手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

栄光の新幹線

栄光の新幹線

 

 日本人がこれまでの歴史で作り上げた、最も誇るべき工業製品は、戦前ならゼロ戦戦艦大和、戦後は新幹線でしょう。新幹線は工業製品として優れているだけでなく、そのシステム、安全性、サービスと、何から何まで世界一で。完成から50年以上たってもその優位、信頼度は今もダントツで一番でしょう。

 それは日本人が自画自賛するだけとではなく、日本を訪れる海外の人も等しく称賛することです。何よりも凄いことは、新幹線は、5分に一回ホームにやって来ます。この過密スケジュールに驚かされます。世界中どこを探しても長距離列車が5分に一回走っている国などありません。

 我々はそのことを当たり前に考えて、普通に利用していますが、これは決して普通ではありません。東京大阪間は約500㎞あります。ヨーロッパで言うなら、パリ、アムステルダム間が450㎞です。フランスのパリからオランダのアムステルダムへは特急列車が走っていますが、日本のように、2時間40分などと言うスピードはあり得ません。最近はフランスの列車も早くなりましたが、それでも3時間20分以上かけて走ります。但し、5分に一回発車すると言うのはあり得ません。一日4便です。

 つまりパリからアムステルダムに行くことは、それだけで大仕事で、頻繁に海外に仕事に出る人ですら、日常に利用しているわけではないのです。

 

 かつて、私が子供のころはこだまと言う特急が東海道線を使って、東京大阪間を走っていました。今もこだまは走っていますが、あれではありません。もう少しスリムで、クリームパンのクリームのような色をしていて、チャーミングなボディでした。当時はこだまが日本最速で、東京大阪間を6時間半で走っていたのです。私の持っていた絵本にはこのこだまが絵で描いてありました。それを見て私は分けもなく凄い列車だと思っていたのです。

 つまり、ヨーロッパのパリアムステルダム間は、一日4便だけで、60年前の日本とほとんど変わらず、便数の少ない列車なのです。その後、昭和39年に新幹線ができたときは、3時間10分で大阪まで行くと言うのが驚きで、当時は新幹線とは呼ばず、「夢の超特急」と呼んでいました。特急のひかりより早いのですから超特急です。しかも「夢の」、という冠詞が付いていたのです。

 その後になって、どんどんスピードアップされ、今では2時間40分です。しかも、5分に一回走っています。タレントで毎日乗っている人がいますし、30分も遅れたら、テレビ出演に間に合わないと言う、まるで綱渡りのような仕事を連日こなしているタレントもいます。

 それを可能にしているのが新幹線のシステムなのです。大変なスケジュールを難なくこなしている新幹線に対して、利用者は、それが当たり前と考えているようですが、過度な信頼は禁物です。

 実際タレントで、これまで新幹線が使えなくて、やむなく飛行機に切り替えたとか、タクシーを使って移動をしたと言う話を聞きます。東京から名古屋までの移動を、タクシーを使えば、とんでもない費用がかかります。然し、仕事を間に合わすにはそうしなければならないので致し方ありません。こんな時に新幹線の有り難さを実感するわけです。

 

 話が長くなりましたが、台風6号7号の影響で、この数日大幅に新幹線のダイヤが乱れました。予定が立たずに、観光ができなかった人や、仕事を失った人、たくさん出たと思います。

 でも、たまにはこうした日があるのも仕方ないかな。と思います。新幹線なら何から何まで完璧だと信じて、勝手にスケジュールを立てて、信頼しきってしまうことの方が危険だと思います。

 身動きできなくなってしまう日だってあるのです。むしろこの際、5分に一回新幹線を走らせることを考え直した方がいいと思います。実際の災害があったときには、このダイヤは危険です。それほど東京大阪間が人の移動が必要ならば、もう一本、リニア新幹線を早期に作った方が良いと思います。

 リニア新幹線は、静岡県の川勝知事が強硬に反対していますが、どうもあれは条件闘争です。大井川の水源云々を言っていますが、大井川は何癖で、その実は静岡県に新幹線駅を誘致したいのでしょう。「誰の許可を得て、この場所で商売してやがる」。と地元の顔役が凄んでいるのです。

 そうなら、静岡駅にのぞみが停まるように配慮して、早くにリニア新幹線を作ったら良いのです。リニアが出来たなら、従来の新幹線はせいぜい15分に一本走るようにして、少し線路を休ませてあげたらどうでしょう。

 その分、急ぐ人はリニアに乗ればよいことです。聞くところによると、リニアはトンネルばかりで、ほとんど外を走ることがないようですから、台風も雪の影響も少ないでしょう。そうなら、今回のような巨大な台風が来ても、難なく東京大阪間は停滞せずに運行できるでしょう。

 世界中で、パリ、アムステルダム間の距離に、二本の超特急を走らせる国など、日本をおいて他に存在しないでしょう。それが出来たなら、また、海外から、リニア新幹線に乗って見たい、と言う観光客が爆増するでしょう。そうなれば海外の観光客はまたまた増えるでしょう。しかも、観光客は、東京大阪間の移動が短縮されて、その分ゆっくり食事をする時間や、もう一か所観光する場所が出来て、観光が一層充実するでしょう。

 芸人や、政治家も、簡単に移動ができて、選挙応援に行くにも、いつもよりも二、三か所余計に演説に回れますし、タレントはもう一本、余計にレギュラー番組も取れるでしょう。売れている人は一層売れて、売れない芸人には一向に恩恵が来ない、二極の時代が一層加速するでしょう。

 この30年間日本が二極化していると危惧する人がいますが、戦後の貧乏だった時代を除けば、日本人はずっと二極の中で生活していたのです。誰も彼もが平等に生きて行ける時代だなんて、それは夢物語です。能力ある人が能力に見合った収入を得なければ、能力ある人は日本からいなくなってしまうのです。

 能力ある人を認めて、能力に見合った収入を得ることは、むしろいいことであって、おかしな平等意識を持ち出して、才能のある人を押さえ込もうとすることは、妬みや僻みの変形であって、それが蔓延している国が暮らしやすい国であるわけがありません。

 8月17日を新幹線の日と定めて、日ごろ勤勉に動いている新幹線に、国民全員が手を合わせて感謝する日にしたらいいでしょう。だからと言って終日運休する必要はありません。それぐらいしても余りある功績を新幹線は果たしています。

続く