手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

初春玉ひで公演

初春玉ひで公演

 

 一昨日(15日)は玉ひでの公演でした。毎月第三土曜日に催している玉ひで公演も二年目になりました。私の演じる蝶や手妻の数々をご覧になりたいお客様は少なからずいます。

 そうした皆様方のために、毎月一回必ず手妻をやっている場所を持つことは必要です。またそうした場所を作ったならば、そこに必ず弟子や、若手のマジシャンを出して、彼らが少しでもお客様の気持ちがつかめるように、舞台の場を持つことが大切です。

 今私は東京で20人の生徒さんに指導をしています。そのうち10人が10代~20代の若手です。中にはプロを目指している人もいます。その人たちにただ一方的に教えるだけではなかなか上達しません。

 マジックは実際のお客様を相手にして、いちいち反応を見て、確かめて行かなければ上手くはならないのです。

 特に若手の場合は、音楽を流して、きっちり手順を崩さずに演じる場を持たないと、演技はどんどん崩れて行きます。舞台と言えないような場所で、断片的にステージマジックを演じていてはいつまでたっても上達しません。

 毎月手順を崩すことなく、必ずきっちり演じて、しかも厳しい目で見られる場所があると言うことが演技を良くして行きます。私が取り立てて細かなことをチェックして何か言うわけではないのですが、それでも毎月しっかり見ていると、演技が少しずつ良くなってきます。それが大切です。

 

 一昨日は、一本目に穂積みゆきさんが袖卵を演じました。この手順を当人は気にいっているらしく、随分丁寧に演じています。女性で和の雰囲気を持った人がマジック界では少ないので、もう少し稽古して行けば必ず貴重な存在になれます。

 

 二本目は早稲田康平さん。喋りがはっきりしてきました。一言一言曖昧に語らないことがうまさを感じさせます。そうなのです。私の会では喋りの必要性をもっともっと学んでほしいのです。一般のお客様はマジシャンの喋りに引き込まれてファンになります。如何に技があっても、喋りのまずいマジシャンは売れないのです。

 初めにごあいさつ代わりにカードマニュピレーションを演じて、途中小さくなるトランプを演じました。懐かしい演技です。そしてロープ切りと三本ロープ。お客様にお札を借りて、領収書に変わり、また元に戻り、そしてレモンに入るお札の手順。随分やりこなしている手順らしく、こなれています。

 

 三本目はカズカタヤマさん。今年からこのメンバーに入りました。さすがにこの中で出演すると巧さが違います。何も喋らずマイムで始まり、ティッシュを破って広げるとマスクになり、そこでマスクをしてからやおら喋りが始まります。うまい掴みです。

 もし私がその後に出演して、ティッシュを丸めてパンツに変えて、パンツをはいて喋りに入ったらきっと受けるでしょう。

 お札の中からシルクが出て来て、シルクを紙筒に入れると色が変わる手順、ラストに赤白半分ずつシルクが染まるおなじみ手順ですが、ラストの見せ方がうまくて、本当に染まったように見えます。お終いの演技は、ワンカップルーティンのような演技をワイングラスを使って演じます。手慣れていて、お客様は安心して見ていられます。強力な仲間が出来ました。

 

 休憩後に私の手妻、引き出しから植瓜術(しょっかじつ)、そして金輪の曲。金輪は通常弟子が演じる物なのですが、今回は久しぶりに私が演じました。元々は私が作った手順なのですが、滅多に演じないため、忘れている部分があります。間違えないように少し緊張しました。

 そのあと、前田にサムタイをさせて見ました。半年前に既にサムタイは教えていますが、人前で演じるのは今回が初めてです。サムタイはお客様の結び加減で成否が決まります。毎回出来不出来があってとても難しい芸です。早く慣れるためには数演じなくてはいけません。前田の初サムタイですが、如何でしたか。

 お終いは蝶のたはむれです。かつては年間80回くらい蝶を飛ばしていましたが、この二年間は、せいぜい30回程度でしょう。めっきり蝶が飛ぶ機会も減りました。

 それでも初春の芸にふさわしく、この日も無邪気に蝶が飛びました。いいですねぇ、平成になってもこんなのどかなひと時をお客様と共有できるなんて、何ていい時代でしょう。

 きっと、この日に蝶のたはむれを見たお客様は、20年後30年後に、「あの時代はのどかでいい時代だったなぁ」。と述懐するでしょう。それでいいのです。少しでも人の記憶に残ってくれたなら蝶は生き続けるのです。

 

 終演後、帰りに、青梅街道にある唐揚げ屋さんで大ぶりの唐揚げを買い、自宅に戻って、早稲田さんと高木君、前田と私でハイボールで唐揚げを食べました。正月の初顔合わせですので、軽く一杯やりました。疲れるほどの仕事ではないのですが、仲間と話をしてハイボールを頂くと、開放感が広がってきてほっとしました。早稲田さんも演技の出来に満足していたようですし、前田も初サムタイの演技に満足だったようです。いい一日でした。

 

 玉ひでは毎月第三土曜に12時から開催しています。観覧ご希望のお客様は、ご予約をお早めにお願いします。18名で締め切りになります。

続く