにくいところです。イタリアンレストランが四軒も固まってある通りがあります。この道だけが並んでいる店が若向きで、洒落ています。このあたりは一度入ってみてもいいかなと思っていました。

 トラットリア・ピッツェリア・ラルテと言う、ピザの店に入ろうと思います。外見はなかなかシンプルな造りで、奇麗な店です。さて、今は10時50分。開店は11時30分です。この日は暑くて、とても外で並んで待つことなどできません。近所の喫茶店で時間をつぶします。さて、時間になって店に行ってみると、もう外に十数人並んでいます。

 驚いたことにみんな若い女性ばかりです。10代の学生と思しき人たちが連れ立って入って行きます。こういう店が若い人を集めるんだなぁ。と得心。中に入ると席数は30人くらい、私が入った時点で大部分の席は埋まりました。

 ウエイトレスの女の子に、「いつも開店と同時に満席になるの?」。と尋ねると、「日に寄りますが、大体昼までには満席になります」。大したものです。しかも座っている人はみんな女性、10代20代ばかりです。私のような年齢の客は一人もいません。

 メニューは至ってシンプルで、パスタのセットかピザのセットです。いずれもサラダと飲み物が付きます。私はピザのマルガリータとアイスコーヒーを頼みました。せっかく来たので、食事が物足らないといけないので、肉料理でもあればもう一皿頼もうかと思い、「ほかの料理もあるの?」と尋ねると、ウェイトレスは「ありますが、多分ランチセットで十分満足すると思いますよ。何しろピザは直径30㎝ありますから」。「何、30㎝、それは大きい」。LPレコードと同じサイズです。マーラーの四番交響曲が一曲丸々収まるサイズです。レコードだって、ピザだって、30㎝もあれば十分なボリュームです。むしろ一人で食べきれるかどうか不安です。先ずはピザを見てから考えることにしました。

 さて店の内装を見てみると、白漆喰のシンプルな壁に、木製のテーブルと椅子。造りはイタリアの田舎のレストランのようです。私よりも少し早く入った女性たちが、早々とサラダとピッツァを楽しげに食べています。どのテーブルも賑やかで幸せそうに会話しています。こんな中で食事をするのは何十年ぶりでしょうか。

 

 サラダと飲み物が来ました。サラダは鰯のカルパッチョブロッコリーとニンニクの炒め、青みの野菜、生ハム、それぞれがほんの一口ずつ並んでいます。「これでは物足らないなぁ」。と思いましたが、そのあとすぐにピザが来ました。大皿いっぱいのピザです。

 

 マルゲリータはトマトベースにチーズの入ったシンプルなピザです。「これが一人前では、私はいいとしても、若い女性には大き過ぎないか」。と周囲を見渡すと、女性はピザのセットと、パスタのセットをシェアし合って、いろいろな味を楽しんでいます。なるほど、ここは一人で来る店ではないのです。

 さて、ピザは、皿が来るなり、かなりいい匂いがします。焼きたてであることは無論ですが、窯が薪で焚かれていて、生地の焦げ目が薪でいぶされて独特の匂いがします。ピザ生地は、周辺が少し厚く、逆に面は思いっきり薄く伸ばしてあります。

 「なるほど、これなら女性でも食べられるなぁ」。と納得。味は比較的さっぱりしたトマトソースと溶けたチーズ味。トマトは甘酸っぱく、チーズは塩気が味を引き締めています。二つが合わさると旨味が強くなります。とは言っても、何から何まで突出したところのない普通の旨いピザです。実は普通であると言うことは凄いことです。ピザとはそもそもイタリアの日常食で、よそ行きの食事ではありません。それを奇をてらわず普通に上手いと感じさせるのは相当な技量です。

 六等分された生地を、一つずつ、半分に畳んで口に運びます。四つ食べたところで、トマト味が重たく感じました。そこで、卓上にある辛しソースをかけて見ます。小さな瓶に入った辛しソースは、恐らくオリーブオイルに唐辛子を漬けこんだものかと思います。透明なオリーブオイルをかけて食べると、ほのかに辛みを感じます。私は辛いものは苦手なのですが、これくらいの辛みなら旨いと思います。結局、全てのピザを食べつくしました。十分満足です。本当なら、ピザと一緒にワインかビールが欲しかったのですが、この後、二時から踊りの稽古に行かなければならず、アルコールは飲めません。

 このコースが1600円です。ランチとしては少し高めですが、内容を思えば安いと思います。然し、学生の入る店としてはかなり贅沢でしょう。それでも、この炎天下を外で待つ人が何人もいます。

 支払いをするときに、入口に据え付けてある窯を覗くと、窯の下の薪の他に、窯の中のピザの脇に大きな薪がくべてあって炎が出ていました。「これが焦げと香りを出しているんだな」。と納得。若い料理人が常に炎を見ながら、次のピザ生地を伸ばしています。外に出て周辺を見渡すと、この店の集客力が一番です。まだ外には次のお客様が並んでいます。猛暑の中お気の毒です。それでも来ているお客様はみんな楽しそうでした。

 来月病院に行くときには、この周辺の店をもう少し探してみようと考えています。

続く

 

 明日はブログを休みます。

アゴラカフェでマジック、手妻のショウ

 明日は日本橋マンダリンホテル二階のアゴラカフェでマジックと手妻の公演です。藤山新太郎、前田将太、穂積みゆき、小林拓馬、堀内大助、が出演。食事付き5000円。要予約、6262-6331まで。