手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

メイガスさんと食事会

メイガスさんと食事会

 

 ようやくいろいろな活動が出て来て、マジック界も忙しくなりつつあります。それは当然なことで、このままみんな何もしないのでは、マジックそのものがなくなってしまいます。コロナは多くのマジシャンを不安のどん底に陥れました。それぞれが何とかしなければ、と心に秘めて、様々な活動を始めています。

 

 12日、夕方、メイガスさんと高円寺で寿司を食べながらマジックの話をしました。春に一度、中野でジンギスカンを食べましたが、その会が継続しています。メイガスさんとしては定期的に食事会をしたいと考えているようです。メイガスさんの仲間の北原禎人さんが仕事で来れなくなり、この日は二人だけの食事会です。

 メイガスさんはイリュージョニストとして活動しています。然し、アマチュア時代が長かったせいか、マジックに関して極めて純粋で、アマチュア的な興味を持ち続けています。私と話している時も、まるっきり中学生、高校生の頃のマジック少年に戻ってしまいます。

 そうなると、私がかつて書いた、「そもそもプロと言うものは」、のコワザとスジ山の世界のような、プロに成りたがっている若者の心の葛藤の話が展開されて行きます。

メイガスさんも「そもプロ」のファンだったようです。そのため、コワザ君があちこちの店で食事をしながら、様々なマジックの話を聞く、あの世界を是非とも体験して見たかったようです。

 然し、メイガスさんは既に立派なマジシャンです。私が何かを言って教え導く事なんてできません。ディアゴスキーニでも記録的なマジック専門書の販売を達成しました。

 初版で16万部達成と言うのは、マジックの指導書としては記録です。内容も、とても優れたもので、現在も継続しています。何にしても狭いマジックの世界を広く、一般に開放した功績は大きいと思います。

 イリュージョンのステージを見ても、極めて洗練されていて、一つ一つのマジックに当人の工夫がなされていて、既製品をそのまま演じていないところがその才能を感じさせます。

 話をしていても、マジックに対してはストイックな人で、常に真剣にマジックに向き合っています。ショウのないときは、アトリエに籠って、一人で道具の修理をしていると言います。ある意味カッパーフィールドによく似ています。

 技術屋の性格が強いようです。道具にまみれているのが幸せなのでしょう。但しこうしたタイプの人は、とかく舞台に出ると地味で、マジシャンとしては成功しない人が多いのですが、メイガスさんにも、カッパーフィールドにも、共通しているのは、独特のおしゃれ感が漂っています。私とすれば、彼がどこで舞台人としての雰囲気を身に着けて来たのか、その点が興味です。それは追々わかることと思います。私に取っても貴重な仲間です。

 

 私としては、20年前に「そもプロ」を書いたことで、どれほど交流の輪が広がったか知れません。「そもプロ」は一般書店でも販売されましたので、多くの読者が付きました。マジシャンだけでなく、俳優志望の人も、ジャグリングの人も、随分読んでくださっています。

 私はしばしば、突然駅のホームで、「藤山さんですか、僕は藤山さんの書いた『そもプロ』のファンなんです。サインを頂けますか」。などと言われることがあります。中には、手紙が来て、「一度『そもプロ』の疑似体験をさせて下さい。交通費、お食事代は私の方でお支払いいたします。どこかいいレストランの場を設定して、私に説教してください」。などと言って来る人があります。その人は、マジシャンに憧れつつ、今は会社の経営者となって、活動している人だったりします。

 別段私は、人を見ると説教しまくるような人間ではありません。むしろ酒を飲んでいる時は余りマジックの話はしませんし、相手に説教するときは、決して酒を飲んで意見をしたりはしません。それは相手に対して失礼だからです。

 ただ、疑似体験となると別です。良い食事をして、いい酒を飲みながら、何となくそれらしい立場に立って相手に話をすると、相手の若い社長は大喜びで、「そうそう、これこれ、この世界が僕の子供のころ読んでいた『そもプロ』の世界だ」。などと言って感動してくれます。こうした人が今となっては私のお客様になっています。変わった贔屓の掴み方です。

 メイガスさんもその一人と言えます。こうしたファンは今も根強く存在します。言ってみれば私の弟子などはみんなこうした人が凝り固まって弟子入りしてきます。弟子にならないまでも、私の「そもプロ」を読んで、マジシャンになろうとしている人がいます。メイガスさんに「現在進行形でプロに成ろうとしている若者がいますんで、ここに呼びましょうか」。と言うとメイガスさんも「会いたい」と言いましたので、ザッキーに連絡を入れ、すぐに呼び出しました。

 寿司屋には2時間もいるので、場所を変え、高円寺のイタリアンレストランに場所を移しました。ザッキーは仕事を終え、急ぎやって来ました。プロマジシャンを目指し、来年1月はいよいよザッキーを中心としたショウ構成の舞台を考えています。うまく行くといいのですが、彼自身まだ演技に決め手がないことを心配しています。

 私はこのところ、彼には独特のキャラクターが出て来ているように感じますので、何とか行けるのかなぁ。と思います。まぁ、物は試しですから、1月の自身の会をやってみて、お客様の反応を見て見たらいいと思います。

 「できたら、メイガスさんを招待して、ショウを見てもらったらどう」。と言うと、メイガスさんも興味があるようです。そうならぜひ見てもらったらいいと思います。いいつながりを持つのは大切です。

 ザッキーはメイガスさんとの初対面で終始緊張の様子でした。しかしいずれプロとして活動して行くなら、多くの先輩と付き合って行かなければなりません。少しでも仲良くなって支援してもらえるように、今から人脈を広げておかなければ成功に結びつきません。この晩は赤ワインをひと瓶、3人で飲み干してしまいました。マルガリータのピザと、ハラミの牛肉をつまみながら、ひたすらマジックの話をしましたが、こうした食事の場も楽しいものだと思いました。

 10月14日の大樹の東京公演の感想は明日書きます。

続く