手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

満員御礼 マジックマイスター

満員御礼 マジックマイスター

 

 昨日(6月30日)、第21回マジックマイスターが、三鷹駅前の武蔵野芸能劇場で開催されました。毎年開催していますので、21年続いたことになります。私の正直な気持ちは、昨年が20回目ですので、記念大会として、博品館劇場あたりでやりたかったのですが、如何せんコロナの後遺症のすぐ後でしたので、開催自体が危ぶまれるような状況でした。こうして続いてきたことだけでも幸運でした。

 30日は、小雨が時折降るような悪天候でしたが、実は、半月前くらいから、チケットの申し込みが多く、この分では満員になりそうな気配でした。武蔵野芸能劇場は、立ち見を認めません。予定以上にチケットを販売すると、お客様には入場をお断りしなければなりません。

 と言って、既にチケットを買ったお客様に入れないとは言えません。そこで、早々に販売を停めたのですが、販売が止まったと言う噂が広がると、今度はコネで入場を求めてくる人があります。拙いことになりました。あちこちに気を使って、何とか切符を止めて、当日、予定の通り満員御礼になりました。ギリギリセーフでした。以下は私の感想。

 

 1本目は高橋朗磨、弟子としては二度目の出演。自分の手順とマイスターの運営と、私の舞台の手伝いで大忙し、体が随分痩せてしまいました。シルクや、ロープを組み合わせ、モンゴリアンシルクでまとめています。まだまだ舞台に慣れていません。もう少し出演の場作ってやらなければいけません。

 

 ここで司会者登場、早稲田康平さん。身長180㎝の二枚目マジシャンです。銀座で「てじなっくる」と言うバーを経営しています。前半の司会です。

 

 2本目は高橋入也さん。朗磨の弟です。ダイスを使って配列が何度も入れ替わるアクト。手順は上手く行っています。後はもっとスムーズになれば得意芸になるでしょう。

 

 3本目は富士の磯部利光さん。高齢ながら、スライハンドに果敢に挑戦します。今回は毛花のプロダクション、お金がかかっています。舞台一面花畑です。稲葉美穂子さんがアシストで応援しました。

 

 4本目は小林拓馬さん。カードマニュピレーションとゾンビボールです。技がこなれていますし、舞台の表情が洗練されて来ました。これで演技に個性が生まれたなら、相当に実力あるマジシャンになれるでしょう。

 

 5番目は、富士から小林真理子さん。演歌に乗せて6枚ハンカチ、随所に工夫が凝らされています。アマチュアのマジックとしてはこれで充分です。

 

 6番目、高橋正樹さん。この人は毎回独自の工夫のマジックを見せます。今回も、ミステリーな話を加えたトークマジック、ご自身が作家ですから、話の構成は面白く、マジックも不思議です。手堅いファンがいます。

 

 7番目、富士から近藤路子さん。メリケンハット。ディズニー漫画の妖精のような恰好で、帽子から様々な品物を出します。巧い人ですし、丁寧な演技が多くの人の共感を得ています。

 

 8番目、高橋洋子さん。振袖を来て、お嬢様になり切りました。背丈がありますので舞台が生えます。演目は紙片の曲(卵の袋と紙卵)。何を演じても巧い人です。日ごろ熱心に練習していますので、丁寧に演じて、お客様の反応も上々でした。

 

 9番目は、五太子(ごたいし)さん。本名だそうです。本業がお寺さんで、舞台姿も仕事着のまま、南無妙法蓮華経で始まります。内容はカップ&ボール。小さな演技ですが、見せ方が巧いため、客席の後ろから見ていても内容が明確に伝わります。随所に不思議が出て来て、ただ者ではないことを知らされます。お終いのカップからお鈴(りん)が出てくるのが最高のセンスです。

 

 10番目は穂積みゆきさん。私のアシスタントです。黒の紗の着物を粋に着て、シルクアクト。まるで日本舞踊の先生が趣味でマジックをしているかのような演技。こう言うアマチュアがいると、ショウに厚みが出ますね。

