手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

日本奇術 西洋奇術 6

日本奇術 西洋奇術 6

 

 この20年間で困った問題を2点申し上げます。

 30代から40代にかけて、私はいくつもの賞をいただきました。以降、私の手妻に対して、余り見当違いな批判をする人はいなくなりました。ある意味私の演じる手妻が、手妻の基準として捉えられるようになったようです。

 それはそれで有り難いのですが、平成10年以降、私の演技をそのままパクって演じるアマチュアさんや、セミプロさんが増えて来ました。

 無論、私から直接習ったのならばそれでよいのですが、全く会ったこともない人が、私の演技をテレビなどで見て、そっくり真似て演じています。それも内容をよく理解していないで、見当違いな演じ方をして、癖ばかり真似て演じているのを見ると、「何十年経ってもマジックの社会はこんな人ばかりが育つんだなぁ、手妻は永遠に理解されない世界だなぁ」。と痛感します。

 

 私は20代の頃から、指導ビデオを熱心に出していました。純粋にマジックの普及につながるだろうと言う考えでしていたのです。然し、平成10年以降は、新規のビデオ制作も、旧作の販売もやめました。

 どんな人が私の演技を演じるかもわからないまま、不特定多数の人に種仕掛けを教えることが本当のマジックの普及になるのかどうか。そもそも、種仕掛けのみを教えることがいいことなのかどうか。そんな風に考えると、ビデオを販売することはむしろ間違いだと言うことに気付いたためです。

 結局、昭和20年代以降、アマチュアマジッククラブが増え、マジックショップが増え、通信販売が増え、今ではネット販売が普通になり、誰でもマジックが覚えられるようになったことで、マジックは一見発展してきたように見えますが、それはマジックの種仕掛けを金に換えただけではなかったのですか。

 マジックが普及したのではなく、種仕掛けが普及しただけなのではないですか。種仕掛けの普及の裏には、道具の価格の暴落、指導DVDの価格破壊、ネットでの種明かし。コピー、盗作の氾濫。演技の無断使用。マジックの世界はもっと知的で、高尚なものであるべきものを、今は見る影もなく堕落しています。

 そして、理解者を減らし、観客を減らし、マジックのコンベンションは種の売り買いの場になってしまっています。

 私は道具の販売も、指導も否定はしません。道具がなければマジックは演じられませんし、いい道具を作ってくれれば多くのマジシャンが助かります。また、指導を否定しては次の人が育たなくなります。然し、しっかり人を見て、信頼できる人に指導し、販売しなければマジックの世界は悪くなるばかりだと思います。

 そこで、直接指導をして、教えることに専念するようになりました。藤山コレクションと称して、手妻の道具も製作していますが、これも、別段道具の販売を目的としたものではなく、指導の一環として出しています。習わずに道具だけを購入することは出来ません。飽くまで指導を受ける人を対象としてお出ししています。

 また、何らかの理由で私の手妻の道具を手放すときには、私の方で買い取るようにしています。理解のない人の手に渡って、更にはコピーされることを恐れてのことです。単なる物売り買いではなく、手妻の価値を理解してもらいたく、そうしています。

 今の時代はよくよく相手を見て対応しないと、とんでもないことになります。売ること、教えることが目的ではなく、手妻の品格を守ることが大切なのです。

 

 もう1点は、この20年、急激に手妻の価値が認められて、古典芸として扱われるようになりました。勿論、古典芸であることは間違いないのです。アマチュアさんやセミプロさんが手妻を演じることは何ら問題ではありません。

 但し、それを市役所や、公共団体の公演など、公の場で、古典芸能の継承者と称して演じないでください。手妻をきっちり継承しているなら、誰から習ったか、という点が一番重要なのです。きっちり継承がなされているなら、それは古典芸能、或いは手妻の継承者と認められます。

 然し、マジックショップで種仕掛けを買ってきたり、DVDを見て稽古したり、自分自身で勝手に工夫をして演じている人は古典の継承者ではありません。

 ましてや、創作和妻などと称して、一切の手妻が入っていなくて、誰からも習わずに勝手にこしらえ上げたマジックは、手妻、和妻ではありません。それは日本風マジックです。

 演じる内容の中に、誰から習ったか、がはっきりしたものが入っていて、それをアレンジしたり、創作を加えたならそれは手妻として認められます。

 その習った人が、アマチュアマジッククラブの会長さんであるとか、マジックショップのオーナーであるとか、と言うのでは継承になりません。

 更に、そのマジッククラブの会長さんや、マジックショップのオーナーさんがそもそも誰から習ったのかが問題です。ルーツをたどって行くと、マジック用具の1枚の解説書になってしまうのでは古典の継承とは言えないのです。

 但し、アマチュアとして、手妻をされるなら、どんな習い方をしても結構です。然し間違っても、プロフィールに、「古典芸能継承者」「伝統的な和妻の演技者」などと書かないでください。そもそも人から継承していないのですから、継承のない手妻、和妻は手妻ではないのです。

 伝えられた内容を持たない人が勝手に伝統を詐称してはいけません。そこがあまりに安易であることが手妻の世界を悪くしているのです。

続く