手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

29日の大阪セッション

29日の大阪セッション

 

 前日28日のセッションを終え、千房さんのお店で打ち上げパーティー、ホテルに戻って就寝するも、翌日29日10時にスタッフ一同道頓堀ZAZAに入りました。私が入った10時には、既に5組のチャレンジャーが楽屋に入っていて、道具を組み立てていました。

 チャレンジャーは7組の予定でしたが、コレラに罹った人などがいて、最終的に5組の中から選考されました。この日は、スタッフ出演者ともども、仕事が多忙でしたので、コンテストと二日目のショウのみを中心に書いて行きます。

 

 コンテストは12時からリハーサル。審査員は千房の会長中井正嗣さん。藤山新太郎、峯村健二さん、ボナ植木さん(ボナさんは大阪の仕事の帰りで審査してもらいました)。

 

 一本目はRyotaさん、お菓子屋さん風景で、店の開店前に次々とお菓子を出してゆくストーリー。赤白のまだら色のボールが出て以降が面白い出来。紅白の飴の棒に曲がりの柄が付くところが工夫。よくある学生マジックを見たような印象。

 

 二本目は小網健義(こあみたけよし)さん。四つ玉が雪を固めたもので、強く握ると粉々になると言う発想が斬新。実際、ボールが空中で粉々になるところなど、強いインパクトがありました。但し後半になるとおなじみの8つ玉手順のようにに見え、寂しくなるのが難点。

 

 三本目はたろちゃん。黒タイツに黒ケープで、死者と対話をするようなしぐさの中でリングを演じます。演じているリングはとてもうまく、スタイルも雰囲気も良く出来ています。何となく新興宗教がかったところに神秘性がありましたが、リングは普通に進行していました。

 

 四本目はhiromichiさん。釣りに出かける格好で、大きなクーラーボックスを持って出て来ます。釣り竿が消えたり、ウキがなくなったり、大きな作り物の魚が出たり。社会人のアマチュアマジック大会に一人はいそうな演技。但し、表情が素晴らしく、場合によってはいいタレントになれる要素を感じました。

 

 五本目は、森岡哲也さん。彼はFISMの入賞者であり、このコンテストとは立場が違う人です。実際、彼の手順の作り込みは、他のメンバーとは格違いです。上手さと不思議さを両方持ち、この点では文句なく一位です。然し、道具やイフェクトを考えることに埋没しがちで、自身の世界をどうお客様に伝えるかの客観性が不足しているように見えました。そうした意味で、実際の点数では小網健義さんと拮抗。

 アイディア、道具の工夫に凝っている割には道具がちゃちなこと、世界観が見えないこと、終わり方がENDで終わってしまうことなどが審査員から指摘され、マイナス点になっていました。

 

 実際の審査結果は、一位、森岡哲也、二位が小網健義、三位がたろちゃん、千房賞はたろちゃん。一位と千房賞には3万円が渡されました。

 

 日中コンテストに時間を取られ、慌ただしく、4時30分からマジックセッションが開始。二日目は観客も多く、観客の反応も熱い歓声が湧きました。個々の出演者の演技は昨日と重なるため割愛します。

 マジシャンが8本も集まって、連日ショウをすると言う企画はコンベンションでもない限り滅多にありません。従って、マジシャンだけが楽屋に集まってディスカッションするのは刺激的で、有意義でした。もしこの企画が10日間続く公演だったら、みんな躊躇せずに出演したがるでしょう。

 すでにここにいるマジシャンたちは、自分たちの世界を作り上げています。そして、仮にありきたりなマジックを演じたとしても、決してそれをそのまま演じずに、自分の考えを取り入れて自分の形を作り上げています。

 それでなければここに出て来れないのです。お客様もそのことはよく理解されていて、一人一人のマジシャンの細かなマジックに対する解釈や工夫を丁寧に拾って楽しんでいる風でした。いいですねぇ、大阪もそうした成熟した見方をするお客様が増えてきたのです。6年間続けてきた結果がここに開花していると言えます。

 

 大成の披露のさ中に、客席にクロースアップのジョニオさんがいるのを見つけ、今年カナダで開催されたFISMで3位になったことを紹介。来場者の皆さんに拍手が送られました。何にしても努力をしている人はみんなで認めなければいけません。

 6時30分に公演終了。終了後の客席に、ジョニオさんとスクリプトマヌーバーの滝沢さんが残っていたので、少し食事でもと思い、ZAZAの隣の今井のうどん屋さんへ入りました。先ずビールで乾杯し、高級うどん店と言うことではありますが、うどん屋さんですから内容は質素です。お二人は親子丼を注文をし、私は鴨南うどんを頼みました。

 鴨南蛮は随分食べていますが、鴨南蕎麦が普通で、うどんは生まれて初めてです。今井は上品な店で、出汁がしっかり効いたつゆが売りです。何にしてもFISM受賞のお祝いを親子丼で済ませてしまうのは余りにお手軽で失礼なのですが、まだ、道具を片付けている途中に抜け出して来たので、じっくり話も出来ません。弟子やスタッフには失礼ですが、せっかく来てくれたのですから、丼物くらいは出さなければいけません。

 親子丼は見た目に鶏肉も大きなものが入っていて、しかも、卵には、温めた卵の別に生卵の黄身を溶いて追い掛けがしてあって、見た目にも旨そうでした。私の頼んだうどんは、矢張りだしの取り方が素晴らしく、関西風のあっさりとしたいい味です。鴨は焼かずに煮ただけにして乗っています。ネギも丸の太いねぎは見当たらず、全体があっさりとしていました。まぁ、大阪で食べる食事としてはいい軽食です。

 ジョニオさんは、FISM以降、海外の出演が多く、今のところはかなり忙しいようです。良いことです。ようやく光が差してきたのでしょう。上手く波に乗って、大きな活動をして行くことに期待をしています。

 私は翌日早朝に福井へ向かいます。朝が早いためこれでホテルに戻りました。福井の様子はまた明日お話ししましょう。

続く