手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

かくして何も起こらない

かくして何も起こらない

 

 昨日の話の続きです。予言者と言う人たちが世界にたくさんいます。そして、彼ら、彼女らは数多くの予言をします。10月30日、または31日に、日本で大きな災害、もしくは地震が起きる。と多くの予言者が言いました。然し結果は何も起こりません。

 時間が過ぎてしまえばこうした話は素通りなのです。童話に、村で頻繁に「狼が来るぞ」。と叫ぶ少年の話があります。始めのうちは村人も驚き慌てて、銃を持ち出して、構えて狼を待ちました狼は来ません。同じことが何度か続くうちに、もう村人は少年の言うことを聞かなくなります。

 そのうち、本当に狼がやって来て、少年を襲います。少年は必死に叫んで、村人に助けを求めますが、村人は「いつもの嘘だ」、と思い込んで全く関心を示しません。そうして少年は狼に食べられてしまいます。

 この話は少し複雑な内容を持っています。仮に狼少年の話を地震の予言に置き換えて考えてみると、予言者の言うことを単なる予感、思いつき、と理解して、「当たるも八卦、当たらぬも八卦」。と興味を示さずに、ほとんど話を聞かずにいると、時には当たることもある。実際当たったときには大きな騒動になる。となると、人の話を信じてよいのか、いけないのか、これは答えの出ない話です。

 少年の犯した嘘。すなわち、人の命に係わる嘘やいたずらはいけない。と言うことは、絶対真似をしてはいけないと言う教訓だ。と言う話はよくわかります。然し、その後に実際少年が襲われるような事態になった時に、嘘と真(まこと)をどう見分けたらいいのか。その区別が分かりません。

 「日頃から村人に嘘をついてばかりいるから信用を無くして、本当の困ったときに人が助けてくれなくなるんだ」。と言うのはその通りです。そうなら、日ごろから当たらない予言をまき散らしている人は、たまに予言が当たったとしても、それで功罪が帳消しになるのでしょうか。逆に、当たらない予言が世間の噂から消えて、当たった予言だけがクローズアップされるのでしょうか。

 どうも私が見ていて思うことは、後者の考えが予言者に当てはまるのではないかと思います。つまり、たまたま当たったことを世間は大騒ぎしているだけなのだろう。と思います。

 例えば手相の占いを見ていると、宝くじに当たる手相などと言うものがあります。宝くじに当たる相が出ていると当たるのだそうです。然し奇妙です。宝くじを買うときは、まだ当たりくじにはなっていない、只数字が書いてあるだけの札を買うことになります。買った札は当たりではありません。当たるか当たらないかは、その後の抽選で決まります。

 抽選によって当たり札が決まるなら、どうして、当たってもいない札を買った時点で当たりが予想できますか。そして、なぜ、当たってもいない札を買った人に、当たると言う手相のサインが事前に出ているのですか。

 結局、予想、予測、予知、予言などは、あてずっぽうではないのですか。「いや、あてずっぽうではない。目に見えない法則あるのだ」。と言う人は是非その法則を示してくれませんか。

 

 脱出王として知られたハリー・フーディーニは、晩年、超能力に異常な興味を示し。本当の超能力が見たいと希望しました。彼は、晩年大きな財産を手に入れ、その財産を生かして、超能力を見せてくれる人に懸賞金を出しました。

 もしそれが本当の超能力だと認められたなら、賞金を出そう。と言うものです。そのため、心理学者であるとか、科学者であるとか、マジシャンであるとか、仲間を集めて、実際多くの自称超能力者の不思議な現象を見たのです。ところがことごとくそれらはトリックだったのです。

 いつしか、インチキ超能力者はタネをばらされてしまうことを恐れ、フーディーニの求めに応じる人がいなくなりました。そこで、インチキ超能力者の手口を使って超能力を見せるショウを劇場で企画して、その手口を観客に見せました、この企画は大当たりをしてどこの劇場でも話題になって人が集まりました。

 しかし、だからと言って、フーディーニは超能力を否定したわけではありませんでした。最晩年に至って、フーディーニ夫妻は、互いのどちらかが死ぬようなことがあったときには、死後の世界からメッセージを送ると言う約束をし、その送り方も、ペンを使う、ベルを使う、光を使う、風を使う、など細かく取り決めをし、サインの言葉までもいくつか決めました。

 そしてフーディーニが亡くなって以後、毎月、フーディーニの月命日に、フーディーニ宅で奥さんが降霊術を行いました。興味の人を何人か集めて、晩に数時間。生前の夫婦の取り決め通り、様々な道具を使って、降霊を行いました。それは毎月行われ、奥さんの亡くなるまで続きました。然し、結果は何も起こりませんでした。

 だから超能力はない。そんなものは嘘だ。とは申しません。でも限りなく起こり得ないと思います。但し、世の中には、何か理屈を超えたもの、常識では考えられない力。法則があった方が面白いと思います。私もそうした力に一度でも接してみたいと思います。

 そのため、どうか、私に宝くじが当たるようにご配慮下さい。実は私の手相は宝くじが当たる手相をしています。然し、今まで3万円当たっただけで、大きな当たりを経験していません。せっかくいい手相をしているのだから、もう少し気を使って大きな当たりを下さい。もし大金を手に入れたら、私の死後、毎月女房が降霊術をします。

続く