手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

お道具製作

お道具製作

 

 一週間ほど前に連理の曲のお道具が10組届きました。連理と言うのは、半紙をハサミで切って御幣(ごへい)を作る手妻です。これを演じるためには、鋏、扇子、マッチ、小皿、水の入ったグラス、茶わんなど、様々な小道具が必要です。

 これらをいちいちテーブルに並べたり、かたずけたりするのは大変な手間のため、一つの箱に収めて、一回で取り出して、演技が済んだらまたしまえるようにしています。

 これが私の流派で使っている連理の曲の一式です。箱には木目込み細工の装飾がしてあって、結構凝った造りになっています。それを10セット依頼したものが仕上がって来たのです。

 いつ生徒さんが習いに来るかはわかりませんので、常になくならないうちに注文しています。

 

 それから卵の袋が無くなってしまいました。これも私のところでは人気の作品ですので、一か月前に、仕立て屋さんに50個注文しました。それが昨日(11月16日)に届きました。

 袋卵は習いたい生徒さんが多いため、指導に欠かせません。私の作品の中ではよく出ます。それでも一年に10人指導すればまずまずです。そうなると、50個が完売するのは5年後です。先の長い話です。それでも仕立て屋さんに注文するとなると5個10個は頼めませんので、50個注文します。

 私のところでは、木工所が3件。塗師屋さん、銀細工師、飾り職人、椀屋さん、布地の仕立て屋さんなど、あちこちの職人に道具を依頼しています。この人たちの仕事のお陰で手妻もマジックも安心してできるのです。

 ただしこのところどこも皆さん高齢化して、店をたたむところが出て来ています。鉄工所などはもうどこもやってはくれません。それまでゾンビボールやリングなども作ってもらっていたのですが、今では金物はもう作れません。そうなるとこの先、金輪の曲も、12本リングももう作れないのです。

 くす玉もミリオンフラワーも作る人がいなくなり、入手不可能になってしまいました。私が、思いっきり大量に注文してあげれば制作者も安定した生活が出来るのでしょうが、私の注文ではあまりにわずかです。この先いい仕事をする職人がどんどん消えて行ってしまうのが残念です。

 

 私は30代くらいから、出来ることならからくり細工を復活させて、舞台に取り入れたいと考えていました。からくりとは、ぜんまい仕掛けで動く人形のようなものですが、古い文献を見ると、かなり不思議な現象をからくり細工でやっているのです。

 いろはの文字を当てる人形は、傘を広げて、傘の先にいろは48文字のが一文字ずつ書かれた紙がぶら下がっています。人形が真ん中に立っていて、お客様の注文により、文字を指定すると、その文字の下で手を上げて文字を当てます。

 

 道成寺清姫の人形が鐘を撞く、と言うからくり人形があります。お客様の注文によって、3回とか、5回とか言うと、その数だけ鐘を撞きます。鐘は小さいながらもお寺にあるような鋳物で作られていて、清姫の人形が手に撞木を持っていて、鐘を鳴らすのです。

 いい人形師に注文して、鐘も鋳物でしっかり作ったら見た目にも素晴らしいお道具になるでしょう。但し、費用もけた違いなものになると思います。一組400万円とか500万円くらいかかるかも知れません。

 それでも手妻をする者としては、一つ、二つくらいの作品は持っていたいと思います。どなたかこの話に一口乗りませんか。三人くらいで一緒に作ればかなり安くなると思います。世界でたった三つだけのからくり細工を作るのです。十分価値あると思います。

 但し、からくり細工の製作者がいなくなってしまいました。以前は何人かからくり細工を作っている人を知っていたのですが、今はまったくわかりません。何とか一から製作者を探して、江戸のからくり細工を復活させたいと思います。

 そうした製作者と話をしているうちにまた新しい手妻が生まれるかも知れません。見た目は思いっきり古風に作られていて、まるで三百年も四百年も前からあったように見えて、然し、作品はまったく新作の手妻が出来たらどんなに面白いかと思います。

 種も、決してぜんまい仕掛けとは気付かれないような凝った造りにして、見た目はどうなっているのか見当がつかないような細工だったら面白いと思います。

 そんな手妻をこの先いくつか作って行きたいと考えています。

続く