手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

ピザとステーキ

ピザとステーキ

 

 昨日は、車で昼に舞踊の稽古に行き、そのあと浅草で依頼してあった名札を取りに行きました。前田将太が藤山大成になったので、応接間にかけている一門の名札を大成に替えたのです。替えると言っても一つ一つ彫り込んで色を塗りますので日数がかかります。それがようやくできたので取りに行きました。

 それから日本橋に行き、アゴラカフェに11月7日の公演のチラシを置きに行きました。多少なりともお客様が来て下さることを期待して、置かせていただくわけです。この日は、東京中を歩き回るので、電車では移動しにくいため、車で移動したわけです。

 少し時間があったため、茅場町のマジックランドに行ってみました。ママさんと聡さんが二人で作業していました。コロナ以来、お客さんも少なくなって商売は大変です。

 もう、いい加減コロナは収束したと思うのですが、まだまだみんなマスクをしていますし、出歩かなくなったためか町もあまり活気が戻って来ません。コロナは日本人の生活をすっかり変えてしまいました。

 生活の仕方が余りに消極的になってしまっています。飲食店などはどこもあきらめムードです。「営業してもお客さんがこない」。なんて言って、さっさと早めに店を閉めてしまいます。一軒店が閉まってしまうと、周囲の店もつられて早じまいをします。そうなると、通り全体が暗くなりますので、ますますお客様は出歩かなくなります。負のスパイラルに陥ります。

 何とかしなければいけないとは誰もが思っているでしょうが、一度人の暮らしに変化が起ころと、容易に今のスタイルを変えようとしません。「この流れが変わるのは難しい」。と感じます。

 

 マジックランドから、新宿に出て、東急ハンズで久しぶりに買い物をしました。素材を買い集めていろいろ道具を作り直そうと考えています。実はこのところ、正月の出演依頼が来るようになりました。まだまだ豊かに暮らして行けると言うほどには行きませんが、希望が見えて来ました。そうなら、今のうちにいろいろ活動しておこうと考え、道具の作り直しを考えました。

 私の手妻の道具は、どれも20年30年と使っているものばかりで、少しずつ調子が狂って来ています。仕事が忙しくなってきたならなかなか修理も出来ません。今のうちにそっくり直しておこうと思います。正月までに、小道具の修理をします。

 

 さて買い物をした後、高円寺の自宅に戻りました。時刻は7時30分。家には今晩は食事はいらないと言ってしまいましたので、女房は何も作っていません。そこで再度駅前まで出て、店を探します。一杯飲めて、食事のできる店がいいのですが、寿司にするか焼き鳥にするか、いろいろ店を探していると、ステーキとピザの店に出会いました。

 この通りは何十年も通っています。にもかかわらず、今までこの店に入ろうなどと考えたこともありませんでした。店も昨日今日出来た店ではないでしょう。然し、この晩は、妙にピザとステーキの取り合わせに惹かれました。

 入ってみると一階がバーカウンターで、二階が小さなパーティーが出来る程度の席があるようです。その店を一人の若いお兄さんが切り盛りしています。私はバーカウンターに座り、ハイボールを注文しました。そして、躊躇せずにピザとステーキを頼みました。「一人で食べられるよねぇ」。と尋ねると、「大丈夫だと思います」。と言う返事、「両方とも店の売りのようだから頼んでみるよ」。

 ハイボールをちびちびやりながら、お兄さんの仕事ぶりを見ます。下の階は私の他に男女のお客様が一組だけ、二階に数名のお客様がいるようです。私はこのところイタリアンをよく食べるようになりました。特に好きと言うわけでもないのですが、目につくと入って食べています。

 カウンターの奥に、ピザ用の石窯が据えられています。レンガで囲われて、小さいながらも立派なものです。「へぇ、石窯で焼くんだね」。「えぇ、矢張り石窯で焼くと味わいが違います」。とご当人は満足な様子です。相当高価な投資だったのでしょう。カウンタースペースを狭くしていますが、石窯があることが嬉しそうです。

 生地を切って、調理台で平たく丸くのばし。チーズと野菜を乗せて、アンチョビとニンニクを乗せます。サイズはカレー皿くらい。できたピザを見ると、ヘリは少し厚めにしてあり、結構ボリューミーです。ハイボールを口に運びながら、うだうだお兄さんと話をしつつ、焼きたてピザをひと切れずつ摘まみます。

 やはりこの店もお客様の数が少なく、苦戦しているようです。深夜3時前営業すると言いますが、少ない客数の中で長い時間営業するのは苦労でしょう。店の前に提灯が10個くらい軒に下がっています。イタリアンで提灯は不釣り合いですが、それでもこの提灯があると明るくて、人が入りやすいようです。

 私がピザをどんどん食べて行くのを見て、「大丈夫そうですね、ステーキ作っていいですか」。と聞いてきました。「大丈夫だよ。なに、私が食べられないんじゃないかと思ってステーキ控えていたの?」。「えぇ、大丈夫そうですね」。と言ってフライパンで肉を焼き始めました。

 出て来たステーキは150gの小さな肉です。赤みで柔らかく食べやすいステーキでした。しつこさがないし、酒のつまみにはちょうどいい量です。ピザも香ばしくて、ガーリックも効いていて、すんなり食べられました。

 勘定をすると、2030円。何と安い。店の看板料理二品を頼んでハイボールを呑んで2000円。申し訳ないような値段です。これから深夜遅くまで店を切り盛りして働くのにこんな値段でいいのかと思います。石窯の返済は出来るのか。心配になります。それから思えば、仕事がない、金がないと言っても私は贅沢です。

 食事を済ませて自宅に戻ります。これであとは寝られると言うわけではありません。明日あさっては関西方面に指導に行きます。行く先々で指導内容が違いますので、道具をスーツケースに詰める作業をしなければいけません。たぶん深夜までかかるでしょう。毎月の仕事ですから問題はありません。

 明日は朝から新幹線に乗ります。新幹線で食べるシューマイ弁当が楽しみです。

続く