手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

プリあら会11月

プリあら会11月

 

 昨日(13日)は、午前中に2人指導をして、午後は、買い物をして、その後に、久々プリンアラモード会を見に行ってみようと考えました。

 プリあら会に行こうと思った理由は、先月の大阪セッションで、お客様に、川上一樹さんと言うマジシャンが来ていて挨拶されました。聞けば東京から大阪セッションを見るためにやって来たいいます。驚きです。私は残念ながら川上さんの演技を見たことがありません。

 「近々どこかに出演されますか?」と尋ねると、「来月13日、プリあら会に出ます」。と答えました。こうしたときに、次に出るステージを持っていることは人の縁をつなげるためには大切です。

 背も高く、人当たりの良さそうな表情をしています。どんな演技をするのか興味を感じました。「それでは拝見に伺います」。と、約束をしました。

 

 さて梅が丘ホールで、7時開演と聞きましたので、6時40分に会場に伺うと、まだ入れません。7時開場、7時20分開始だそうです。まだ40分あります。

 それなら食事をしようと外に出ると、小雨が降っています。どこか近くで食べる物はと見ると、寿司屋があります。中に入ると年取った夫婦がこじんまりとカウンターだけの店をしています。それでもお客様はほぼ満席、と言っても5人。私が座る席が一つ残っているだけです。

 菊水の辛口、と書いた貼り紙があります。久々菊水もいいなと思い。早速注文します。突き出しに魚の卵が出て来ました。たらこよりまだ細かい卵を醤油で煮てあります。摘まむと酒呑みにはちょうど良い辛さです。「この店は正解かな」。

 そこでケースの中を見ると、小肌と鯵が良さそうです。両方を握りで注文しました。小さな握りが一貫ずつ来ました。「あぁ、この店は酒呑みの気持ちをよく理解している」。酒呑みは飯が多いと酒が入らなくなるため、握りを注文したがらないのです。このサイズはまさに酒呑み向きの寿司です。

 味の方は小肌はしっかり締めてあって、小さな飯の上に身を畳んで乗せてあって、工夫されています。イカと中トロを注文します。中トロは赤身とハラミの兼ね合いがいい寸法でした。勘定を頼むと1600円、酒を飲んだ上でこの値段は格安です。

 

 7時10分、会場に戻ると。まだオープンしていません。7時20分開始のショウが10分前に開かないのは問題です。「そろそろ開けたらどうか」。と苦情を言うと、ドアが開きました。別に脅したわけではありません。お客様は30人ほどでしょうか。仮設の舞台が作り込まれ、ショップが出ています。

 出演者は5組。一本目が川上一樹、シルクアクトです。出て来たシルクが手で触れるだけで色が変わったり、ブレンドシルクをアレンジしたり、素材をそのまま使わないところが好感が持てます。又表情付けも振りも、照れずにしっかり演じています。

 聞くところによると、京都のギアに出演していたそうです。しっかり演出家がいて、ダンサーや、パンとマイマーと付き合っているうちに、自然自然に舞台の素養が身について来たのでしょう。肝心のマジックはまだこれからですが、取り組み姿勢はいいと思います。

 そのあとプリあらの有志3本が出演しました。

 そしてトリを取るのが橋本昌也。先月大阪に出演したマジシャンです。私は、この人の舞台に対する真剣な取り組みに感心しました。手順構成も、マジック一つ一つのギミックや小道具の作り込みも、随分手間暇をかけています。

 こうしたことは一部の学生マジックでは熱心にやる人がいますが、どうしたものか、プロ活動をしている人に限って、細部にこだわって自分の道具を作ったり、演出にこだわったり、全体構成を考えたりと言った創造の分野をおざなりにするマジシャンが多いのです。つまり既成のマジックをそのまま演じてしまうのです。

 久々細部に至るまで自身の考えを通している人を見て、嬉しくなりました。しかもそれがアマチュア的な内容でなく、一般のショウの鑑賞に堪えられるような内容であるところが秀逸です。

 この晩は、前回、大阪で見た鞄とシールのアクトではなくトークマジックでした。つまり、大阪と東京の両方の演技を見ることで、このマジシャンのフルルーティーンを知ることが出来るわけです。

 始めにロープ手順がありました、単純な長さの変わるロープかと思いきや、ウォーキングノットや、貫通ロープ迄取り入れて、大きな手順にしてあります。30数年前ならどれも驚異の作品だったものが、今ではいとも簡単に不思議が連続して行きます。

 それだけに、不思議を詰め込み過ぎの感がありました。内容を整理して不思議を三分の一くらい削ってもいいでしょう。その分、マジシャン自身の魅力や、話の面白さや、観客の反応をもっと取り入れるなどして、お客様と友達になったなら、いい舞台が出来ると思います。

 この後、メニューをお客様に渡して、カクテルの予言、カード当て、ジャンボカードのスリーカードモンテ、とマジックが続きます。ここでも不思議のオンパレードに見えてしまいます。今回、これだけ長い時間をもらってフルショウをするなら、どこかで自己の告白が欲しいところです。「自身がなぜマジックをしているのか」。「どんな世界を作りたいのか」。イフェクトから離れて、少し心の内を語ってもよかったのでは、と思いました。流れのセンスがいいだけに残念でした。

 ラストはリンキングリング。12本リングのようですが、その演じ方はかなり違います。以前、大阪で私のリング手順のビデオ、4本、6本、9本、12本、などを何度も見たと言っていました。相当に研究家のようです。

 ご当人の演技内容は、バーノンのシンフォニーオブザリング、ジョナサンニール・ブラウンの2本リング、アダチ龍光の9本リング、そして12本リングと、かなりいろいろなところからハンドリングを引っ張って来ています。造形はほとんど見せず、イフェクトを巧く応用しています。

 かなり大きな手順に仕上がっています。然し、全体を眺めると核がぼやけています。12本リングのように、後半に音楽を使って一気呵成に畳かけて行くような迫力もありませんし、各所に不思議が散見されますが、本数の多いリングを使う以上、どこかで大きな感動を作る構成力が不足しています。自身の得意芸とするにはまだ課題を残していると言えるでしょう。

 しかし、久々に出てきた本格派のステージマジシャンです。注目したいと思います。帰りは雨がやんでいて助かりました。酒が少し残っていたせいか、それとも、いいマジックが見られたせいか、小田急線の中でうとうとして気分よく帰れました。

続く