手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

ギャラは言えない 2

ギャラは言えない 2

 

 一口にギャラと言っても、芸能プロダクションからくるイベントのショウのギャラと、仲間内で開催するライブ公演のギャラでは金額が違い過ぎます。

 イベント会社から来る仕事は、何かの情報を得て、マジシャンの元へ依頼が来たのでしょうから、それはイベントの相場に合わせてギャラを伝えればいいことです。高額であっても相場の取引ですから、一向にかまわないでしょう。

 

 然し、仲間内で催している公演は、利益抜きで、マジック界のために行っている催しですから、出演する方も、半ばボランティアの気持ちで出なければいけません。

 例えば、お笑いの芸人さんたちがやっているライブショウなどは、出演者はどこの催しも無料出演です。その無料の公演ですら、誰でも出られるわけではなく、審査があったり、先輩の口利きがなければ出演できません。出演するためにはある一定のレベルを求められます。簡単なことではありません。みんなそれを了解して出ているのです。

 「金にもならないのにどうしてそんなところに出演するんだ」。と思うかもしれません。それだけお笑いタレントの出演チャンスは狭いのです。有名タレントになれば、高額なギャラで出演依頼が殺到しますが、無名であれば出演場所などほとんどないのです。

 それでも、漫才のコンビなどは、常に喋っていなければ、互いの呼吸がつかめないため、毎日でも出演場所を求めて、只でも出演するのです。

 漫才協会は連日、浅草東洋館で公演をしていますが、これは漫才協会の自主公演です。漫才協会には100人もの協会員がいます。彼らが出る舞台を確保するために協会が自主運営をしています。

 毎回20本以上が出演しますが、お客様の数は50人の時もあったり100人であったり、様々です。そのため出演者の出演料は一律1000円です。1000円はコンビに対して支払われますので、それを二人で分けると一人500円です。今どき500円は、交通費で終わってしまいます。

 それでも出演できる場所を持っている協会員は恵まれています。多くのお笑い芸人は漫才協会に入会したいと望みます。然し簡単には協会に入会することは簡単には出来ません。

 一組1000円のギャラは例えば、ナイツや、U字工事、おぼんこぼんと言った看板の芸人さんでも同じギャラです。彼らは若手の場を作るためにそうした条件で出演しているのです。

 誰もが自分の仲間のため、組織のために活動しているのです。その舞台で高額な料金を主張して突っ張るような若手はいません。言える立場ではないことをみんなが知っているのです。

 ところが、マジックの世界では時々物を知らない若手がいます。彼らは置かれている現状も知らないで自分の要求だけをします。近年舞台チャンスがどんどん減っている中で、彼らが日々何もしなければ一本の舞台チャンスもないマジシャンであるのに、ひとたび出演依頼を受けると、常識はずれな要求を言ってきます。

 言うことは自由ですが、それは結果として自分の出演場所を失う結果になります。

 今の自分がどう立ち回って、どう仲間とつきあって生きて行かなければいけないのか。生きて行く根本を理解しないでものを言っていては、初めからこの道で生きて行けくことは難しいでしょう。

 そうなら、そんな人を私が相手にする理由はないのです。勝手にやって行ったらいいのです。

 

 然し、然しです、時として、そんな風に物のわからない人の中から、次の時代を切り開く人が出ないものでもありません。芸能の世界の恐ろしさは、およそ世間とつながりを持てないような、性格に欠陥のあるとんでもない人が成功するときがあるのです。ビッグスターになるような人は往々に我儘な人が多くいますし、周囲のことが見えていない人がいます。

 仮にそうしたビッグスターが出て来た時に、私とすれば、まったくそのスターとつながりを持たないのは、何か企画を立てる際にも不都合なため、縁を作っておかなければならないと思い、無碍にも出来ません。

 そのために、世の中を知らない若手にも、失礼なことを言う人にも、ひょっとしてとんでもない成功を掴む人にならないとも限らないと考え、余り声を荒げて怒らないように、諄々と事分けして話をするようにしています。

 

 実際マジックショウを企画したときに、看板となるマジシャンは日本では10本もいないのです。そして10万円以上のギャラを支払っても見合う人(つまり、ギャラ以上にお客様を呼んでくれる人)はさらに半分、せいぜい5本なのです。

 つまり使う側とすれば、この5本に対しては最大限要求を呑むように心がけますが、それ以外のマジシャンにはギャラの妥協はできません。分配するパイのサイズには限りがあるのです。

 マジックの世界でプロに成って、この道で生きて行きたいなら、世の中に仕組みを早く理解することです。せっかく口をかけてくれた先輩との縁をつまらないことで決して絶やさないよう注意することです。

 人の興味はひょんなことから始まり、ちょっとしたきっかけが大きな成果を生むことが多々あります。しかし同時にいとも簡単に興味が途切れることもまた多くあります。縁とは儚いものなのです。

 今、自分を高く売り込むことにばかり専念せずに、今以上に実力をつけて、早く人から認められるように努力することです。選ばれている立場の者がギャラは言えないのです。

ギャラは言えない 終わり