手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

お土産

お土産

 

 一昨日(18日)は富士の指導。この日はいつものように、5時から起きて、雑用をしていたのですが、なぜか勘違いをしてしまい、「9時半に家を出たらちょうどいいだろう」。と考えていました。

 すると女房が、「あら、まだいたの?新幹線のチケットは9時27分発だったでしょ」。と言われて、頭の中を巡らしてみると、新幹線に乗る時間と家を出る時間を間違えていました。いきなりぼけています。

 結局、1時間後の列車で、11時34分新富士着。この日は雨もよいです。それから指導。今回から、時田隼平君の妹、那奈ちゃんが入って来ました。数年前は全く子供で隼平君のマジックを手伝っていたのですが、今は全く別人のように体も大きくなり、美人になっています。舞台に出たならきっと多くのお客様に騒がれるようになるでしょう。

 去る、2月4日の日に、富士の佐野玉枝さんと、加藤弘さんが日本橋アゴラカフェのショウに来てくれました。アゴラは東京駅にも近いため、人が集まりやすいようで、岐阜の辻井さんも来てくれました。有難いことです。この日はしばらくアゴラの話で沸きました。

 17時10分まで指導が続いて、37分発の新幹線に乗り、名古屋へ、そこから在来線で岐阜へ、ここでこの日第二のポカをしました。いろいろお土産を頂いて荷物が増えてしまい、私がいつも持っている信玄袋を加藤さんの車の足元に忘れてしまいました。まぁ、忘れた先は分かっていますから、後で連絡をすればなんとかなる。と思いましたが、それにしても失敗続きです。19時半岐阜着。いつものように改札に辻井さんが待っていてくれました。

 この晩は柳ケ瀬にある若宮八祥へ。もう何度も出かけていますが、一度も期待を外したことのない店です。高田八祥、若宮発祥などと何軒かある岐阜の名店です。

 今回は峯村健二さんが仕事でお休みです。大須演芸場での企画にゲスト出演しているようです。仕事があるのはめでたいことです

 「彼を悔しがらせてやりましょう」。と言って、刺身や、からすみの炙り焼の写真を撮って、メールで送りました。すると、「今、大須演芸場の楽屋で、弁当を食べています」。と返事が返って来ました。私と辻井さんは顔を見合わせて、「可哀そうに、演芸場の弁当ではさぞや物足らないでしょう」。と言って同情しました。

 然し、峯村さんは大須に弁当を食べに行ったのではなく、ショウをするために行ったのですから、同情されるいわれはありません。大きなお世話なのです。マジシャンがマジックショウを依頼されるのは立派な活動です

 でも、気楽にマジックの話をしながらからすみをつまみに、三千盛りで一杯やるのはこの世の最上の幸せです。この幸運にめぐり合わせない峯村さんは気の毒な人です。

 

 その後は、グレイスへ、この高級店は長いこと客足が遠のいていて、大丈夫なのかと思っていましたが、この晩は満席です。ロシアの彼女も来ていました。実は2月4日に辻井さんとともに、私のショウを見に来てくれたのです。彼女は手妻に異常なほど感動してくれました。彼女は日本文化に大変な興味を持って、随分書籍を読んでいます。

 この10年、15年は、外国人の日本文化の理解が深まり、日本人以上に日本文化に精通した人がたくさんいます。かつてのように、単純なエキゾチズムの興味ではなく、その成り立ちから現状まで詳しく知っています。そうした人たちの間でも、手妻はまだ未知の世界であるらしく、調べるとなると、なかなか資料がありません。

 たまたま何らかの理由で私を知って、私の生の舞台を見ることで興味を持つのですが、どこの国とも違う作品、演じ方、世界観に多くの人は驚きを持って見てくれます。有難いことです。

 前回は傘出しから、柱抜き(サムタイ)、植瓜術、そして蝶と、いろいろ演じましたが、どれも面白かったようです。どの作品も先ずロシアで見ることはできないものばかりです。彼女が熱心に感想を話すのが面白く、この晩、彼女は私らのテーブルから離れることはありませんでした。

 この晩、辻井さんから、堂上蜂屋の干し柿をもらいました。以前にも一度頂いています。美濃地方で育てて厳選された干し柿の中で、特に優れたものを堂上蜂屋と言う名で販売しています。干し柿を頂き、この日はホテルに入ってすぐに休みました。

 翌日名古屋で指導。朝10時から夕方4時まで、そして新幹線に乗って、家には8時前に返りました。

 女房と娘はちょうど食事を済ませたところでしたので、「いろいろ頂き物をしてきたよ」。と、チョコレートや和菓子の箱をテーブルに載せました。バレンタインデーが済んだ後のためか、あちこちからチョコレートを頂きました。

 今どきのチョコレートはどれを食べてもおいしいと思いますが、糖尿病患者には毒です。でも、「少し寿命が縮まってもおいしいものを食べたほうがいいよ」。と悪魔のささやきが聞こえます。ついついチョコレートを食べてしまいます。でも、この晩は違いました。「堂上蜂屋をもらったよ」。と言うと、娘は急に笑顔になり、すぐに堂上蜂屋の箱を開け、ビニールは剥がして食べ始めました。

 私も食べました。見事な出来です。今年はなかなか品物が揃わず、正月に出荷が出来なかったそうです。それが今、ようやく発送されたわけで、まだ辻井さん自身も食べていないそうです。私にそんなに気を使っていただいて恐縮です。

 しみじみ眺めると、実にいい形をしています。身が厚く、適度な弾力があります。ずしりと重く、外は、パウダーシュガーのように、細かな粉がまんべんなくかかっています。無論、これは天然の粉で、ほんのり甘く、高級感が漂っています。実は、甘みが強いのですが、食べた後にわずかな渋みが残ります。

 干し柿ファンにとっては、このわずかな渋みがいいのかも知れません。何でもかでもべたアマになってしまった日本のフルーツの中で、いまだに古風な風格を残している干し柿は貴重です。干し柿の中でも王様といえます。娘も「これは別格だね」。と喜んでいます。

 

 立派な桐箱に干し柿が5つ入っています。この外側の桐箱だけでも、東急ストアで売っている干し柿の袋詰めよりも高価なはずです。女房が、「この箱残しておいて、手品の道具を入れたらいいじゃない」。と余計なことを言っています。

 然し、あながち間違いではありません。桐箱の作りが丁寧で、きれいに鉋掛けがしてあります。長く信頼を築き上げて来たからこそ、高価でも売れるのだし、最高の桐箱に納まって絵になるのです。

 「あぁ、私の芸も何とか堂上蜂屋に近づきたい」。と思いつつ、「せめて箱だけでも堂上蜂屋と同じものが使えたら本望だ」、と思いました。干し柿に浸りつつ、昨日の遅刻、信玄袋の忘れ物もすべて記憶の彼方に行ってしまいました。懲りない男です。

続く