手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

エクセレントクラスインマジック

エクセレントクラスインマジック

 

 昨晩(13日)、私は高橋司さんと、中島弘幸さんが主催するエクセレントクラスインマジックでレクチュアーをしました。この催しは、今回から始めたもので、毎回実力のあるマジシャンから、優れたマジックを学び、合わせてその背景にある考えを聞き出そうとするものだそうで、その一回目が私に回って来ました。光栄です。

 次回は能勢裕里江さん、三回目はシルキー渚さんだそうです。更にその後、5月14日、6月11日、7月9日と三回私が続きで指導します。その貴重な催しの第一回に際して、何とか話題を集めたいと考えて、私は、十代、二十代のころにやっていたスライハンドの手順を始めに演じて、その後、演技の内容を解説して行こう、と考えました。

 演技は、実際には昔の儘ではないのですが、基礎的な要素をふんだんに盛り込んで、見ごたえのある手順に仕立て直しました。私が、現在洋装で舞台に立つと言うことは殆どなく、私の燕尾服姿のスライハンドマジックはまことに珍しいと思われます。

 先月大阪でも燕尾服を着て、クラシックなスタイルでマジックを演じました。あれを今回、東京でもやって見ようと思い、大阪以降も毎日密かに練習をしました。なかなか人が見ているところで稽古は出来ませんので、早朝や、深夜に稽古をしました。

 やっていると十代のころの気持ちが甦って来ます。そして十代の時に気づかなかったこともわかって来ます。「この瞬間お客様はどう思って見ているか」。とか、「なぜ縁もゆかりもないお客様がスライハンドを面白いと思うのか」。等、稽古をしていて朧気ながらお客様の心の奥が見えてきます。そうなると、自分自身ではスライハンドを愛していて、なんでも熟知していると思っていたものが、少しもスライハンドのすばらしさを伝えきれていなかったことに気付き、当時の自分が恥ずかしく思いました。

 そうなら、マジシャンは何をしなければならないか。何をお客様に伝えなければならないのか。そこをもう一度詳しくまとめ上げて、受講者に一つ一つ伝えて行こうと考えたのが今回の目的です。

 「もっともっとここは時間をかけてじっくり見せなければいけない」。「ここはもっと魔法がかかっていなければいけない。今のやり方では少しも魔法がかかっていない。本当に魔法によって変化したように見せなければいけない」。などと、稽古をするたびに本来考えなければいけないことを如何におろそかにしてマジックをしていたのかに気付きます。これは、私にとって第二のマジックの発見の時代に至ったわけです。

 私の人生にこうした機会を与えて下さったことは誠にありがたいことと感謝しています。願わくばこの催しを機会に、スライハンドに興味を持って、真面目にテクニックのマジックに取り組んで行こうとする人が少しでも増えることを期待しています。

 

 さて、17時45分に弟子の朗磨と共に秋葉原にある音頭ビル四階の控室に着き、早速テーブルを組み、小道具を出して、仕込みを始めました。はじめに音楽を流して13分のスライハンド手順を演じるために、少しウォーミングアップをしておかなければなりません。実は朝から手順の稽古はしていたのですが、それでも完ぺきとは言えず、うまく指が動くように、何度も手順を繰り返しました。

 18時40分。燕尾服に着替え、三階の会場に行きました。受講者は12人。狭い会場ですので、12人でいっぱいです。いきなり音楽を流して、ファンカード、5枚カードを演じ、それからシンブルの手順、ロープ手順を演じました。これで13分です。

 

 さて、今回が初回ですので、そこからシルクの扱いの基礎をひとしきり致しました。そしてフォールスノット、片手結びまで。次に、演技でやった、一本ロープの結び目のできる手順の後半の指導をしました。これで90分、目いっぱいです。

 参加者の多くは満足してくれたようです。私も今までやってきたことをまとめて語ることができて良かったと思いました。5月からの三回連続のレッスンの申込者が何人もあったようです。

 

 終演後は、近くの居酒屋に入り、高橋司さんと奥様のゆかりさん、そして中島さんと、私と朗磨の5人で雑談を始めました。中島さんは40年前に初めて私の家に来て、私から5枚カードを習ったそうで、そのことを懐かしく語っていました。何でも過ぎてしまえば記憶の彼方です。それでもあの頃は熱心に私も5枚カードを演じていた頃ですので、当時10代の中島さんに指導をしたのでしょう。

 高橋さんは私がきっちりステージの演技をした上で、指導に入ったことが嬉しかったらしく、実際、もう少し時間があれば12本リングを演じようとして、テーブルの下に隠しておいたのを見て、12本リングの演技があることを期待していたようです。

 残念ながら時間を計算すると、12本リングを演じることは不可能でした。でも次回、5月の時には12本を演じることは可能です。毎回ステージ演技を一つ二つ演じて、会場の場を盛り上げてから指導をすると言うパターンを定着させたら面白いと思います。

 飲んで食べるうちに、お二人には様々な思いがあるらしく、古い話がいろいろ出て来ました。知らず知らずのうちに人は40年も付き合ってしまうのですね。

 3月30日には、浅草でエンタメライブを行うそうです。そこには、藤山大成、ザッキー、和田奈月が出演します。これもまた支援しなければなりません。いろいろ企画があって楽しみです。

 呑み会を終えて11時、恐らく高円寺に戻るのは12時近くになるでしょう。長い一日でしたが、充実の一日になりました。

続く