手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

鳥獣戯画

鳥獣戯画

 

 昨日(11月15日)は、昼に踊りの稽古に行き、一度自宅に戻ってデスクワークをして、夜に日本橋劇場に行き、邦楽の新曲発表会を聴きに行きました。

 踊りは「江戸の初春」と言う、短い長唄物を稽古しています。気持ちのいい踊りですので、年内に仕上げたら、正月の玉ひででご祝儀に踊ってみようかと思います。

 私が人前で踊ると言うことはめったにありませんが、たまにはご愛敬でいいと思います。特にお座敷の芸能は昔からそんなことが頻繁にありました。落語家などは今も座敷に余興で一席語った後に踊りを踊る人がいます。その伝統を生かして私もやってみます。

 

 邦楽の発表会は、先月の私のリサイタルの時に演奏をしてくれた、鳴り物(打楽器)奏者の、蘆慶順(ろきょんすん=韓国語読み=韓国系日本人)さんからチケットをもらいました。慶順さんは芸大で鳴り物の教授をしてらっしゃって、私とは十数年前の学校公演以来ずっと演奏をして下さっています。

 というわけで、多くは芸大出身の演奏家が並んで新作音楽を演奏いたします。

 日本橋劇場は私もたびたび利用致しますが、和の芸能を見せる場所としては理想的な劇場です。サイズも350人程度ですし、所作板も花道も作ることが出来ます。

 

 鳥獣戯画は、ご存じのように、京都栂尾高山寺(とがのおこうざんじ)にある国宝の絵画です。絵画と言うより漫画に近く、のびのびと動物の絵が描かれていて、ウサギとカエルが相撲を取っている図など、見たら誰でもすぐお分かりになる有名な絵です。

 鎌倉時代のものらしく、これが日本の漫画の原点と考えて間違いないと思います。作品は長い巻物で描かれていて、何やらストーリーがあって進行しています。ウサギ、カエル、サルが、人物に成りすまして色々なことをしますが、全四巻の後半になると竜や、麒麟や獏が出て来たりします。作者すらも見たことのない動物を描いたことは、当時の人にしてみれば想像上の世界で、夢溢れる絵画だったのでしょう。

 

 その作品を邦楽演奏で作り上げたわけです。舞台はひな壇が三段になっていて、上段が現代邦楽の皆さん。中段が長唄連中と、義太夫連中。下段が、鳴り物の皆さん。

 幕が開くと、雅楽風な厳かな始まり方をし、徐々に十七弦琴などが入って現代邦楽になって行きます。前半の演奏が終わると、左右から金屏風が出て来て、現代邦楽の琴や三味線打楽器の皆さんはお休みになります。

 次に長唄義太夫の掛け合いがあり、全体はこの掛け合いで進行します。ウサギとカエルの相撲馬風景や、ウサギが弓矢を射る風景。川遊びをする猿とウサギ。次々と長唄の曲など使いながら、鳥獣戯画を表現します。西垣和彦師の語りが重厚で素晴らしく、山口太郎さんの高音の唄い口も健在です。慶順さんも鳴り物で活躍していました。

 国宝の娘義太夫連中も、ご高齢ながら、面白い演奏でした。この先もうこうした組み合わせは二度と聴けないかも知れません。

 ひとしきり純邦楽を演じた後、屏風が取り払われて、現代邦楽と純邦楽がコラボして大団円となって終わりますが、お終いが、大太鼓をティンパニーのような使い方をして、壮大な終わり方をします。これではどう聞いてもマーラー交響曲になってしまいます。壮大ではありますが、邦楽はこうした世界を目指しているのかなぁ、と思うと聞く側としても邦楽の将来が心配になります。

 日本を代表する邦楽の皆さんが20数名舞台に乗って、華麗に新曲発表なさったことは素晴らしいことと思いますが、邦楽が何を目指そうとしているのかが混沌として理解しがたいように思いました。

 音楽そのものは様々な邦楽が聴けて楽しいものでしたが、全体のくくりが西洋音楽になっていました。これも時代の流れでやむを得ないことなのでしょうか。

 元NHKのアナウンサー、葛西聖司さんが愛情あふれる解説をされていたのが好感を抱きました。

 

 せっかく人形町まで来たので、一杯飲んで帰ろうと、近くの焼鳥屋に寄りました。焼き鳥を3本、さつま揚げ、揚げ出し豆腐、白魚(しらうお)の刺身を肴に、ハイボールを二杯呑みました。

 店が勧めた白魚の刺身は、透き通った新鮮な白魚を生姜醤油でいただきました。これが実にうまかったです。身そのものはたいして味のあるものではありませんが、軽い歯ごたえが面白いと感じ、酒呑みには有り難い一品です。

 次に、さつま揚げの小さなボールが7つ出て来ました。直に揚げたさつま揚げですがこれはいい出来です。

 結果とするならこの店は正解でした。焼き鳥も、皮とつくね、ネギ焼を頼みましたが、たれはしつこさがなく、どれもいい味です。揚げ出し豆腐まで合わせてはずれがありませんでした。店はかなり混んでいましたが、店の親父が、カウンターの奥から私の顔を心配そうに見ています。

 こうした店に入ると、いつでもそうですが、私は、何か料理の研究家の様に思われてしまいます。どうしてそう感じるのかは知りません。いつも私の食べている表情を親父が心配そうに見ています。

 私が料理の研究家ならそれは正解ですが、私はマジシャンです。何のことはないただの酒呑みなのです。

 どうも私は、相手に必要以上の圧迫感を与えるような外見をしているようです。少なくともそれで良かったことは人生で一度もありません。まったくマイナスな性格です。

 それでもハイボールのお陰で気持ちよく帰れました。幸せな一日でした。

続く