手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

関西の夜明け

関西の夜明け

 

 このところ、JYONIOと高重翔による、東京四谷のウィングシアターでのコラボライブ(7月3日)と言い、一昨日の吹田文化会館メイシアターでの、橋本昌也のマジシャン活動10周年記念公演(7月8日)と言い、立て続けに内容の濃い、大人が楽しめる成熟した公演が見られて、久々気持ちが高揚しました。

 これまで大阪の若手マジシャンの活動は、多くは大学のマジック研究会を卒業した人たちが、学生時代の手順を発展させて、コンベンションなり、ライブなりに進出することで新しい風を起こしてきました。

 私が主宰する大阪マジックセッションなども、多くは学生OBが出演して、意欲的な演技を発表する場として、彼らを支援することが目的の一つだったわけです。

 但し、それはアマチュアイズムの支援ではありません。優れたマジシャンを支援することはその通りですが、飽くまで私が希望する世界は、一般のお客様を取り込んで、大きなマジックの輪を作って行けるような、安定した実力を備えたマジシャンを育てたい。という気持ちが根底にあります。

 マジックセッションは、コンベンションやコンテストに出るための予行演習の場ではないのです。飽くまでもマジシャンが多くのお客様を掴んで行き、一般に受け入れられるような芸能になって欲しいのです。

 無論、初めはアマチュアでもよいのですが、アマチュアであっても、しっかりとプロとしての見識や意識を身に着けて行って、コアな観客だけを相手にせず、いい演技ができるようなマジシャンを育てたいのです。そうしたマジシャンが関西で育って、優れたマジックを見せてくれるのは何年先のことだろう。果たして私の寿命があるうちにその日が来るのだろうか。そう思っていた矢先の、この数日の関西勢の伸張でした。

 橋本昌也さんからメールをもらい、ぜひ大阪の公演に来てほしいと言われ、そのため、毎月の大阪の指導日程をずらし、8日の日中に指導を済ませ、急ぎ吹田文化会館に伺いました。結果はいいマジックショウを見ることができて満足でした。以下はその感想。

 

 会場の小ホ-ルは、半円形のゆるい傾斜の付いた見やすい客席で、舞台は、ほとんど袖がなく、広く浅く作られていました。道具らしい道具を使わず、一人のマジシャンによる公演ですから、これで十分でしょう。もしこのホールが、マジックの専門劇場であったならどんなに素晴らしいかと思います。

 5時30分。暗転から、いきなりサスがついて、橋本昌也が舞台中央に出現。手には銀のボールを持っています。そこからゾンビボールの演技。細かな振りが曲にぴったり合っています。ボールは空中で消えてこの景は終わり。いい演技です。

 続いて、トークが始まって、2本のロープの伸び縮みの演技。これは以前に東京で見ています。彼の得意芸なのでしょう。ウォーキングノットから、体を貫通するロープまで。手順も演技もスムーズで、観客も喜んで見ています。

 観客は、ここまでの演技を見て、相当レベルの高いマジックショウに来ていることを自覚します。いい流れです。

 次はジャンボスリーカードモンテ。この辺りに来ると、喋りの技術が問われるのでは、と少し心配しましたが、以前東京で見た時よりも、喋りがこなれています。というよりも、彼の素直な気持ちがそのまま表現されていて、独自の喋りが出来つつあります。「あぁ、こうした話し方もありなんだ」。と納得しました。

 小さな金庫を使った、キーの当て物。観客を二人舞台に上げて、キー5つを渡して、そのうちの一つ、金庫の開くキーを当てるのですが、これも誠実な話し方が観客に受け入れられていて、いい反応でした。

 マイムによる駄目なマジシャンの生活。ご当人が真面目な人柄であるだけに、駄目なマジシャンをマイムで表現するのは難しいのでは。と思って見ていましたが、気分の転換に、こういう景もありなのでしょう。

 観客全員が参加して、それぞれの指を一つ選択して、マジシャンの指示によって、指の位置を動かします。すると全員が人差し指を選択すると言うもの。ここらで、少し見ごたえのあるマジックが見たいところです。

 観客を一人舞台に上げ、マジシャンの体にシール3枚を張らせて、その位置を当てる予言物。舞台上手に、予め黄色い封筒が吊るされています。その封筒の中からマジシャンがどこにシールを張られるかという予言が出て来ます。

 カードを二枚選んでもらい、屑籠に、カードを入れ、携帯の扇風機を入れると、カードが舞い上がる。それをカーペットクリーナーでくっつけて取る。発想が面白く、唯一のカード当てがファンテンカードと言うところが、この人の目指すマジックショウがどんな世界を作り上げたいのかが見えて来ました。

 お終いは11本リング。彼自身が長くリングを研究し、ようやくここまで到達した作品。基本の流れはヴァーノンのシンフォニーオブザリングですが、目の前でつなげたリングを観客に渡し、それを受け取りつつ本数を増やして行くところが個性的。お終いは、灯篭を作らずに、一遍に全部外して終わり。まだ完成半ばの感がしますが、当人の方向性は見えていて、独自の作品になりつつあります。

 

 さて、観客層は若い人が多く、マジック研究会の仲間が多く見に来ていますが、内容は、あえてマニアを対象とした演技を狙わず、普通にあるマジックに曲を変えたり、振りを付けて雰囲気を演出したり、ストーリーを付けたり、ギャグを加えたり、観客がショウに何を求めているのか、を真剣に考えて答えを出しています。全体にセンスの良さを感じさせます。

 後半の、指、予言、ファンテンカードの三作は少し作品としては小振りで、盛り上がりに欠けるかな。と思いました。本来は、この辺で彼の得意芸の「鞄とシール」を演じたならショウ全体が締まったと思いますが。あえて、得意芸を外して。ショウを作り上げたところが新たなるチャレンジなのでしょう。

 この内容なら、この先、徐々に子供連れや、若い男女が気軽に遊びに来れるような、質の高い公演が出来るようになるでしょう。ようやく一般観客のためのマジックショウが大阪から出てきたことが、これまで混沌としていたマジック界から光がさして来たように感じ、嬉しくなりました。

 一人で90分演じるのは大変な熱演ですが、自身のイメージ通り綺麗に仕上がっています。但し、フィナーレの挨拶の中でのグッズ販売の宣伝は、誰か司会者や関係者にさせたほうがいいでしょう。橋本昌也は飽くまでスターでいて欲しいと思いました。

続く