手妻師 藤山新太郎のブログ

1988 年、1994 年に文化庁芸術祭賞、1998 年に文化庁芸術祭賞大賞を受賞。2010 年には松尾芸能賞 優秀賞を受賞。 江戸時代に花開いた日本伝統奇術「手妻(てづま)」の数少ない継承者 藤山新太郎のブログ。

ガク!の書

ガク!の書

 

 一昨日、カズカタヤマさんから小冊子が届きました。タイトルが、「ガク!の書」何のことだかよくわかりません。サブタイトルが、「親父マジシャンはかく語りき」。とあります。カタヤマさんは長い間若手だと思っていましたが、今では親父マジシャンになってしまったのですね。そうなると私は一体何者なのでしょう。

 世の中に親父マジシャンと言うポジションがあるのでしょうか。あまり聞きません。あったとしても、大して収入にはつながらなそうなポジションです。金っけの匂いがしません。かつて言われた窓際族みたいなものでしょうか。勇んでなるポジションではなさそうです。

 中身を見ると、右ページには、お得意のイラストでユージンバーガーのようなマジシャンがマジックを見せている漫画が描かれています。左ページにはそれぞれ有難いご宣託と言うか、愚痴と言うか、今のマジシャンへの不満と言うか、ごちゃごちゃといろいろなことが書かれています。

 ある程度の年齢になったなら、余り愚痴めいたことは言わない方がいいと思い、私も常々言葉を慎んでいるのですが、カタヤマさんも年を取ったのかなぁ、と思いつつ読みました。翌日(5月30日)、お礼の電話をしました。

 思えば半年くらい話をする機会がなく、久々電話をして、30分ほど四方山話をしました。たまに雑談をするのは楽しいことでした。

 「ガク!の書」を見ていると、愚痴ばかり書かれてあるので、こんな本を書いて売れるものかどうか、尋ねてみると、実は本には、少し工夫がされていて、漫画にスマホを当てると、画像が出て来て、マジックの演技が始まり、更にはその解説が入っているそうです。それならレクチュアーDVDと同じです。

 紙の媒体は売り上げが伸びないために、こうしたアイディアを考え出して、指導のDVDを出すように工夫したのだそうです。とても私では考えつかない発想です。まだカタヤマさんは若いマジシャンとつながる道筋を持っています。

 いいですね。販売価格は2500円だそうです。ご興味ある方は、片山工房にお尋ねください。但し私のようにガラケーの人は画面が出て来ません。知らず知らずのうちにガラケーなどを使っているものは、世の中の流れから切り離されて行くのでしょうか。片山さんのレクチュアーDVDからも見放されてしまっています。

 「だから困る」。とは思いませんが、せっかくもらった小冊子も、カタヤマさんの愚痴だけ読まされるのではあまり面白くはありません。まぁ、私を対象とした書ではないのでしょうからどうでもいいことです。それでも結構売れているそうです。カタヤマさんの「ガク!の書」がこの先のマジック界の啓蒙に役立ち、物のわからない若いマジシャンを立派に更生せられることを願っています。

 

 私自身はもうレクチュアーと言うものからは活動が離れてしまって何十年も経ちます。少数指導は今も続いていますが、特定の指導場所以外でのレクチュアーは全くと言っていいほどやらなくなりました。秋葉原で開催している、エクセレントコース イン マジック(6月は11日18時45分から。音頭ビル三階)では久々一般指導をしていますが、それは例外中の例外です。

 かつては日本中熱心に指導をして回っていました。教えることは好きなのですが、かつてのレクチュアーに来るアマチュアさんの熱気を思うと、今はどうもレクチュアーと言う形態が過去の物のように感じます。

 本当に習いたい、学びたいと願う人を対象に指導するなら効果はあるでしょうが、コンベンションの中で、無料のレクチュアーなどを開催しても、どうもかつての活気あるレクチュアーにはならないように思います。

 

 今の時代、コンベンションも、レクチュアーも、マジシャンがアッパークラスの生活が出来るような活動場所にはなっていないように思います。マジックショップも、ディーラーもマジシャンも売り上げを落としているように見えます。

 その理由は、第一にアマチュアの数が絶対的に減っていること。次に指導料、DVDの価格、グッズの価格も20年前と比べると大きく下がっていること。販売しているグッズも、私が指導していた40年前なら、ビデオ一巻が1万円しましたが、今ではDVD自体が2000円、2500円で販売されています。グッズも同様に2000円、2500円です。総体に値崩れしています。

 こうした状況では優れたアイディアを持った人材がマジックに集まっては来ないのではないかと思います。マジックをすることで豊かに生きて行くことが保証されないからです。何とかいい人材をマジック界に集めたいのですが、才能ある人なら、それなりに収入になるようにしなければ、良い人材は集まらないのです。今のマジック界では才能に見合う生き方を提供できる場がないのです。

 

 尤も、コンベンションは金儲けの場所ではありません。本来は実力ある、マジシャンが後輩を育てる場所なのです。それがいつの間にか、レクチュアーと言う名の、ものを売る場所、ノートを売る場所に変わってしまい、実際そこで大きな金を得るマジシャンがたくさん生まれる場所になってしまったのです。

 それは他人事ではなく、私などはその最たるものでした。あるマジック団体でレクチュアーをした時は、持って行ったレクチュアーノート、300冊は一瞬で完売、関連グッズ50個、ビデオ50個も完売しました。今から40年も前に一回のレクチュアーの売り上げで150万円ありました。150万円は当時のサラリーマンの年収を超えています。売上金は無造作に紙袋に詰め込まれ、ぱんぱんに膨らんだ袋の口をガムテープで止めて渡されました。それが28か29歳の話です。昔の話をしても意味はありませんが、余りに安易に儲かってしまう世界でした。

 でも、それがいい時代だったのかどうか。今思うと先祖の財産(過去のマジック界の貴重なアイディア)を金に換えただけだったのではないかと思います。そんなことを繰り返すうちに、マジック界は本来肥沃だった土地が徐々に痩せ始め、やがてアマチュアは物を買いきれなくなり、ディーラーは値段を下げても売れない状況に至ったのではないかと思います。

 マジシャンがしなければならないことは、もっと違うところに活路を見出さなければ、この先もっと悪くなるでしょう。明日はそのことをもう少し詳しくお話しします。

続く