手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

モメントス

メントス

 

 昨晩(26日)は、富士の指導の後、翌日名古屋の指導のため、一足早く名古屋に行って一泊しました。ホテルに行く前に、名古屋のマジックバー。モメントスに行ってみました。

 私が自らマジックバーに行くことなどめったにないのですが、(行ったとしてもお店の人が緊張して、マジックをしたがらない場合が殆どなのです)。去年の12月に、福井の天一祭の時に、マジックショップを出店している若い人がいました。聞くと、田中太郎さんが経営しているショップの人だそうで、田中太郎さんのことはまだ学生のころからよく知っていました。

 田中太郎さんは本名は石丸君と言って、野島君なんかと一緒によく八重洲口にあったトリックスに出入りしていました。私の事務所にも来ましたし、私のショウを手伝ってもらったこともありました。純粋にクロースアップが好きでしたので、その後はどこかのバーでマジックをしていると言う噂は聞いていましたが、どうなったのかは知りませんでした。

 さて、その石丸君が名古屋の錦通りでモメントスと言うマジックバーをしていると言う話を聞き、なおかつマジック道具を販売していると聞いて、一度連絡を取って見ようと考えました。ひょっとして私の携帯電話に昔の石丸君の電話番号が残っているのでは、と調べてみると。ありました。

 私は人生で2,3度しか石丸君に電話をしたことがなかったのに、なぜか携帯の連絡先にありました。そして電話をして、26日に店に行くことを伝えました。

 その後、岐阜の辻井さんと別件で電話をしているときに、私が名古屋のモメントスに行くと話をしたら、「それじゃぁ私も行く」、と言い出して、結局いつもの遊び仲間が錦通りに繰り出しました。

 私は何十年か前にモメントスに行っています。その時の経営者が誰だったか忘れましたが、若い人が何人かいて、お客様にマジックを見せていました。あの店が今や石丸君の経営するお店になったのだと思うと感無量です。

 私は、石丸君と静岡のレジャー施設の中にあった劇場に1週間出演したことがありました。落語や漫才と一緒にマジックをしたわけです。彼はクロースアップばかりしていたので、そうした芸人との付き合いが珍しいらしく、毎日が楽しそうでした。ショウは午後と夜の二回のみ、泊りは施設内のホテルですし、食事はレストランで自由にできますので何不足はありません。食事の際にアルコールを飲む場合のみ、有料です。

 私は、夜の食事の時にはビールを一本呑みました。すると、石丸君も飲みたげです。彼は20歳になったばかりだったと思いますが、ビールを飲ませると旨そうに飲みます。然し、酒が止まりません。「もう一本呑んでいいですか」。と私にねだります。私は少し心配になりました。私が一本をゆっくり飲んでいるうちに、アシスタントの石丸君は二本目を呑みます。これが毎日続きました。しかも私が部屋に戻った後も、彼はレストランに居座って、一人で呑んでいます。

 酒が好きなことは悪いことではないのですが、食後もずっと酒を呑み続けている姿を目にすると、「こいつは危ないなぁ」。と思いました。「それが破滅の道に行かなければいいが」、と心配になりました。さて、話はここまでで、その後石丸君との縁は絶えました。

 それが昨日、何十年振りかで会いました。7時50分ころ店に行きました。まだお客様はいませんでした。石丸君は顔はほとんど変わってはいませんでした。女性マジシャン(以前会っています)と福井に来ていたお兄さんの二人のマジシャンを使ってお店を切り盛りしていました。

 辻井さんといろいろマジックの話をしていると、徐々にお客様が入って来ました。仕事のできそうな社長さんが彼女を連れて来て、楽しそうにマジックを見ています。その後、仕事仲間が数人入って来て、こちらもいいお客様です。そのうち元学生時代の仲間かと思われる四人組のお客様も入って来て、だんだん賑やかになりました。

 錦通りと言えば、東京の銀座通りと言ったところで、かなり名古屋でもいいお客様が集まる所です。そこで毎晩マジックを見せていれば、腕はあがるでしょう。いいお客様もつかめて、パーティーなどの依頼もあるでしょう。なかなかいい条件のお店です。

 

 私は、噂に聞く石丸君のリングを所望しました。世間では田中リングとか言うそうです。見せてもらうと、緒川集人さんのの忍者リングとはかなり雰囲気も技も違います。

「なるほど、話題になるだけのことはある」。と思いました。ベースは、マジック売り場で演じている4本リングの演じ方が基になっています。ただ実戦的に不思議がより強調される見せ方をしています。お終いにリングをすべて改めさせるところも現場で鍛えられてできた手順かな。と思いました。

 更に額縁に入るカードも面白い作品でした。お客さんの選んだカードをデックに戻し、写真立てに向かってデックを投げつけると写真立ての中に選んだカードだけが入ってしまいます。不思議です。値段が2800円と言うのもびっくりです。これだけの不思議を私が考えたなら、私なら5000円は取るでしょう。何と安価な道具でしょう。

 色々見せてもらって、矢張り時々はお金を支払ってマジックを見なければいけないと改めて気づきました。当たり前のことです。

 酒呑みで、若かった頃の彼は心配だったのですが、マジックを職業にしたことで、無事に活動しています。今のところは上手く行っているようです。上手くいっていれば何よりです。

 帰りに山本屋の味噌煮込みうどんを食べたいと思いましたが、歩いて15分くらいかかると聞いて気持ちがくじけました。近くのうどん屋で間に合わせましたが、まぁ、ここで書くほどの物ではありませんでした。もう一か所どこかに寄って、とも考えましたが、昨晩はほとんど寝ていませんでしたので、この晩はおとなしく帰ることにしました。辻井さんにはお世話になりました。

 続く