 11番目は、富士からスマイル藤山さん、若狭通いの水。最近喋りがこなれて来て舞台に安定感が出て来ました。若狭は、私の流派の仕掛けです。よく受けていました。

 12番目は藤山大成。私の元から独立をして二年目、一つ一つの演技は上手くなり、見せ方が際立って来ました。あと一つ掴めば、マジックの世界でトップに立てるでしょう。今年が正念場かな。

 ここで10分の休憩。10番演じて既に1時間50分が経過。この分では全体が4時間のショウになりそうです。私は急遽、袖卵と植瓜術(しょっかじつ)の二本を演じる予定を、袖卵をカットしました。

 

 第二部の1番目は、川上一樹さん。身長187㎝。既に若い女性ファンがついています。ナイーブな性格がファンにはたまらないのでしょう。演技もシルクを繊細に演じます。何とかここから、自身の個性が深まったなら、この人は大きくなります。

 2番目は小俣美千代さん。何と一回目のマジックマイスターに同じ手順で出演しています。内容はメリケンハット。一回目から巧い人でした。同じ手順を20年経って見ると、知らず知らずに巧妙に発展しています。紙の花がとにかく綺麗で、バラバラと帽子の中から湧き出して来ると、生命力を感じます。ダンスも生きていて、舞台を大きく使っています。客席が盛り上がりました。アマチュアの完成形でしょう。

 

 3番目はKEIKO(小川慶子)さん。島田晴夫さんの傘出しを工夫して演じました。舞台が陽気で、マジックが好きだと言うことが良くわかります。ボランティアの舞台でこんなに盛りだくさんの演技を見せたら、さぞや子供や老人は大喜びするでしょう。

 4番目は、藤山初美さん。コロナ以降マイスターの出演がなく、今回が5年ぶりの出演です。お喋りマジックで紙うどん。相当にボランティアで演じているようで、手慣れています。初美さんもマイスターの早々の時期からの出演者です。

 

  5番目は早稲田康平さん、一部で司会をしました。カードとゾンビボール。小林拓馬さんと同じ素材ながら、演者によって味わいははっきり変わります。こってり丁寧に演じる古林さんに対して、早稲田さんは流れを強調します。ハイウェイをスポーツカーですっ飛ばすような演技です。これはこれでありです。筑波大学マジック研究会のOB,マーカテンドーの門下生。今や中堅マジシャンです。

 

 6番目、稲葉美穂子さん。衣装はご自身でデザイン。新しい和の世界を創造します。内容は陰陽水火の術。単純素朴なマジックですが難しい芸です。ご自身は、竹久夢二の世界から抜け出たような美人。その人が和傘を持って構えただけで、百年前の大正ロマンの世界を再現します。夢二のはかない世界です。

 

 7番目は小野学さん。秋田の大潟からやって来ました。演目は金輪の曲。以前からこの芸を演じたかったそうです。手妻の中でも400年近い歴史のある和のリンキングリングです。口上が残っていたおかげで復活出来ました。藤山一門は大樹も、大成も必ず演じています。小野さんは、衣装も新調して、初役に挑みます。

 

 これ以降は私とゲスト2本です。

 私は植瓜術。朗磨が才蔵で絡みます。朗磨はこの芸が好きなようです。こなれて来ています。縁があって私のところに入って来たなら何とか世に出してやりたいと思います。

 

 21番目が田代茂さん。本業はお医者さん。今回は「札焼き」を焼かずに、シュレッダーを使って粉砕してしまう、新しい試み、面白い手順です。

 

 22本目、能勢裕里江り江さん。出て来ただけで待ってましたと声がかかりました。みんなに愛されています。6枚シルクと8つ玉は健在。お医者さんをしながらもよく練習が出来ています。こうしたアマチュアがいることが日本のマジック文化の厚みです。何度見ても見飽きのしない芸に昇華しています。4時間のショウに大トリにふさわしい演技でした。

 

 さて8時30分にショウが終演。急ぎ片づけをして、朗磨と一緒に車で自宅に戻りましたが、このまま帰ったのでは食事をする時間がありません。途中レストランでハンバーグと冷しゃぶを食べました。随分朗磨は疲れています。良く働いてくれました。

 プロの仕事が身について来ました。食後事務所に戻り、遅くまで荷物の積み下ろしをして、深夜に帰って行きました。私も少々疲れました。ゆっくり休みます。残りの感想はまた明日。

続く