手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

財産の寿命 1

財産の寿命 1

 

 人に寿命があるように、家にも財産にも寿命があります。わずかでもお金の溜まった人はどうやって財産を残すのか、と言うと、大きく財産は、三つに分けて持っています。まず家土地です。そして、株や債券です。そして、美術品や骨董です。残りは現金です。

 

 一番効率が悪いのは現金です。特に今の日本では現金を銀行に預けてもほとんど利息が発生しません。定期預金にしてもたいしたことはありません。

 昔から日本人は、少しゆとりができると、家を買ったりマンションを買いました。多くは自分で住むためです。いくら働いてもお金が貯まらないのは、多くの場合家賃で取られてしまうからです。

 親の家に住んでいたり、安価な公団住宅に住んでいるなら、家賃の心配はいりませんが、民間のアパートに暮らすとなると、その負担は大きいものです。将来的に少しでもお金を貯めたい、或いは、少しでも財産を作りたいと考えるなら、一番確実な方法は、家を確保することです。

 特に私のように自由業で生きて行くとなると、資本を持たないと身動きができません。中古マンション一つ買うのでも、なかなか銀行から借り入れることが難しいからです。私も20代のころは随分苦労しました。この道一筋10年活動して来たとか、この社会では信用があるとか言っても、マジックの信用では世間に通用しません。実績や信用を担保にお金を借りることなど難しいのです。

 一人でマジックをしていた頃は、借金もせずに活動が出来ましたが、人を使ってイリュージョンを始めるとなると、何から何まで費用が掛かります。5人で活動すれば、衣装は5着必要です。それを一回のショウで3度も4度も着換えます。衣装だけで20着作らなければなりません。大道具も何点も必要です。それを保管しておく倉庫を持たなければなりません。移動の際には荷物用のトラックが必要です。

 そうなると、イリュージョンチームを立ち上げるには、1000万円ものお金が必要です。然し、誰も私に投資してはくれません。1000万円の運転資金を作るためには担保を持たなければならないのです。

 そこで私は27歳の時にマンションを買いました。マンションと言っても中古で、ささやかなものです。築30年のマンションでした。それを1600万円で買いました。リビングの他に3室あります。今考えると安いマンションですが、27歳のころは目いっぱいの投資でした。なんせ。私と女房の所得で借りられる金額は1200万円が最大でした。とにかくそれを銀行から借りて、残りの400万円を作って、めでたくマンションを所有しました。

 このマンションは随分働いてくれました。イリュージョンチームを作る時にも、水芸の装置を作る時にも、マンションは担保になってくれたのです。昭和56年のころ(まだバブルが来る前です)、私は一人でマジックをしていましたが、結構いい稼ぎをしていました。それでも年収300万円程度でした。女房は会社勤めをしていて、250万円くらいだったと思います。ローンは毎月7万円でした。生活は楽ではなかったですが、それでも少しずつ蓄えが出来ました。翌年には、倉庫と事務所を一軒借りて、東京イリュージョンの本拠地が出来ました。

 ローンの7万円は、仮にアパートに住んでいてもそれぐらいの家賃はかかります。ほとんど家賃のつもりでローンを支払っていたわけです。但し、お金が必要なときには、マンションがずいぶん助けてくれました。家の評価額が、毎年少しずつ上がっていましたし、返済も徐々に済んで、借り枠が増えて来ていたのです。

 銀行に借金の相談に行くたびに、「まだまだ借りられますよ」。と言われました。これは嬉しいことでした。まだキャッシュカードなどが普及していない時代でしたので、ちょっとしたローンを起こすのでも簡単ではなかったのです。

 マンションは不動産として、どれくらいの価値があるのか、と言うと、例えば、200坪の土地に、8階建てのマンションが建っているとします。住人は、40世帯いるとして、40世帯が、マンションの建っている土地を共有しています。すると、一軒当たりの土地所有数は5坪と言うことになります。この5坪分の土地価格が、各所有者の財産になります。

 昭和60年当時ですとマンションの建物自体も価値はありましたが、マンションの建物は築50年を過ぎるとほぼ無価値になります。建て替えが必要になるからです。いくら安いマンションだからと言ってうっかり築50年を買ってしまうと、すぐに建て替えになって、ローンと建て替え費用の両方を支払わなければならなくなります。これが落とし穴です。

 マンションと言うのは、ババ抜きのようなもので、建物が建ってから、よーいどんで、住み始めて、7年8年経ったら次の人に売って行きます。どんどん次に譲って、お終いに50年経ったら、その時の所有者が建て替えをしなければならないのです。結局、みんな建て替えなんてしたくありませんから、7年くらい住んだら売り抜けをしているのです。

 然し、古いマンションには、年寄り夫婦が住んでいたりします。その人たちは建て替え費用もままならず、仮に費用があったとしても、それほど長くない人生のために、マンションを建て替える気持ちもない人がいて、建て替えには消極的な人が多いのです。うっかり、そんなマンションを買ってしまうと、築50年以上経ったマンションは売り抜けのできず、建て替えも出来なくなって万事休すです。

 仮に、いざ建て替えと言う段になって、銀行は、何に対して建て替え費用を貸してくれるのか、と言えば、40世帯が共有している土地代に対してです。

 マンションの土地が、200坪あって、一坪200万円なら、土地の価値は4億円です。それだけあれば、土地を担保に銀行から借りて、100%建て替えが可能でしょう。勿論マンションが建った後、40世帯の人々は、銀行にローンを返済しなければいけません。

 返済ができない人は、新築のマンションを売って引っ越すことになります。元の築50年のマンションでは売るに売れませんから、負担金ゼロで建て替えが出来て、高い価格で家が売れるのなら幸運です。多くは、ローンを支払う上に、自己負担までしなければならない場合が多いのです。

 各世帯が自己負担を渋るような場合は。建て替えを諦めて、マンションごと土地値で一括売りをして、各世帯が相応の金をもらって解散するしかないのです。

 そんな時でも頼みになるのは土地です。とにかく日本では、土地を持つことで財産が作られて行きます。財産を持つと言うことの基本は土地を持っているかどうかなのです。

 

 昨日、中国の習近平さんが、「土地は国のものだ」と宣言したら、マンションの価格が暴落したと言う話をしましたが、その理由は、土地の所有が認められなければ、将来マンションの建替えが出来なくなるからです。結局再建築できない建物は財産としては無価値なのです。

続く