ヴァイオリン協奏曲
昨晩(1月19日)、のN響コンサートで、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲とプロコフィエフのバレエ組曲「石の花」、ストラビンスキーの「三楽章の交響曲」が演奏されました。指揮はフィンランド人のデュマ・スロポデニューク、50歳くらいの人です、ヴァイオリンは、ロシア人でニキータ・ボリングレブスキー、40代でしょうか。チャイコフスキーコンクールや、シベリウスコンクールで優勝しています。
両人とも初めて見る顔です。無論、私ごときが世界の音楽家を知っているかどうかなんて、元々大した知識ないのですから、知らなくて当然です。
チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲は久々聞きましたが、いい曲です。世界三大ヴァイオリン協奏曲と言えば、ベートーベン、ブラームス、シベリウス、だそうですが、私は、メンデルスゾーンも、チャイコフスキーもサン・サーンスも好きです。
この三人は音楽マニアの間では、俗物扱いされがちですが、どうしてどうして聞いていても面白いし、演奏家の熱演次第でついつい引き込まれます。特にチャイコフスキーは第三楽章の勢いの良さが、曲全体を一気呵成に盛り上げますから、聞いた後に爽快感が味わえます。
私は、ヴァイオリン協奏曲の最高傑作はシベリウスだと思いますが、但し、シベリウスは極めて深遠な内容ですので、書き物のついでに流して聞くような曲ではありません。気持ちを正して聴く気持ちを持って聴かなければならない曲です。その点、チャイコフスキーもメンデルスゾーンもサン・サーンスも、気を使わずにリラックスして聞けます。
この晩のお二人の指揮と演奏は熱が入っていてよかったです。特に第三楽章は情熱的で、盛り上がりが素晴らしかったです。中学生のころ、感動して何度も繰り返して聞いていたあの日を思い出しました。
プロコフィエフの石の花はめったに演奏されない曲です。そもそもプロコフィエフ自体が演奏回数の少ない作曲家です。その中でもピアノ協奏曲や、交響曲1番、5番、それにロメオとジュリエットの組曲などが演奏されるくらいで、特定の曲ばかりが知られています。
総体にこの人の作品は当時としては前衛的で、飛び離れた音階が突然出て来たり、奇妙な転調があったり、全体を聞いた感じがグロテスクであったりします。プロコフィエフが好きだという人はその前衛的な部分、グロテスクな部分が好きなようですので、この人のもう一面にあるメロディーの美しさが忘れられています。残念です。
石の花は最晩年の作曲で、スターリンの批判をかわすために、健気なくらいに平易な分かりやすい作品を書いています。一歩間違えれば俗な映画音楽のような扱いを受ける曲です。私もレコードを持っていますが、一度聞いただけで繰り返して聞くことはありませんでした。
若いころや壮年期に尖った作品ばかりを書いていたプロコフィエフからすると、晩年のこの作品はどうしてしまったのかと思うほどやさしい曲です。でも、よくよく聴いてみると、やはり、ロメオとジュリエットを書いた作曲家だなあ、と思わせる不思議な音楽がほの見えて来ます。フィナーレのメロディは石の花を代表する有名なメロディーです。もう少し演奏されてもいい曲だと思います。
ストラヴィンスキーの三楽章の交響曲は、戦時中の作品でニューヨークで書かれたそうです。かなり前衛的な作品で、これも聞いていると、春の祭典や、火の鳥を思わせる雰囲気があります。然し、どうもストラビンスキーは、交響曲作曲家ではないように思います。人間の心のひだを細かくピックアップして語って行くようなところがあまり見られません。
ひたすらピアノを叩いて機能的に作られた曲のように見えます。プロコフィエフにも同様なところがありますが、それでも、ときどき甘いメロディーが出て来るので、ついつい彼の幻想に世界に引き込まれます。ストラヴィンスキーにはそうした感傷的な要素があまりないように思います。
したがって、音と音の激しい戦いと、葛藤のような曲が延々と続いて、音楽が展開して行きますが、さて、これが面白いかどうかとなると、「どうもなぁ」、と思います。どうしてストラヴィンスキーが、バレエの三部作以外で馴染みの作品が出て来ないのか。この曲を聴くとわかる気がします。
それでも、珍しいプロコフィエフとストラヴィンスキーを演目に載せたスロポデニュークさんは意欲的で期待出来る人だと思いました。
このところ、テレビでクラシック音楽を聞くことが多くなりました。10代20代によく聞いた音楽を再度聞き直してみると、当時何に感動して音楽を聴いていたのか、少しずつ思い出してきます。そしてその時は一曲の音楽から無限の創造が広がって、独特の世界を一人で泳いでいました。
そんな経験をして育って、果たして、自分がその創造を生かして今の仕事をしているかどうかと考えると、かなりの部分が失われてしまったように思います。もう一度昔感動した音楽を聴き直して10代の感性を呼び覚ませてみようと考えています。
続く