手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

バフムト攻略

バフムト攻略

 

 ロシア軍は13日に東部戦線のバフムトを砲撃し、この先本格的な攻略戦が始まる様相になって来ました。日本に伝わってくるニュースでは常にウクライナ軍が優勢で、ロシアは負け続けている印象を受けますが、ここへ来て、戦争は東部に集中し、ロシアが既に占領した東部3州での攻撃が続いています。

 然し、この辺りはロシア軍も強固な陣地を構築しているためにウクライナ軍も簡単には占領出来ません。まもなくウクライナ侵攻から1年が経とうとしています。ロシアとしてはここで東部3州を奪還されては、この1年間が全く無駄になってしまいます。

 東部3州の維持はロシアにとっては最低限の戦果なわけですから、何としてもここは死守しなければならず、なりふり構わぬ攻防戦が繰り広げられています。

 

 それでこの先どうなるのかと考えると、先読みすることはとても難しいと思います。先ずロシアは、私設軍隊のワグネルに囚人を入れて、戦場に投入しましたが、このところ囚人の軍隊への応募数が不足して来て、これ以上の人的補給が出来なくなってきているそうです。

 なんせ数か月前まで5万人いたワグネルの兵士が、今は1万人に減ってしまったそうで、東部戦線でのロシア兵の消耗が激しすぎたようです。ワグネルの創設者のプリゴジンは、ワグネルの兵士の数が激減したことで、発言権が弱まり、微妙な立場に追い込まれています。

 またロシア軍は、武器が不足して来て、いよいよ戦闘に支障をきたしているようです。そうなら、明日にでもロシア側は攻め込まれて、ウクライナから追い出されるのかと言うと、どうもそうではないようです。やはりかつて世界第二位の軍事力を誇っていたロシアはそう簡単にはつぶれないのでしょう。

 優勢と言われているウクライナ自体も、強力な武器を持たず、ジェット機もわずかで、本格的な戦いをするには装備が貧弱なのです。そのため、東欧の各国や、ドイツイギリス、アメリカなどに戦車やミサイルの供与をしきりに申し込んでいます。

 アメリカやドイツは戦車の供与を了解しています。そして、東欧の各国も今、使っている武器や戦車をウクライナに供与することには賛成です。なぜなら、東欧の軍隊で使用している武器の多くはロシア製で、しかも50年以上使い続けて来た、いわば骨董品です。

 今回のロシア軍の弱体を見たなら、同じ武器を持っていることはもう時代遅れであることは明らかで、出来ることなら、ロシア製の武器をウクライナに売って、新たにドイツやアメリカの武器を手に入れたほうが賢明なのです。むしろ今回のウクライナ戦が、自国の軍備を充実させるチャンスなわけですから、東欧各国は進んでウクライナに武器を渡します。

 

 武器を手に入れたウクライナはロシアに勝利できるかと言うと、そうではありません。ここで根本的な問題が生まれます。それは、この戦いは何をもって終結とするのか。と言う、ゴールが見えないことです。仮に、ウクライナが善戦して、自国からすべてのロシア兵が退散したとして、それでロシアは、「停戦しよう」。とは言って来ないでしょう。

 仮にロシアがウクライナの全ての占領地を失ったとしても、ロシアはこう言うでしょう。「ロシアはウクライナの占領地は失ったが、ロシアの土地は1㎜も取られてはいない。そうならこの戦いは引き分けだ」。と。

 これはロシアの伝統的な論法です。かつて日露戦争の際に、ロシア軍は、自国の国境を越境して、はるか1300㎞先の旅順港まで占領していました、それを日本軍が戦い、旅順を落とし、奉天の開戦でロシア軍を撃破し、戦いを重ねてロシア国境まで追い払ったところで、和平交渉が始まりました。しかしロシアは、前述の通り、「我が国は退却はしたが、いまだロシアの土地は失ってはいない。つまりこの戦いに勝者はいない。引き分けである」。とうそぶいたのです。

 日本とすれば、ロシア軍をロシア国境まで追い払えば、戦いに勝利し、莫大な賠償金が入るものと考えていたものが、引き分けと言われて落胆します。では、どうすれば勝利なのか、と考えたなら、このままロシア兵を追い続け、モスクワを包囲するとなると、当時の日本の国力では不可能でした。

 この事をウクライナに置き換えてみてください。一体ウクライナは何をもってロシアに勝利したと言えるでしょう。ウクライナ国内のロシア兵全てを追い払っても彼らは引き分けを主張するでしょう。それにめげず、ウクライナは、アメリカやドイツから買った戦車を使って、モスクワへ侵攻しますか?それは不可能でしょう。ウクライナの軍事力は今の戦いでいっぱいいっぱいです。

 ましてや、欧州各国は、ウクライナが戦場を拡大して、ロシア国内で戦争することなど全く考えていないでしょう。モスクワ攻防戦をすることになれば、ロシアは必ず核兵器を使用します。欧州各国や、アメリカはそこまで容認するでしょうか、あり得ない話です。

 では何をもって勝利としますか。つまり、日露戦争以来のロシアの論法を使うなら、今回の戦いに勝利はないと言うことになります。では全く解決できないかと言うなら、そうではありません。現実的な駆け引きで言うなら、東部3州と南部1州の4州を、ロシアとウクライナで取り決めをして、2州ずつ分け合うか、3州と1州で分けるか、そんな分取り合戦を地下でしていて、適当なところで停戦しようと考えているのです。

 そのため、今、最後の分け前を有利にするために両国は、必死になって小さな町の奪い合いをしているわけです。この先、両国共に3月には本格的な侵攻をすると言っています。然し、恐らくこれはブラフでしょう。多分そうなる前に、アメリカなり、トルコなりが、和平のための調停案を出すのではないかと思います。

 どう考えてもこの先ウクライナもロシアも、欧州各国も、戦いが良い方向に進むとは考えてはいないからです。そうなら、戦車がアメリカから届く前、数か月内には調停案が成立するのではないかと思います。

 欧米の人々の言うことを表のメッセージだけでとらえてはいけません。彼らは必ず裏で取引をしています。そしていま目に見えていない裏の取引こそが、数年後の表の現実の世界になって行くのです。

続く