手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

玉ひで雑感

玉ひで雑感

 

 21日(土)、月に一度の玉ひで公演を致しました。このところ、玉ひでの二日後の月曜日には必ず、演技の感想を書いています。

 もし、コロナの問題がなければ、もっともっとたくさんのショウの依頼があって、日本中の公演場所のレポートが書けるはずなのですが、現状は玉ひでにばかり偏っています。その玉ひで自体も、心なしかお店に元気がありません。

 連日お客様が大行列をしている玉ひでですら、夜の宴会がないとか、アルコールが出せないなどと言うハンデを背負って営業していては赤字もかさんで来ているのでしょう。

 私自身は今の形態をずっと続けて行きたいと考えてはいますが、飲食店を目の敵にして、2年も3年も営業自粛を求める今の政府の政策ではどんな飲食店でも倒産してしまいます。

 この先どうなるか、と考えると、飲食店も、マジックも将来が不安です。

 

 そんな中でも毎月ショウが出来ることは喜びです。一昨日も公演し、たくさんのお客様にお越し頂きました。出演者は前田将太、戸崎拓也さん、ザッキーーさん、それに私の手妻です。

 

 前田は二つ引き出し(夫婦引き出し)、手妻の定番の作品です。それを煙管(きせる)を使って演技を組み立てました。煙管を咥えると煙が出るように工夫がされています。

 せっかく煙管から煙が出るようになったのなら、煙を使って、玉が出たり消えたり、いろいろ工夫して見たらよいと思います。手順も構成も、もう少し工夫が必要です。

 

 戸崎拓也さんはコーンとボールとメキシカンロープ。コーンとボールは前回以上に手順が簡略化されて、自然に仕上がっています。伏線に使っているウイスキーとショットグラスがこなれてきています。

 液体の入ったグラスの消失も前回よりもスムーズに仕上がっています。ウイスキーを入れる缶の水筒は今は懐かしいものですが、あれをもっと小道具に生かしたならいい手順に発展する可能性を感じます。メキシカンロープの途中に再度、ウイスキーの入ったグラスが出て来るところなど、手順が大きくまとまっていて気が利いています。

 但し、あまりにすっきりしすぎて全体がお客さんの印象に残りません。もっと演技にこだわって、自分の個性を足して行かないと、何もしなかったように見えてしまいます。

 戸崎さんは、子供のころからからアマチュアマジシャンの優等生でしたが、この先、アマチュアであっても、セミプロ、プロに移行するのでも、もっと貪欲な手順つくりをしないと自身の演技をこの世界に残して行くことはできません。

 

 ザッキーさん。このところ舞台感を掴み始めています。先ず出て来て大声であいさつをするところからすでに観客を掴んでいます。表情もプロ感が出て来ました。いい顔になって来ています。初めはフレッドカプスの3枚コインのハンカチへの飛行。

 地味な始まりですが、これはこれでOK、ダウンズパームからのコインの出現、飛行も巧く行っています。コインがシルクに落ちて行く動作もよくわかります。めでたしと思わせてシルクの中からボトルの出現。お約束の手順ですが、掴みはしっかり取れています。

 このあと12本リング。私の手順です。演技は急に派手になり、後半は音楽を使ってテンポアップされます。ザッキーさんの演技を通して、客観的に私が演じて来た演技を観客として見ていると、自分自身がなぜ若いころ舞台本数が多くて、忙しかったのかよくわかります。この手順があるのとないのとでは大違いです。

 私は20歳の時に、この手順を作りました。今は、和ばかり演じていて、12本は演じる機会がありません。いいマジックですので、私は、弟子だけでなく習いに来る人に指導をしています。弟子からすれば、誰にでも教えてしまうのは、あまり面白くは感じないでしょう。

 ただ、弟子に対しては少なくとも、外部の人の二倍くらいの回数で指導をしていますし、注意点も数多く教えています。最終的な手順の仕上がりは随分違うものになっているはずです。

 弟子は十分弟子としての特権を享受しているはずです。そんなことよりも、意欲ある人には指導をしなければいけません。秘密にばかりしていては芸が絶えてしまうのです。

 ザッキーさんの演技はまだ細かい部分が粗削りです。然し、この芸は受けます。これから何度も舞台にかけて作り上げて行くといいでしょう。

 休憩後、私の手妻、袋卵から紙テープつなぎ、紙卵、一連の紙片の曲を演じたのち、五色の砂。これが大きなミスが出ました。初めに、ガラス鉢の水をかき回して黒くするところで水が黒くなりません。

 仕掛けミスです。仕方なくガラス鉢を前田に渡して、「楽屋に行って、水を黒くしてくるように」言いました。変な演技です。

 その間きっと時間がかかるだろうと予測をして、五色の砂は中断して、柱抜き(サムタイ)を演じました。演技の中ほどで前田が黒い水を持って戻ってきましたので、「ああこれで大丈夫」と思って、サムタイ一通りを終え、再度五色の演技に戻りました。

 砂を入れて、水から乾いた状態で出すのは問題なく出来ましたが、途中で演技が中断してしまったため、お客様の乗りが悪くなりました。当然です。それでも、黒い水が元の透明に戻ればマジックとしては成り立ちますので、再度かき回しますと、多少色が薄くはなりましたが、透明になりません。明らかにセットミスです。やむなく鉢を持って客席を回り、お客様に鉢の上から覗いてもらって異常のないことを確かめて終わりましたが、すっきりしない演技です。

 そのあと、札焼きを演じ、蝶を演じてめでたく終わりました。ショウがうまく行かないときに、何とか最悪の状態にしないように、いろいろ工夫をしますが、工夫しきれないミスもあります。そんな演技を見せた後は心苦しいものです。決して同じ間違いをしないよう、帰宅後、原因を調べ問題をチェックしました。

 絶対失敗することのない五色の砂でまさかのミスでした。この日の出来は50点取れたでしょうか。いくつになっても勉強させられます。

続く