手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

指導の旅

指導の旅

 

 毎月第三土、日、あたりが指導日になっています。富士、名古屋、大阪と二泊三日かけて指導をしています。今回は大阪が休みのため、(大阪は月末にマジックセッションがあり、そこで時間を取って指導します)。富士と名古屋の一泊です。

 毎月毎月のことですが、これが結構大変な指導です。私のところに習いに来る人達は、アマチュアであってもかなり長くマジックを続けている人たちです。そのため、内容が全員違います。9人受講者がいると9種目の指導が必要です。

 それも、ピラミッド、リング、シルクプロダクション、カード、手妻の引き出し、袖卵、如意独楽、などなど、多種多様です。すべて私が頭に入れて、演技が出来るようにしておかなければいけません。そのため前日はほぼ徹夜になります。

 22日、東京駅9時57分の新幹線に乗ります。この時の崎陽軒シウマイ弁当を買い込んで、車中で弁当を食べます。私は月一回のシウマイ弁当が楽しみです、弁当は、小田原あたりから食べ始めます。熱海、三島と過ぎたあたりで弁当を食べ終え、富士で下車します。

 富士で半日指導をし、17時37分発の新幹線に乗り、名古屋まで、名古屋から在来線で岐阜へ、19時35分岐阜着、ここで辻井さんが待っていてくれます。一路柳ケ瀬へ、と言いたいところですが、この晩は駅前の繁華街に近い「ぶらっ采」と言う店へ。

 広い店で、居酒屋風ですが、ガラスケースの中はなかなかいい魚が並んでいます。真っ先にきびなごの酢味噌が目につきました。きびなごは鹿児島の名物です。小さな魚で身がキラキラしています。開きにして酢味噌をつけて食べますが、このちいさな魚を開きにするのが手間です。まさか鹿児島名物を岐阜で食べられるとは思いませんでした。辻井さんはハタハタの塩焼きを注文していました。ハタハタは秋田の名産です。私の女房の生まれ故郷で、昔は季節になると山ほど取れて、木箱ひと箱分が10円で売っていたそうです。ところが、ハタハタの産卵場所である八郎潟を埋め立てた途端、ハタハタはパッタリと取れなくなりました。そのため今では高級魚です。小さいながらも骨がしっかりしていて、身は淡く、焼いても煮ても、生で食べても旨い魚です。

 私は早々に辛口の日本酒で、きびなごの刺身とぶりを頂きました。そのあと里芋の揚げ物にキノコを乗せたものを頼みましたが、きびなご、ブリ、サトイモは甲乙つけがたくいい味でした。この間に東京で一か月間にあったマジックの出来事など、話をしましたが、辻井さんはしきりに東京に来たがっていました。特にアゴラカフェのマジックショウと、奇術協会が催して島田晴夫師を偲ぶ会は行きたかったそうです。

 下地が出来てから柳ケ瀬のグレイスへ、この晩はロシア人が来ていました。彼女はますます日本語がうまくなっています。金髪で大柄な女性でどこにいても目立ちます。その女性が大垣弁を喋るのが面白く、ついついくだらない話をします。それが気分転換に最高です。

 驚いたことに岐阜の繁華街は若い人でにぎわっていました。もうコロナは収束したのでしょうか。私はいい加減コロナ報道はやめた方がよいと思います。もちろん、感染者は出ていますが、もうすでに感染しても重症化する人がいません。コロナに罹っても二、三日で回復します。つまりコロナは風邪と同じなのです。そうならもうコロナを話題にするのはやめた方がいいでしょう。

 

 翌日(23日)は名古屋での指導、午前中から夕方まで、そして16時の新幹線に乗ります。いつもなら、ビールかハイボールを買って飲みながらパソコンをするのですが、この日はアルコールも飲まず、少し寝てしまいました。

 中央線に乗って、さて高円寺に帰ろうかと思った時に、急に日本蕎麦が食べたくなりました。体が醤油味の汁を求めています。駅蕎麦でもいいのですが、出来れば出汁がよく効いた味わい深い蕎麦が食べたくなりました。そうなら、中野で降りて、更科に入るのがいいでしょう。

 汁のきつめな蕎麦ならば、鴨南蛮です。待つことしばし、器に濃いめの汁と蕎麦と鴨肉にネギに入った蕎麦が来ました。汁を一口、そう、これです。辛味の味で、奥にしっかり出汁が効いています。肉は赤身で、蕎麦と一緒につるつるッとすすります。食べたかったから十分満足です。

 鴨の脂の付いた肉をつまみます。カモのうまさはこの脂身にあります。こくのある旨味を感じさせる脂身と蕎麦を併せて食べると蕎麦が引き立ちます。蕎麦そのものはあっさりとした食べ物ですが、揚げ物とは相性がよく、てんぷらなどと一緒に食べると蕎麦のうまみが増して充実感が生まれます。

 昨晩は決して寒くはありませんでしたが、鴨肉をつまんで脂身を吸収して十分温まりました。本当はここで酒を呑みたかったのですが、どうしたわけか昨晩は酒を飲もうと言う気分になりません。指導の道具をトランクに入れ、引いて帰らなければならないため、酒を呑むとついつい億劫になるので、呑むのを控えたのでしょう。

 鴨の汁は最高に旨い酒のつまみであることは承知していますが、呑みません。中野からタクシーに乗って自宅に戻りました。自宅に戻ると女房の手作りのパイがありました。娘と三人で紅茶を飲みながらパイを食べました。どこへ行っても暖かく迎え入れてくれるところがあるのは有り難いと思います。自分のやりたい芸能で、人から感謝され、何不自由なく生きて行けるのは幸せです。長い一日がようやく終わります。ゆっくり休みます。

続く